17話「とりあえず明日から大変だなぁ……」
森を抜けたアリスは我に返って、シルビアから飛び降りた。
「ご、ごめんシルビア!」
「……もうちょっと乗っててもいいのに」
「そ、そういうわけにはいかないよ」
「うぅ……まあマスターの可愛い一面見れたし、よしとするか」
そう言うとシルビアは光に包まれると、そのまま姿を消した。
「出っ放しでいいのに」
「……でもそれだと僕たちが困ると思ったんじゃないかな?」
アリスが指差した方向にあったのは、巨大な屋根がはみ出た、城壁に囲まれた大きな街だった。
*****
ーー王宮。
「王女さま、ただいま召喚士が王都に到着した模様です」
「あらそうなの。 城には来たのかしら?」
「いえ、今は旅路の疲れがあるので明日いらっしゃるようです」
「……? ふぅん、そうなの……」
王女は不思議に思った。
少なくとも彼女の世界では、任務で来た場合は真っ先に城に向かい、国を治める王族へ挨拶するのが常識だ。
さらに、その時に王宮の空き部屋を宿泊先として提供することが普通なのだが、王宮よりも宿屋を先に選んだことを不思議だと感じたのだ。
「(このくらい国中どれだけ田舎だったとしても常識としてあると思っていたのだけど……)」
「いかがなさいました?」
「……ううん、なんでもないわ」
*****
「安い宿見つかってよかったね」
「ギルドから旅資金出てるんだからいいところ泊まればいいのに」
「そういうわけにはいかないよ」
自部屋に荷物を置き、ベッドに倒れこむアリス。
安い宿とはいえ、ベッドと洗面、風呂トイレ付きなので国の中心らしい発展具合が感じられる。
「とりあえず明日から大変だなぁ……」
アリスは鞄を一瞥しながら呟く。
正装として白いローブをギルドから渡されているのだ。
とはいえ下に学ランを着ているので、心配していると「異世界人らしくて面白い格好だ」と笑われた。
まあ王都も変な格好の人ばかりなので気にならなかった。
「そういえば自分の召喚獣にも約束かなんか言ってたでしょ?」
「あっ……そうだった……。 とりあえずそれは明日終えてから一人ずつ話すよ」
でも勇者召喚なんて僕に出来るのかな。
正直不安だなぁ。
*****
「……ここはどこなのかしら」
『気がつきましたか』
「……だれ?」
誰もいない白い空間で花笠は一人尋ねる。
『冷静なんですね』
「前に衝撃的なことがあってね。 もうアレ以来このくらいじゃ驚かなくなったわよ」
『そうですか。 私は世界の創世神ティルスと申します』
「……ふぅん。 で何か用なわけ?」
淡々と会話を続け、あくまでペースを乱さない花笠にティルスは少しばかり感心した。
『突然ですが、貴方はもうすぐ別の世界で勇者として召喚されます。 召喚士には後に召喚法を伝えます』
「そう」
『その世界で貴方には……』
「世界を平和にしてほしいとかそう言うんでしょ、どうせ聞き飽きたテンプレ」
突き放すように独り言のように呟いた花笠の言葉にティルスは黙り込んだ。
「……で? 具体的にはどんなことすんのよ」
嫌がると思っていたティルスはまさかの反応に、つい逆に尋ねてしまう。
『……断らないのですか?』
「断れるの?」
『いえ、無理です』
「でしょうね。 で、どうすればいいわけ? 魔王の首でも天守閣に飾ればいいの? それとも魔界と人間界を征服して無理やりにでも政治安定させる?」
殺伐とした花笠の予想に対し、ティルスは言いにくそうにしながらも、
その後はアリスに言ったときと同じように答え続けた。
*****
翌日
「ふぅ……ドキドキするね」
ローブに身を包んだアリスはバニラに声をかける。
「別に私が召喚するわけじゃないし、私は別に……。 それより勇者召喚なんてできるわけ?」
「うん」
「うん……って、なんで!?」
「さぁ? なんでだろ。なんかでも、今朝起きたらやり方を思い出したんだよね」
知らないはずの記憶を《思い出した》アリスにバニラは疑問に感じたが、細かく詮索するのはやめることにした。
「さて、ここだね。 ……大きいなぁ」
「まあ街の外からも見えていたほどだしね」
「……えっと、こういうのって正面から入っていいものなの?」
「……いいんじゃない?」
不安な答えを返すバニラにアリスは何も言わず、とりあえず門番らしい人に声をかけた。
「あの〜……」
「ん? どうしたんだい坊や?」
門番は親切にもアリスの身長の高さまで腰を曲げ、鞄から物を漁るのを待ってくれた。
「えーと、これギルドで預かった手紙です」
