15話「……有栖よ? 此奴らはお主の眷属か?」
「さて、もうすぐ目的地のわけだがこの先は3ルートある」
朝食を摂りながらライドさんを中心に作戦会議をする。
「ひとつは山を越える道、そして山の洞窟を通り抜ける道、最後に山を迂回して森を通り抜ける道だ」
「依頼人はなんて言ってたんだ?」
レドさんが尋ねる。
「任すってさ。 依頼してる身だから余計なことは言わないって言ってた」
「んー、任される方が大変なんだがなぁ」
「そこでだ。 どれがいいか一人ずつ聞かせてくれないか?」
どうやら多数決で決めるようだ。 この際、冒険者の感に任すしかないようだ。
クレイス案
「私は迂回ルートがいいと思うにゃ。 森の中なら洞窟ほど強い奴は出てこないと思うにゃ」
レド案
「早いうちに着いたほうがいいだろうし、穴突っ込もうぜ。 お、穴に突っ込むってなかなか以下略」
レヌア案
「迂回した方がいいと思う。 洞窟でトラブルにあっても、一本道だから身動き取れなくなっちゃうからね」
ドゥルシェ案
「一本道だからこそ、迷わずに進むという利点にもなる。 俺は洞窟の方がいいと思うぞ」
それぞれ意見は真っ二つに分かれた。
すると、ライドさんは口を閉じ唸るとこちらをみて呟いた。
「ところでだ。 坊主はどう考えてるんだ?」
「え? 僕ですか?」
まさか聞かれるとは思わなかった僕は一瞬反応が遅れた。
「でも僕、ほとんどこのパーティに貢献できてませんし口出しできる立場では……」
「なにを言ってる。 同じパーティである限り思ったことはあるはずだ」
「そうにゃー。 教えてほしいにゃ」
後を押す言葉に僕は、素直に意見を言った。
「……僕は、登山ルートがいいかと思います」
誰も言わなかった登山ルート、確かに体力的に考えて難しいかもしれない……が
「洞窟では強いモンスターが出るかもしれないうえに一本道なのでそれから間逃れようというのは難しいと思います」
「そうにゃ! そうにゃ!」
「でも、かといって森の道を選んでも地図を見る限り日を跨ぐことは分かりきっています。 夜の森で一晩明かすことこそ危険だと思います」
「んにゃあ……」
僕は地図を見ながらそう言うと、ライドさんがさらに質問した。
「それでも、山も似たようなもんじゃないか? 距離が短いとはいえ横と高さの問題だろう?」
「いえ、地図を見る限りはこの山そんなに高くないですし、道も開けているようなので休憩する場所は多そうです」
この世界でも等高線という図法は使われていたようで、見た目で判断できた。
「……まあとはいえ僕個人の意見ですし、皆さん疲れてるから他の道の方が……」
「よし、山登るぞ」
「ええっ!?」
こうして、何故か一行は山を超えるルートを選んだのだった。
……また、洞窟の横に掛けられた『登山危険! 山を越えるときは洞窟を使うように』 という立て札には誰一人気がつくことはなかった。
*****
僕たちの進む道は、山とはいえ岩がゴロゴロしてるようなところではなく、開けた草原にポツポツと木が生えているような小高い丘のようなところだった。
「長閑なところじゃないか」
「そうだな。 ただモンスターどころか動物一匹いないのは逆に不安だが」
ドルシェさんとレドさんの会話を聞きながら僕は荷馬車で考える。
(ここを越えれば目的の街。 そこから王都へ行って、勇者召喚して……そこからはどうするんだ?)
全体的な目標としてあるのは、戦争の終結とモンスターと人間間の和解だ。
しかし、それをするにはどうすればいい?
