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春の花  作者: 本多裕樹
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 今、とまっている宿の名前を発表しない。ここは、私の隠れ家であり、春の仕事場であるから、ただこれだけは、言っておこう。小山善勝 氏のはからいであるということである。

 小山 氏は、小説の世界では、大先輩であり、よく面倒見てくれている恩人なのである。


小山善勝さんは、食通で美術好きで、旅もよくして、温泉好きであることは文壇の世界においてはみんな知っていることなのです。




マグロの刺身が無くなってきた。酒もおわったころ、女将の声がして、「風呂はいかがでしょうか」とすすめられたので、風呂に行くことにした。山々の中の露天風呂で、いわゆる秘湯という感じでありました。


服をぬぎ、木の回廊を渡り、熱い湯につかる。


 夕日は落ち、やわらかな雰囲気におおわれて、ゆったり、のんびり気分でありました。


風は、あつい身体をなでて心地よい。詩人でありことに非常に恵まれた人生に思った。


 私は、画家としても、ひそかにブームであり、月に三点の油絵を制作しているのである。


 注文を受けていろいろと描いているのです。


絵も詩も大事な芸術の仕事であります。


 詩人として、表現したいことがいっぱいあるのですね。


かつて、高村幸太郎という詩人も彫刻家であり画家であった。


 私もそれにあやかりたいと思っているのです。


私の目標はレオナルド・ダ・ヴィンチのような万能の芸術家なのですから。


そんなわけで、私の詩人の生活があるのです。


世の人々は、一生懸命に働いて生活ささえ、社会を守っている。


私のような道楽生活に反感をおぼえる方々もいるかもしれない。


しかし、私も一生懸命に芸術活動をして、多くの人に幸せを送っていきたいという信念のもとに、私は芸術作品をつくり文化を作っている一人なのです。


風呂に入りながらそのようなことを考え思うのでありました。


詩人には詩人の役目があって社会のために貢献しているのは本当だと思います。


労働者の仕事はすばらしい。一生懸命に労働する者たちは、家族を守り、国家を守っているのです。これは、真実なのです。みんな共に生きているのです。


みんなこの国を生き、共生しているのだと、いつも感じ、すべての生命と存在に感謝している毎日なのです。

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 それにしても、熱い温泉である。汗がだくだくである。


身体の疲れが体のふしぶしから渦巻くようにぬけてゆく。


酒の飲みすぎもあって、今日はもう眠った方がいいと思った。


 私は、詩人として、まだまだ未熟者である。


もっと、こう、聖なるものを書けたら自分も十分に満足いくといつも思うのでした。


 秘湯の宿は、あと4日ほど泊まる予定である。


今日は酒に酔っていますが、明日からは、ちょっと外出して、この春の詩のインスピレーションを受けに行こうと思う。


天然の世界の中に入っていこうと、そして素晴らしい春の花の詩の構想を抱こう。


 露天風呂の上の夜空には、月がこうこうと輝いている。美しい。


いま、この月を多くの人たちが見ていることを想うとなにかロマンチックな気分になる。月を見て多くの人々が感動をしているのだろう。


もっと別の感情をもって歌を口ずさむ者もあるでしょう。


同じ月を見てもそれぞれの見方がある。


心の心境によっての違い、天体の位置における違いもある、存在の数のあるだけ見方がある。


でも、目標は一つなのである。


それは月であるということ。


見る人の個性によって言っていることの違いはありながらも、筋は一つの事を言っているのだという事である。


ふと、そんな考えにふけていたら、遠くから動物のおたけびが響いてきた。


湯の流れる音にも耳をすませて、春の夜は、たのしみのうちに、心に輝きがますようです。


そろそろ風呂を出よう。


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