「あぁ勇者召喚の! ……それで本人はどこにいるのかな?」
「えっ……」
*****
一方、城内。
「ねえ、今日来るはずよね?」
「はい、そのはずですが……」
「遅くない?」
「……ですね」
当日、時間は昼前になっていた。
「ちょっと呼びに行ってきてよ」
「いえ、私は王女さまの側を離れられないので……」
「……そう」
王女は側近の言葉に素直に従うが、少し考えると突然立ち上がった。
「じゃあ私も行くわ」
「ええっ!?」
「アンタの変装だとバレないでしょ。 いつもそうだったじゃない」
「……わかりましたよ、もう」
*****
「……入れなかったね」
アリスはその後、自分がその召喚士だと言ったが、どうやら弟子かなんかだと思われただけで信じてもらえなかった。
「どうすんの?」
「どうするたって……とりあえず宿に戻って考えよっか」
「結局無駄足だったわけね……」
「そんな言い方やめてよ」
あーだこーだ言い合っている間に、宿では2人の女性が主人と何やら話していた。
「じゃあその召喚士……アリスという少年は既に外出していたと?」
「ええ、今朝早くに出かけて行きましたよ」
「……? どこかで迷ってるのかしら」
「……わかりましたありがとうございました。 ……仕方ありません。 この辺りを捜索しますか」
話が終わり怪しい2人だけで、会話を始めたタイミングで宿の主人が戻る。
「……ん」
「どうしたの?」
「す、すいません王女さま。 少しお花を摘みに行ってもよろしいでしょうか?」
「……早く行きなさい」
側近は王女に一礼すると宿のトイレを借りに奥へ入る。
そして、王女は一人で周りをキョロキョロすると宿の待合室のソファに座った。
「少し硬いわね……ん?」
「今、帰りましたぁ」
「……ねえ、そこのキミ」
「え? 僕ですか?」
王女は偶然宿に戻ってきた妖精連れの白いローブの少年に声をかけた。
「キミはこの宿の客かしら? お母さんかお父さんはいないの?」
「は、はい。 一人ですけど……」
「えっ!? まだそんな幼いのに偉いわね……。 こっち来なさい」
「な、なんでしょう……」
すると、王女は突然アリスの両脇に手を通すと膝の上に座らせた。
「わわわわわっ!? ご、ごごごごごごめんなさいっ!!」
「いいのよ。 しっかし、軽いわね。 人形みたいだわ」
そう言いながら王女はアリスの腹部を左腕で抑えながら、右手で髪を解くように優しく撫で始めた。
「あわわわわわ……」
「恥ずかしがってるの? 可愛い」
「……なにやってるんですか、王女さま」
突然かけられた声に王女は驚く。 側近がトイレから戻ってきたことに気がつかなかったのである。
「ルビアっ!? あ、えっと……」
「王女さまが幼い男の子が好きなのは承知の事実ですが、一般民にまで手を出すのは如何なものか……と……?」
ふと言葉が止まる側近。
すると、急にアリスの顔をじっと見ると手元のメモと見比べた。
「えっ!? なに、なんですかっ!?」
「ああああっ!? お、王女さま!! この子、例の召喚士ですよ!?」
「ええっ!? うっそぉ!?」
「な、なんですか急に!?」
*****
数分後、王宮の謁見部屋。
「非常に申し訳ありませんでしたぁ!! 門番には後で強く言い聞かせておきますので!!」
「あ、その……そこまで気になさらないでください……」
「いえ、強く言い聞かせてあげなさい。 そのくらいなら服引っ剥がして門前に吊るしておくだけでも門番にはなるわ」
「王女さまは召喚士さんを膝から降ろしてあげてください」
側近の言葉にしぶしぶ王女は膝上に乗せ、撫でていたアリスを降ろした。
「さて、私はヘレナ・ハルディア。 この国の王女……母と父は亡くなってるから実際の国王よ」
ヘレナ陛下……か。
見た目は近所のお姉さん感があるけど、やはり王女である分の威厳が所々で感じられる。
それから、次に陛下の隣の宝塚っぽい格好の女性に目を移した。
「私は王女さまの側近のルビアと申します」
側近というくらいだから護衛とかお手伝いさんという感覚があったが、どうやらそれよりも政治の手伝いも行う摂関的な感じでもあるらしい。
確かに、陛下はまだ18歳くらいに見えるが、ルビアさんは20歳前半くらいだろう。
「じゃあ遠路はるばる来てもらって早々だけど、90分後ほどしたら勇者召喚してもらっていいかしら」
「は、はい! 大丈夫です!」
「ありがとう。 それまでは別室用意するから、そこで休んでいてね」




