14話「やはり幼子は旅のお供にぴったりだにゃー」
「でやあああぁぁああ!!」
「甘ぁいにゃ!!」
クレイスさんとライドさんの共闘を少し離れた馬車から覗く。
「凄いなぁ」
「そうね。 ライドさんは知ってたけど、あの子もなかなかのものを持ってるわね」
「ああ、正しく宝石の原石といったところか」
一緒にいるこのドゥルシェさんとレヌアさんの2人はどうやらなかなかのベテランらしい。
(まあ確かに、ここに変わったジョブである僕が入っても迷惑かもな)
「ねーね、アリスくんはどうして冒険者になろうとしたの?」
突然レヌアさんに尋ねられ、少したじろぐ。
秘密にしてるわけではないけど、成り行き話すわけにはいかないからなぁ。
「憧れてただけです」
「ふーん、そっかー小さいのにかっこいいことするね」
正直まともに戦ったことないけど。
「でも大事なことだからな。 いいことだ」
「でも無茶だけはしないでね」
無茶もなにも……。ねぇ。
*****
夜には何とか途中の村に着くことができ、そこで一泊することになり、その夜、レヌアは用をたすために目を覚ました。
「……うう、女の子なのにこの癖直さないとなぁ」
すると、彼女は部屋に戻る途中にアリスが外へ出て行くのを見つけた。
「……この時間にどこ行くのかな。このあたりなら危なくはないと思うけど……」
とはいえ、彼はまだ幼い子供であると思い込んでいる彼女は後をつけることにした。
……
…………
アリスは宿屋の裏に回ると周りを確認して、何やら呟いた。
「っ!?」
突然の光にレヌアは顔を背け、すぐにアリスに何かないか心配になり視線を戻した。
「……え、だれ?」
*****
「で、悪いけど多分また会う回数が減ると思うんだ」
「嫌」
シルビアは即答した。
「そ、そう言わないでよ。 わかるでしょ?」
「ええ、主人様が戦いに参加できないのは分かります。私たちでもさせようとは思いません」
……なんとなく言いたいことがあるけど、まあいいや
「でも、それでも会えなくなるのは不本意ですが私も同意ですね」
「むぐぅ……ルロはどう思ってるの?」
「……その王都やらまではあとどのくらいかかるのだ?」
「えっと、あと5日くらいかな」
「ならば断る」
ぇぇ……
「頼むって、王都に着いたらなるべく要望に沿うようにするから」
「むむ……仕方ないな」
「私もお願いしますよー?」
「マスター聞いたからね?」
すると三人は顔をニヤつかせながらその場から消えた。
「……なんだったんだ」
俺が部屋に戻ると案の定勝手に出たことをバニラにシバかれた。
*****
翌日
「……」
「レーヌアさーん、どうしたんだにゃ?」
「……え? あ、ううん。なんでもないよ」
「ちゃんと寝たのかにゃ? 睡眠は冒険者の生命線にゃよ」
レヌアは乾いた笑い声を出しながら、クレイスに捕まっているアリスを見つめた。
「やはり幼子は旅のお供にぴったりだにゃー」
「クレイスさん離してくださいっ!」
「やーだにゃあ。 どんなにもがいてもナイトから逃れられるわけないのにゃ」
「ぐぬぬぬぬぬぬ……」
どう見ても普通の子どもにしか見えないアリスだが、昨日見た光景が頭をよぎる。
「ねえアリスくん……」
「ん? なんですか?」
「……えっと、せっかくだし馬に乗せてもらったらどうかな?」
やはり本人には尋ねにくい。
「えっ!? そんな悪いですよ!」
「いいからいいから。すいません、あの馬に乗せてあげていいですか?」
「じゃあ行くにゃー」
「ええ!?」
依頼主の許可を出す声が聞こえ、アリスは馬の背中にまたがった。
「……わわわわ高いよぉ」
「馬怖いかにゃ?」
「あ、いや、むしろ可愛いですけど……」
「ならあとは馬にお願いするにゃ。 馬は賢いから騎手を落ちないようにバランス取ってくれるから大丈夫にゃ。でも神経質だから見えないところでイタズラしたりしたらダメにゃ」
そう言ってクレイスはアリスの呻き声を聞き流しながら馬車の中に戻った。
