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18話「そっか……勇者になったんだ私」

90分後、アリスはルビアに呼び出されて王女ヘレナの下に戻った。


「ちゃんと休めたかしら?」


「……なんか頻繁にメイドさんが行き来してました」


「……なんか城がキャーキャー騒がしかったのはその所為なのね。 まああとで言っておくわ」


そして、早速勇者召喚が始まった。


最初に司教っぽい人がうんたらかんたらと偉そうなことを述べ、王女も世界平和がどうとか言っていた。


また召喚は一般公開されるのだと思っていたが、全く誰も足を踏み入れられないくらいの厳重さで部屋を閉ざしていた。

中にいるのは本当に一握りの偉い人たちのようだ。


「……さて、じゃあ召喚士。 勇者召喚を」


「は、はい!」


アリスは呼ばれると、卒業式ばりの返事をして前に出た。


そして、懐から杖……雑貨屋で安売りしてた先にチョークのついた棒を取り出し、地面に頭を頼りに召喚陣を書く。


それは、星型とルーン文字を書いたような普段の召喚陣ではなく、重ねた雪の結晶の上に奇妙な文字を一つ大きく書いたような召喚陣だった。


『奇異なる運命を辿りし者よ。 この世の理を引き裂き、我が呼び出しに応えよ』


ふと自然に出てきた言葉、我ながら凄く痛いと思う。


そして、ゆっくりと部屋が召喚陣の光に包まれて、数秒後には目が開けられないほどにも光が強くなった。


そして、突然急な突風と同時に光が消え去り、召喚陣の上に寝そべる人間に視線が寄った。


急な空間移動の所為で気を失っている様子の女性。 そして、アリスも突風に飛ばされて気を失ってしまっていた。


「王女さま!」


「私は大丈夫。 ……召喚はどうやら成功したようね」


とりあえず王女は2人を客間で寝させるように指示した。


……

…………


数分後


「……ぅぅん」


「あ、お目覚めになりましたか!?」


「ちょっと大声やめて……ここどこ」


従者は花笠に現在の状況を説明した。


「そっか……勇者になったんだ私」


「意外と落ち着いてるんですね?」


「まあ召喚前に……そのことはいいか。 でも、もうその儀式とか色々いいの?」


「いえ、まだ国王から剣を渡したり色々あるんですが、まだ勇者さまもお疲れでしょう。 それに召喚士さまもまだ目を覚ましていませんから」


花笠は召喚士という言葉を聞き、やはり自分が召喚されたという実感と自分以外に迷惑をかけてしまったという少しばかり申し訳なさを感じた。


「その召喚士さまって今どこ?」


「はい、お隣のベッドでお休みになられてます」


花笠は従者に支えられながら身を起こし、ベッドを覗いて驚いた。


「ちょっと! まだ子どもじゃないの! なんでこんな年端もいかない子に任せたの!?」


「す、すいません! この世界で召喚士がこの子しかいないものでして……」


「そ、そうなの……まだ幼いのにこんなことに巻き込んで……ん?」


花笠は気絶しているアリスの顔を見ると、ふと何かを思い出した。


「どうかしましたか?」


「この子、どこかで見覚えがあるんだけど……。 気のせいかしら」


「さあ……この召喚士さまに関してはまだ分からないことが多いので、なんとも言えないですね……」


「そう……」


花笠はアリスの頭に触れようとスッと手を伸ばしたその瞬間。

アリスの瞼がパチリと開いた。


「わわっ! 起きた!」


「召喚士さま! お目覚めになりましたか!」


「イテテ……。 ここは……そっか勇者召喚で吹っ飛んで……」


アリスは首を捻ると、タイミングよくバニラが窓から入ってきた。


「あんた目覚ましたのね。 ほら、王女から薬頼まれたのよ」


「ごめんね、ありがとうバニラ」


「別に……。 ところで、その勇者とかいうのも目を覚ましたのね」


「えっ?」


そこで、アリスはようやく花笠に気がつき、寝ぼけながら挨拶をした。


「すいません勝手ながら召喚させて頂きました……」


「え? あ、いや! 別に何も大丈夫です」


「……っ!? 花笠っ!?」


「えっ?」


花笠の名前をつい言ってしまったアリスは、誤魔化すように目を背けた。


「あれ? 今確か私の名前を……」


「キノセイキノセイデス」


「……怪しいわね。 ちょっとショタ! 名前聞いてないんだけど」


「ナノルホドノモノデハ」


花笠は従者の止める暇もなくアリスの胸ぐらを掴み持ち上げた。


「おなまえ。 おしえてくれる?」


「……ア、アリス」


「……」


「……ミラジーノ」


気がつくとアリスは強烈なデコピンを食らわされ、また気絶していた。


*****


数分後、王女の前に戻った二人。


