13話「精通をしてるかどうかもわからぬ主にそれは早いだろう!!」
目が覚めたアルカから報酬をもらいギルドホールに戻ったアリスは、改めてルロを召喚した。
「さっきは助けてくれてありがとうルロ」
「いや、主を守るのは当たり前のことだ。 それにあれくらいは造作もない」
「そっか……魔王だもんね。 僕も何かルロにしてあげれたらいいんだけど……」
すると、ルロは神妙な顔でアリスを見たと思うと顔を赤くして下げた。
「……そ、そのだな……。 別にそういった物品や力による返しは要らないのだが……その……」
「?」
「……頭を撫でて欲しい……。 流石にキッキスは……お、お前には早いのだ!!」
「……え、えっと……そ、そうだね」
アリスは乾いた笑みを浮かべると椅子の上で背伸びをして、セミロングのルロの赤髪をなぞるように撫でた。
「……ルロは背が高いね」
「……」
「……ルロ?」
するとルロは表情の隠しきれない顔を真っ赤にして、黙って召喚元に帰っていき、同時にアリスはバランスを崩して、椅子から転けた。
「あいたた……。 どうしたんだろ?」
「あーっ!!!! 帰ってた!!!」
「うわっ!? バニラ!!」
「アンタまた私が買い物のしてる間に勝手にぃぃ!!!!」
*****
夕方、食事に向かうとクトゥルカがいつものように同席をしてきた。
「……今日はえらく顔が腫れているが蜂にでも刺されたのか?」
「ふんっ!」
「似たようなことです……」
アリスの頼りない返事にクトゥルカは自分で聞いておきながらも「そうか」とだけ呟き、本題に移る。
「この前のパーティークエストの際、なにやらゴチャゴチャしたことがあったことなんだが」
「……ああ! はい、洞窟で大きなモグラを見つけたことですね」
「それで、お前に別枠として報酬を与えたい」
意外にも良い報告で少し浮かれる。
「討伐報酬、まあ一週間は三食外食で中流の宿に暮らせる程度の金だな」
高く聞こえるがこの世界での宿泊料は然程値が張るわけではない。
とはいえそれでも日本円に換算して4〜5万円ちょいくらいにはなるだろう。
「モグラ一匹になかなかのお金が出ますね」
「……まあ未踏エリアのボスを倒したのだから、若干量増しはされているな。 それから、お前にはもう一つしてもらいたいことがある」
「なんです?」
「王都に行け」
それは正にあっさりとしていて、突然だった。
「……え?」
「王都だ。 アリス、王都トーキに行け。 言っておくが国からの命令だから断れないぞ」
とはいえ国の中心に行けるのなら、それに越したことはない。
問題は……
「理由……そうです。 なんで突然そんな遠征を?」
「……国がお前を求めているのだ」
「え?」
するとクトゥルカは紅茶を啜ると、神妙な顔で語り始めた。
「今度、戦争の終結のため勇者が召喚される予定だ。 しかし、召喚のためには色々手順が必要があるのだ。 例えば……」
クトゥルカはそこで言葉を区切るとこちらを指差して告げる。
「実行するための召喚術師とかな」
「……」
色々聞きたいことがある。
しかし、アリスはその中でも一つだけ確かめておきたいことを聞いた。
「……その勇者召喚によって、戦争はどのように終結するのですか」
「……どういうことだ?」
「僕は神……ティルスから『大陸間の戦争の平和的終結』を託されました。 それは、勝敗による戦争の終結にはなりませんか」
「……それは、なんとも言えない。 召喚された勇者の出方によるからな。 まあどちらにしろだが」
そう、どちらにしろこれは依頼ではなく命令。
引き受けるしか選択肢はないのである。
「じゃあとりあえず終わったら帰ります」
「いや、残念だが……多分それはない」
「え?」
「……まあ行けば分かるだろう」
クトゥルカはそういうと、もうそれに関して話すことはなかった。