「アリスくんは本当に可愛いにゃー」
「そ、そうだね……。 ねえ、クレイスさんはアリスくんと一緒にパーティ組んだことあるんだよね? ジョブなんだったか知ってる?」
「知ってるにゃ。 えっと確か珍しいジョブで……サ、サモ……サーモンみたいな名前だったにゃ」
「サーモン? ……もしかしてサモナー!?」
「ああそうそう、そんな感じだったにゃ」
レヌアはその神託者にしか与えられないという噂の上でしかないジョブの名前を聞き、呆然とした。
「……それ本当?」
「んー、どうかにゃ? 技使ったところ見たことないし。 でも確かサモナーってモンスターを使役するんだよね? アリスくんの近くにはいつも妖精さんいるにゃ」
アリスの方を見ると、例の妖精がアリスに馬の乗り方の指導をしている様子だった。
「……むしろ使役されてる感があるけどにゃ」
「まあアリスくんよりも妖精の方が見た目お姉さんに見えるからね」
でも、これで殆どの疑惑が確信に変わっていった。
すると、レヌアは隣にアリスのカバンが倒れているのを見つけた。
「……もしかしたら」
「ん? あ、レヌアさんダメダメ! 勝手にアリスくんの私物覗こうとするにゃんて!」
「ちょ、ちょっとだけだから……」
「見るなら私もいーっしょ!」
「……」
カバンは妙に奇抜な形をしており、最初は開け方が分からなかったが、アリスのいつもの動きから真似して金属部分を線に向かって引っ張ることで開くことができた。
「……すごい仕組み」
「おお、面白いにゃ」
カバンの中は薬草に財布、貴重品袋……
「なんだか見たことのないアイテムもあるにゃ」
「……それにしても帳面や本が多いわね。 紙も羊皮紙じゃない綺麗なものだし」
レヌアは中身を読むのは流石に気が引けたが、クレイスがその前に開いたため遠慮しながらも読むことにした。
「うわわ! 文字がびっしりだにゃ! アリスくんは勉強熱心な子だにゃ」
「……でも、全部見たことない文字。 それに多分ノートによって使われてる言葉が違うのもあるみたいだし、そもそものこの国の言葉がないわ」
アリスのことをさらに詳しく知りたくなったレヌアはギルドカードを見つけようと鞄に目を移したそのときだった。
「あー! ちょっと何読んでるんですかぁ!?」
そのとき、ついに馬の上に乗っていたアリスが2人の行動に気がついた。
「あー、バレちゃったにゃあ」
「ご、ごめん!!」
しかし、アリスは馬からの降り方が分からず、もたもたしていた。
「仕方ないわね。 あんたはそこで待ってなさい」
アリスの頭に乗っていたバニラはそう言うと、パタパタと馬車の中の2人から鞄を没収した。
それなりに重たいはずだが、魔法で浮かすことが出来るためにバニラの顔に苦渋の表情はなかった。
「没収。 ヒトの鞄を見るのは好かないわ」
「ご、ごめんなさいにゃ……」
「あ、あのアリスくんって……」
「……詮索はその辺にしなさい。 悪いけど貴方とは関係ないことよ」
バニラはそう釘をさすと、鞄を隅に置いた。
*****
「……ふう、馬やっと下りれた……」
「しっかりしなさいよ」
「ははは……」
馬から下り、アリスは馬車に戻った。
「……アリスくん、ごめんね? 嫌われちゃったかな?」
「えええっ!? 嫌だにゃ! ごめんにゃ! 嫌わないでほしいにゃ!!」
「えっ? 嫌ったりなんてしませんよ! 確かに鞄見られたのは恥ずかしかったですけど……見られても困るようなものはなかったですし、ちょっと汚かったから恥ずかしいなと思っただけです」
レヌアはやっぱり大人っぽい子だと思い、それと同時にホッとした。
「レヌア! クレイス! 交代だ!」
「……分かってましたけど、また僕はないんですね。 お二方頑張ってください」
「う、うん!」
「任せるにゃ!」
……
…………
「あんた、甘いわよ?」
「バニラが厳しすぎるんだよ。 見られたって、この世界ではわけがわからないものばかりなんだから」
「……もっと緊張感持ちなさいよ」