何故かアリスのおでこには絆創膏が貼られていたが王女は何も聞かなかった。


「……つまり勇者と召喚士の二人は知り合いなわけ?」


「……もっと感動的な再会だったらよかったのに。 ってかなんで幼体化してんのアリス」


「ごべんなざい」


「いや、もう謝らなくていいから……。 で、王女さまだっけ? 私は何すればいいの?」


花笠はそう言うと一つ頷いて、玉座の後ろから剣を一本取り出した。


「これで世界を安定に導いてほしいの」


「……えっとモンスター切ればいいの?」


「……あーそうじゃなくてね……。 わたし的には戦争は負けてもいいから早く終わらせたいわけ。 でも、負けると負担かかるじゃない。 だから和平したいと思ってるの」


王女が言うには、その和平のためには邪魔する奴が人もモンスターも多すぎるとのことだった。


「つまり、そいつらを制圧すればいいのね」


「そういうこと。 じゃあ剣受け取って」


花笠は頷くと、人の腕ほどある洋剣を軽々と手に取った。

そして、突然片手で刃をなぞるように撫でた。


「あー、えっと確かこうすると」


「花笠! 切れちゃうよ!?」


「うるさい! 黙って見てなさい!」


すると、剣から光が泡のように出てきて花笠の体を包み込んだ。 そして、泡が弾けると花笠の姿が再び現れた。


……4〜5歳ほど成長した姿で。


「くっ……ちっちゃいわね……」


「な、なななななななななななっ!!!??」


「ええっ!? どういうことなの!?」


「王女さまも知らなかったの?」


花笠は制服ボタンやスカートを緩めたりしながら、説明をした。


「この剣は選んだ人間のステータスの上昇……まあつまりは身体の成長を促進する能力があるの。 召喚前にちょっと立ち寄った場所でそういう説明受けてたんだけど……どうやら知られてなかったようね」


「……」


「何よ、アリス」


「なんか……ビッチい……」


そう言われ花笠は鏡を見る。

そこには、制服をはだけさせて成熟した身体を惜しげもなく晒しており、上下ともに下着をモロ見せにしていた花笠が映っていた。


「な、なに見てんのよぉっ!!」


「見てない見てないぃっ!!」


如何にも殴りかかりそうな形相の花笠にアリスは叫び、許しを請うた。


「……ルビア、勇者に合うサイズの服用意してくれるかしら」


……

…………


花笠は成長に合わせた服に着替え、王女との話が再開された。


「それで勇者にはとりあえず剣が渡せたから良いとして……。 召喚士に何かあげたいんだけど何が欲しい?」


「えっ……いや、急に言われましても。 というか、なんで僕に?」


「もちろん召喚の手当てというのもあるけど、以前パーティクエストで未開拓の場所のボスモンスターを退治してくれたでしょ? 本当ならパーティ全員に上げたいところだけど直接渡すのは大変だし」


「……そ、そうですか。 でも別に僕は」


言い終わらないうちに言葉を発したのは意外にもバニラだった。


「じゃあ家ちょうだい」


「……家?」


「ちょっとバニラ!」


「いいのよ! この際もらっときなさい! そもそも前に拠点欲しいとか言ってたのは誰よ!」


バニラの言葉に対して何も言えなくなり、アリスは「むぐぅ」と唸ったような声を漏らした。


「えっと……拠点?」


「は、はい。 僕は別に旅に出るつもりはないですし、それに前まで宿を借りる感じでしたから迷惑かけられないと思いまして……」


「……ふーん、アンタも大変だったのね」


花笠が改めてアリスに向けて感嘆の声を上げると、ヘレナ王女は思いついたように答えた。


「そうだ。 じゃあ王宮管轄内にある使ってない屋敷あげる。 ルビア、いいわよね」


「ええ、あのままで1年経ったなら取り壊す予定でしたから構いません」


「や、屋敷ですかぁっ!?」


「良かったじゃない。なに? 『異世界に行ったら豪邸もらった件』ってやつ?」


花笠が適当なことを言っていると、まさかの言葉が王女から発せられた。


「何言ってるの、勇者も宿ないんでしょう? 同居したらいいじゃない」


「……え?」


「べ、べべべべべべ別に私勇者だし!! 勇者といえば旅出ないとだし!!」


「といっても具体的な目的はないんだし暫くは一緒に暮らせばいいじゃない。 元々見知った仲なら尚更、別に同じベッドで寝るわけじゃないんだから」


王女の「同じベッド」という言葉に顔を真っ赤にして黙る花笠。

そこに声をかけたのはアリスだった。


「花笠、一緒でもいいじゃん。 ただのルームシェアだよ。 気にすることないって」


「……そ、そう。 うん、わかった」


こうして花笠はしぶしぶだが同棲することを承諾した。

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