*****
クトゥルカが話を切り上げ、部屋に戻ろうとすると「ああ、そうだ」と思い出したように呼び止めた。
「王都トーキに行くとして、お前一人だけでは心許ないだろう」
「……僕、一応17です」
「だとしてもだ。 7歳にしろ17歳にしろ召喚獣がいるとしても子供一人でそんな遠征には無理がある」
まあ、それもそうかとアリスは納得する。
「そこで、このギルドからの最後のクエストだ」
クトゥルカはそう言うとアリスに一枚の紙を渡した。
「これは?」
「なんでもないただ輸送任務だ。 王都に行くついでにしてもらう」
「……」
なんだパシリか。
アリスはそんな目でクトゥルカを見ると、クトゥルカは理由を語り始めた。
「輸送任務ということは長期クエストになる。 長期クエストを受けられるのは高ランク冒険者だから、一緒に行動するだけでも護衛にもなるはずだ」
「なるほど……。 そういうことなら分かりました」
*****
夜、アリスは部屋の荷物をスクールバッグに纏めるとシルビア、レヴィア、ルロを呼んだ。
「わっ! なんか増えてる!」
「なんだこいつは」
……シルビアにルロのことを話すと、案の定レヴィアと似たようなことを言いルロと喧嘩になっていた。
……
…………
「というわけで、しばらくは旅になるってことを一応報告したくて」
「そっか。 よく言えたね偉い偉い」
「まあ私たちには然程関係ない話ですね〜」
「というよりもここは主に貧相だ! もっと豪邸を持つべきだ!」
最後の王からの言葉は善処しよう。
「まあでも確かにレヴィアの言う通り皆にはあんまり関係なかったかもね」
「では、この部屋のお別れを最後に爪痕を残しましょう。 二人の交わりという名の……」
「この魚人が! また奪おうとして!」
「精通をしてるかどうかもわからぬ主にそれは早いだろう!!」
最後の王の言葉はちょっと余計だったな。
*****
翌日、紐を調節したカバンを持って宿主に礼を言ってから目的の場所に向かう。
「えっと、ここら辺だよね」
「私に聞かれても……あっ、あれじゃない?」
見るとそこにはゲームとかでキャラバンとかいう集団を見つけた。
その中でも見たことのある顔が手を振る。
「おう、久しぶりだな坊主」
「えっとライドさん?」
「ああ、覚えてたか」
ギルドで話しかけてきてくれた冒険者である。 ぶどうジュースを好むおっさんだという印象が強かった。
「そうか、子供が1人参加すると聞いていたがお前だったか。 長期になるが保護者から許可は出たのか? ……つってもギルマスからの命令なら出てるんだろうな」
どうやら国から呼ばれていることは知られていないらしい。
「まあ、坊主はずっと荷馬車で待ってくれたらいい。 一応輸送任務だが戦いの時はそうしてる方がいいだろう。 依頼人の和ませ役にもなるだろうからな」
そう腹から笑うライドさん。 なかなか頼りになりそうだ。
「他のメンバーは誰がいます?」
「レド、ドゥルシェ、レヌア、あとはクレイスってやつがいるはずなんだが」
クレイス……聞いたことがある名前。
っていうかそれって。
「フニャーっ!!だから魚盗んでないにゃ!!」
「そうじゃなくて商品忘れてますって!!」
デジャブを感じる登場。
……
…………
「今回任務に参加するクレイスだにゃ! ビシッと!」
「ビシッとは言わなくていいがお前だったか。 男だと思ったぞ」
「よく言われるにゃ!ビシッと!」
「だからビシッとは……」
二人の会話は終わりそうにないな。
まあクレイスさんとはまた話そう。
「あ、かわいいー」
「えっ?」
「君が参加してくれるんだね。 私はレヌアだよ」
声をかけられたのは髪を短くまとめた鎧姿の少女だった。
「あっ! 子供っぽいって思ったでしょ? 私これでもハタチなんだからね?」
