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春の夕暮れに、ほのかな香りのけむり、漂うような美しい香は、風に流れて、消えゆく。
原稿は、だいぶ書きたまってきた。12枚くらいがんばった。マグロの赤身をつまみながら、酒をたのしむ。すこし薄暗くなってきたので、ささやかなエミール・ガレのデザインの灯火を点ける。ペンをすすめる。
酒は、十杯くらい飲み進める。
酒の酔いによって、詩は流れるように、春のさらさら舞う姿のかつての彼女の幻影が浮かんできた。あれは、5年前の情熱の恋の残像のなごりに胸を震わすのであった。
その想い出も春のできごとでありました。
思えば、あの女が初めての女であった。
私が詩人の同人誌の活動において、あの女、山戸静子、山戸静子さんであった。
静子は画家であった。
私は彼女のアトリエによく遊びに行った。そして、同人誌の挿し絵や表紙の絵をお願いにいっていたのだった。
静子さんの絵画作品は、まったく新しいものでありました。
シュールレアリスム
ダダイズム
という前衛的な作品に情熱をこめて制作するのでありました。
その当時では、今でも、新人の中でも力ある画家でありました。
あれは、静子さんのお宅でサロンがあるということで、おじゃましていろいろ仲間を作らせていただいた。
静子さんはピアノを弾いていた。
ショパンだった。
芸術家たちが集まって酒をたのしむサロン。私は、そのとき初めて酒を飲んだ。
ワインをすすめられたので、赤ワインを飲んだ。
ブドウの風味がのどをとおり、なんともいえぬ上品な飲み物でありました。
しばらくして、詩人たちの朗読会が開かれた。
私は、詩集を用意していなかったので即興で語るしかない。
わたしの番が来るまで、いろいろ考えるまでもない。
そのときに詩の霊感が降りてきて詩は我が言葉でもって語られるであろう。
そして、私の出番が来た。
詩はながれるように即興の詩と、即興の静子のピアノでそのサロンは盛り上がったのであった。




