16話「なんじゃしとらんじゃないか。 不能か? 不能なのか?」
昨日の今日。 朝起きたら同じ布団にケモミミ幼女が寝ていた。
「……なにこの状況」
僕は起こさないように布団から出るが、あまり意味がなかったようでタマモはあっさり目を覚ました。
「ふむ、有栖おはよう」
「……僕タマモ呼んでないんだけど」
「昨日のは帰ったふりだからのう。 ただの幻影じゃ」
主人を騙すなよ……。
「さて、朝ピンか? 朝ピンしとるか?」
そう言いながらタマモは僕の股間を見る……が
「なんじゃしとらんじゃないか。 不能か? 不能なのか?」
正直僕もこれは思うところがあるが黙る。 なんかこの姿になってから、生理的な反応が弱くなってる気がするのだ。
とはいえ、勃つときは勃つから注意はしている。
「まあいい。 萎びたところで勃たせればいいだけじゃからな。 ほれ、お姉さんがいろいろ教えてやろう」
「朝からナニしてんのよ」
「うわぁっ!?」
気がつけばバニラが眠気まなこでこちらをじっとり見つめていた。
「やめて!! 見ないで!!」
「自分の召喚獣に使い回されて、情けないわね……」
バニラの説教が始まると、どうやらタマモの発情も消えたらしく舌打ちをした。
「……ふむ、水を差されてもうたか。今回のところは帰らせてもらおう。 またチャンスをうかがっておるぞ?」
すると、今度こそタマモの姿は煙になってその場から消え去った。
*****
パーティメンバーと宿の人に別れを告げ、僕は王都に向かって足を進めた。
「本当に近くかと思ったけど、3、4キロはあるんだよね……ヒィ」
「そんなヒョロっちい考え方だと生きていけないわよ?」
「……ぅぅ」
トボトボと一応山道とはいえ舗装はされてある道を通りながら、ため息をつく。
「……そこまでしんどいなら召喚獣出したらいいじゃない」
「いや、ここは一人で行きたいよ。 それに……」
「……?」
「もし肩車とか抱っこするとか言われたら嫌じゃん」
これを聞き、バニラは何も言わずに「ふーん」と晴れ渡る青い空を見上げた。
*****
一方、王都では勇者召喚のために様々な用意が施されていた。
「お、王女さま! 勝手に行動なされては困ります!」
「少しくらいいいじゃない。 準備はどう?」
召喚部屋に入ってきた王女の声にまだ若い従者の一人が応えた。
「はい! 只今勇者を迎えるにあたって装飾の準備をしております!」
「そう。 お疲れ様。 ところで召喚士は?」
「はい、もうすぐお着きになるようです」
「ふーん……召喚士、ねぇ」
王女は顎に手を置いて考えた。
召喚士は違う世界からモンスター召喚し使役する職業で、話を聞く限りでは世界に一人しかいない存在らしい。
「……どんな人なのかしら」
「さあ。 噂では若い男でバトルなどの強さは不明……召喚獣は妖精やら大型のオオカミやら話によってバラバラです」
「……それ、実際に来たときにちゃんと本人かわかるの?」
「一応召喚状を提出したので大丈夫とは思います」
曖昧な従者の言葉に対し、王女は溜息を吐く。
「もういいわ。 作業止めて悪かったわね」
従者はそう言われると王女に一礼して、その場からわたわたと離れた。
「結果よく分からないのね……」
「王女さま」
「わかったわよ。 戻ります戻りますー」
*****
「戻ろう!? ねえ!?」
「ここまで来て何言ってんのよ」
アリスの目の前には明らかに深そうな森。 奥の方になると青々と茂る木々が昼間というのに闇を作っている。
「絶対アンデッドとかゾンビとかいるよ!?」
「どっちも同じじゃない! そもそもいたところでアンタの召喚獣でなんとかできるでしょ」
「そんなぁ……」
「ほら男なんだからさっさと行きなさい!」
アリスは必死に進むのを拒んだが、結局バニラに背中を蹴られながら中に足を踏み入れた。
……
…………
数分後、案の定道に迷った。
「前見えないーっ! ここどこーっ!?」
「うるさぁい!! そんな女子みたいに喚くんじゃないわよ!!」
「や、でも、ひいいっ!!?」
「……ビビりすぎじゃない? 昔何かあったの?」
あまりにも大袈裟すぎるアリスのリアクションに、さすがのバニラも心配した。
「……いや、昔に……ヒヤァァアアア!!!」
しかし、言葉にならないほどパニックに陥っているアリスは言葉も上手く話せない。 このままだと召喚獣も出せないと踏んだバニラは無理やり引っ張り、道を引き返させた。
……
…………
「ひっぐひっぐ……」
「一応中身はそこそこいってるんだから泣かないの。 何があったの?」
「……昔、幼い時に田舎のお爺ちゃんの家に行った時に山で遊んでたら遭難して……それで、丸一日経って夜が明けて、ようやく帰ることができて……」
「へぇ……それで……」
とはいえ、このままでは拉致があかない。
「……あんた、召喚獣出しなさいよもう」
「え?」
「怖いんでしょ? 守ってもらいなさいよ」
「や、やだよ! そんな子どもみたいな……恥ずかしいじゃん!!」
……
…………
「暗いよ怖いよぉ……」
「うふふ、マスター。 もっとギュッてしてもいいよ?」
結局、夜目の利きそうなシルビアを召喚。 無論本人は初オンブが出来たことに満悦していた。
「こんなに甘えん坊さんなマスターもいいものね」
「色々履き違えてるんじゃないかしら」
バニラの独り言は誰の耳にも入ることはなかった。
*****
一方、現世界。
「花笠……花笠!!」
「は、はい先生!? 」
「気持ちはわかるが、なるべく早く気持ちを落ち着かせろよ。 これ、いつも悪いが有栖に届けてくれ」
「は、はい……」
有栖がいなくなってから3ヶ月が経った。 クラスのみんなは一人消えた程度、すぐに慣れていた。 もしかしたら既に忘れてる生徒もいるかもしれない。
「(……でも)」
私は絶対忘れられない、忘れるわけがない。
幼い頃からずっと一緒だった有栖。正直私は昔から有栖には強く当たってたし、嫌われても仕方ないかもしれない。
でも彼はそれでも私から距離をとることはなかった。それどころか、私が性格の所為でクラスから嫌われていたときもずっと側にいてくれていた。
そう、本人には言えなかったけど、実は私は有栖のことが……。
……
…………
「……ん」
気がついたら夕方になっていた。 どうやらそのまま眠ってしまっていたようだ。
有栖へのプリントが少しよれてしまったが、まあ私のと変えればいいだろう。
ともかく早く帰らないと、お母さんも心配する……。
「……?」
ふとした違和感。
この廊下は日の光が当たらないはず。
なのに、何故電気も付いていないのにこんなに明るいのだろう?
「……っ!?」
そして、気がつく。
私自身から光が出ているのだ。
「えっ!? なに、やだ……こわい……」
カバンを抱きしめ、その場でうずくまる。
光はだんだん強くなり、その光の強さは私自身も目が開けられないほど強くなった。
「やだっ! 有栖! 有栖!!!」
いない人の名を呼ぶ私。
そして、私は突然空中へ飛ばされたような錯覚に陥った。