「20歳」
マジか。 日本人が外国人に若く見られがちというのはよく聞くが、逆は初めてだな。
「なになに? メンバー?」
「あ、レドさん」
「うおっ、思ったより幼いな。 俺、レドって言うんだ。回復ヒーラーだから大事に大事にな」
「自分で言うんですか」
レヌアさんがツッコミを入れる。 意外にすぐ溶け込めるらしい。
「あ、そうだ。 ほらこれやるよ」
手渡してきたのは何やら茶色いものが銀紙で包まれていた……ってかこれ知ってる。
「チョコレートっていう南の方の菓子だよ。 元々飲み物だったんだが、苦くて使いようもなかったから、糖を混ぜて冷やして……工程はいいか。 まあこういう旅にもってこいなんだ」
「あ、ありがとうございます……」
ふむ……。
溶けないだろうか? まあ魔法使えるんだから大丈夫か。
チョコレートが溶けて大惨事にならないように奥にあった袋で包んでからカバンにしまう。
さて、あとはドゥルシェさんだけだが。
「お、なんの集まりだ? おおっ新メンバーか。 俺はドゥルシェってんだ」
出てきたのは声の渋いかっこいいおじさまだった。 無精髭がお似合いで。
「よっしゃ、おっちゃんと遊ぼうか」
「犯罪者みたいっすよドゥルシェさん」
「んなっ! 俺はこれでも近所の子供らから頼られて、お菓子とかやったりしてんだぞ!?」
「たかられてるだけじゃないですかそれ」
何はともあれいいメンバーでよかった。
正直、邪魔者扱いされるかと思い不安に感じていた。
*****
依頼人の男性が準備を終えたので一行は早速出発した。
荷馬車には僕とバニラと依頼人の男性の他、クレイスさんとライドさんがいる。
ドゥルシェさんとレヌアさん、レドさんは外で警戒中らしい。
「アリスくんがいるとは思いもよらなかったにゃ〜♪ これはちょっとラッキーだにゃ〜♪」
「だ、抱きしめないでくださいよぉ……」
僕らの様子を見てライドさんが唸り訪ねた。
「二人は知り合いだったのか」
「そうにゃ。 昇格クエストのときに一緒にパーティになったのにゃ〜」
「ほう。 そのとき坊主はどうしてた?」
「ずっとウチらが護ってたにゃ!」
答えになってないなぁ。
「まあそうだろうな。 じゃあ坊主から見て、この猫娘はどうだった」
「そうですね。 ……敏捷力があると思いきや意外にもパワータイプだと思いました」
「ナイトだからもちろんだにゃ」
「女騎士か! 近頃は減ったからなぁ……ジョブは大事にしろよ」
ライドさんの言葉にクレイスさんはビシッと敬礼をした。
「それにしてもアリスくんのカバンおっきいにゃあ」
「ええ、実は王都に用があって……」
「ほう王都か。 親御さんでもいるのか?」
んー、流石に国にお呼ばれしてるなんて言うべきではないよな。
「まあそんな感じです」
「ほう、若いのに偉いな」
そんな曖昧な受け答えをしていると、レドさんが声を上げた。
「ライドさんよ、この先モンスター多いっぽいんで休憩がてら策練りませんかい?」
目を凝らすと確かに遠くに粒のようなものがチラチラ動いている。
「そうだな。 すんません、そこの川沿いに止めてくれますか?」
*****
「……やっぱりここは遠回りよりも突っ切ったほうが良さそうだ」
「え? なんでですか?」
「暗いと敵が湧くからな。 逆に危険になるんだ」
ライドさんの話を疑問に思うと、ドゥルシェさんが代わりに教えてくれた。
「ま、ここは馬車で休んでた俺とクレイスが変わった方がいいだろう。 ただ敵の密集地ということだから、悪いがレド来てくれるか?」
「仕方ないっすね。 回復の仕事というわけっすか」
「じゃあ私とドゥルシェさんはアリスくんと馬車ですね」
「そういうことだ。 そっちも頼んだぞ」
……ん?
なんか勝手にまた守られてないか?