「うーん……」
「ん? アリスくん、どこか痛いのか?」
「あ、いえなんでも……あはは」
「悪いがトイレならそこらへんでしか無理だからな」
二人に心配されてしまった。 こういうことは一人に時に考えることにしておこう。
「お、なんか出てきたにゃ!」
「あ、ウサギだね。 可愛いなぁ」
荷馬車から見るとウサギの群れが馬車の目の前に現れているのが見えた。ツノが生えているようだがそれ以外に変わったところはない。
「でも悪いけど、ここ通らないといけないから許してね?」
そういい、レヌアさんがウサギの一匹に手をかけようとした瞬間
「レヌア! 離れろ!」
ライドの怒声にレヌアは驚き退いたそのとき、レヌアがいた位置に別のウサギがツノを突き立てて突進してきた。
「えっ?」
「くそっアルミラージか! 2、3匹ならともかく数十匹も相手にはできない……」
どうやらモンスターの一種らしく、なかなかの強敵のようだ。
「俺たちも援護する!」
「アリスくんは危ないから隠れてろよ!」
ドルシェさんとレドさんは現場の様子を見て、援護に加わっていったが僕は荷馬車の中で待機させられていた。
「アンタ、なにもしてないけどいいの?」
「……よくないよ」
バニラの言葉に自然と口が返答する。
「ところで、ここに石が5つあるのよね」
「……」
俺は石の入った袋を握りしめると荷馬車を降りて、依頼人の止める声を聞き流しながら茂みに走った。
*****
一方、他のパーティメンバーは苦戦しながらもなんとかアルミラージの数を減らしていた。
「くあっ!!」
「レド! 大丈夫か!?」
「あ、ああ……なんとかな」
「レド、アルミラージのツノは毒性があるから無理しないでよね」
レドは腕を布で縛り付けると、適当な感じに「ああ分かった」と返事をした。
「本当にどうなっても知らないわよ」
「とりあえず、これで全滅にゃ!」
クレイスが最後の一匹を仕留め、誰もがこれで終わりかと思った瞬間。
新たに数匹のアルミラージがどこからともかく現れた。
「くっ……キリがない」
「……待て待て……ちょっと待てよ」
「レド、なに怖気ついてんだ!」
「そうじゃなくて、アレ見ろよ……」
レドが振り向くライドの前を指差した瞬間、屈強なライドの体は簡単に飛ばされてしまった。
*****
数分後、アリスが戻ってきた頃には全員が倒れこんでしまっていた。
「そ、そんな!?」
「……難儀なことじゃのう有栖よ」
新たに仲間になった召喚獣は、カラカラと笑いながらそう言った。
思わず駆け寄り、安否の確認をするがなんとか全員息はしているようだった。
「……よかった」
「まだ安堵するには早いぞ。 問題は彼奴じゃ」
召喚獣が指す方向にいたのは、身の丈3mほどもあると思われる大きさのアルミラージだった。
「なるほど、総大将のようじゃな。 して有栖よ、お主は此奴をどうしたい?」
「……なるべく、追い払う形で退治してくれないかな?」
その瞬間、召喚獣はニヤリと頬を歪め、その身体が青白く光り輝いた。
*****
パーティのメンバーが目を覚ましたのは事態が終結してから十数分後のことだった。
「……う、いってぇ……ここは、荷馬車?」
「あ、ライドさん目覚ましましたか!?」
「坊主……アルミラージは?」
僕は一瞬言葉に詰まるが……
「えっと、気がついたらみんな逃げてました」
「……そうか。 悪いな情けないところ見せちまって」
「えっ! あ、いえ……自分はなにもできませんでしたから」
嘘はついていない。
「他のメンバーは?」
「毒消しの薬を飲ませてから安静に寝てもらってます。 とは言っても荷馬車に揺れながらなので多少の負担はありますけどね」
「……そうか。 悪いな看てくれて」
「さて、そろそろ目的地ですし、あとの護衛は必要ないと思いますよ」
そう言ってるうちに依頼人の到着する合図の声が聞こえてきた。
*****
目的地の村につき、パーティメンバーが無事回復をしてから報酬が分け与えられた。
僕には周りと比べ3割減の報酬だったことに他のメンバーは何か不満そうだったが、これは僕が召喚獣を使役したことを口止するためのお金なのだが、まあバレることはないだろう。
「アリスくん……」
「レヌアさん」
「ごめんね? 変な事して……」
「なんのことです?」
わざとシラを切ると、レヌアさんは申し訳なさそうな笑顔でなんでもないと答えた。
「アリスくんは此の先一人なのかにゃ?」
「いえ……仲間ならいます」
「そっか。 何かあったらすぐ手紙かなんかで私を呼ぶにゃ! 飛んでいくにゃ!」
僕はクレイスさんを含め他のメンバーにも挨拶をし、その場は解散になった。
*****
そして、その日の夜。
「……で、この子なんなんです?」
「主さま〜? また増やしたんですかー? 敵が出たのなら私を呼べばいいじゃないですかー?」
「そもそもそんな幼女になにができる」
自分の召喚獣から一斉放火を浴び、なんとも言えない気分になる。
一応使役してるの僕なんだよね? そうだよね?
「……有栖よ? 此奴らはお主の眷属か?」
「そうですよ」
「使役できておるのか?」
「……」
新しい召喚獣にも遠回しに呆れられた。
「とにかく! 紹介してください! なんなんですかその偉そうな喋り方の幼女は!」
「儂か? 儂はタマモ、ちなみに九尾じゃ」
僕はその声を聞きながらギルドカードに目を落とす。
summon now:《シルビア(フェンリル)SSランク》《レヴィア(リヴァイアサン)Lランク》《ルロ(バルログ)SSランク》《タマモ(九尾)Sランク》
なんだこれ。
タマモは9本のふかふかの尻尾をフリフリしながら、金髪に覗かせるキツネ耳をピクピクと震わせる。
見た目はただただ巫女装束のコスプレ幼女だ。 ……まあそれでも僕(姿)よりは年上っぽい見た目だけど。
「……かわいいじゃん」
シルビアはそれを見て動揺する。
すると、次に質問を浴びせたのは他でもないレヴィアだった。
「それにしてもそんなナリで戦えるんですかー?」
「ナリというと?」
「そんなちみっこい姿、ゴブリンさえも倒せないですよ。 それに主さまは私のような年齢(見た目)の女性が好みですからねー?」
「あるみらぁじなら倒せたがのう……。 しかし、有栖はそれなりに肉つきのある方が好きなのか」
タマモは自らの姿を見下ろし、体をペタペタと触る。
「ふむ、若すぎるかもしれんな」
そう言うと突然タマモの姿が輝き、光が収まると幼女の姿はどこにもなく、キツネ耳を生やした大人のお姉さんが目の前に現れた。
「こんなもんかの」
「なっ……ズ、ズルいです! ズルいです! 変身はチートです!」
「なにがちぃとじゃ。 キツネは化けるもんじゃろう。 しかし、有栖よ。 そんなにじっと見て、乳房が好きか? 望むならさらに大きくしてやろうか?」
「ダ、ダメです!! おっぱいの魔力は禁止アイテムです!!」
「そうか残念じゃのー」
タマモはそう残念そうに呟くと、姿を幼女に戻した。 どうやらそれが落ち着く姿らしい。
しかし、こんなにレヴィアが取り乱すなんて珍しいな。
「そもそもその口調が気に入らない。 なんだそれは、年長者のつもりか」
確かに考えてみれば、他の三人もなかなかにお年を召しているはずだ。
そう老けた喋り方をする必要はないと思う。
「そんなもこんなつもりもない。 儂は山の祠から出たことがなくての。 人間の喋り方が移っただけじゃ。 だから儂、外の事もなんも知らん」
「そ、そうか……なんか悪かった」
ルロを謝らせた。
魔王のルロを。
謝らせた。
これは……なかなかの大物の気配がする。




