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第一話:彼は勇者で、なら私は?



「――い、ユイ!」


 声をかけられて意識が帰ってきた。おかえり私の意識。というかいま私の意識は一体どこへ行っていたんだ。


「あーよかった。意識が飛んだだけか」

「意識が飛んだだけってちょっと」


 彼は危機管理能力が足りないのか?意識が飛んだという重大なことに対して「だけ」ですますとか相当平和ボケしている気がする。そんな私の訝しげな視線に気づいたのか彼は苦笑いを浮かべる。


「転移魔法は最初のうちは意識を失っちゃうことが多いからね。仕方ないんだよ」

「転移魔法?」

「今の魔法だよ。空間を超えて別の場所に一瞬で移動するって魔法」


 ふうん。なるほど納得。というより今の説明で全てを理解しやっと私は周りに目を向ける余裕を得た。辺りを見回せば見回すほど、なるほど、彼が先ほど言っていた『ここは地球じゃない』という言葉の意味が理解できる。間違いなくここは地球じゃない。周りにいる人々は皆中世ヨーロッパ頃の貴族のような服装を纏い、時には小型とおもわれる龍を連れた旅人のような様相の人や、少なくとも地球にはいないだろう生物をたたき売りしている様子が見られた。


「へぇー……ここはどこ?」

「此処はこの世界で最大の権威を持つ国、『Thanat kingdom』――タナト王国の、城下町さ」

「タナト……王国」


 名前だけだと随分と物騒な場所に思える。けれど活気もあって、薄暗かったり薄ら寒い何かを感じたりすることもなく、自分の知る街とすこしちがうだけでこの街は普通にいい街であるようだった。


「それで、どこに連れてくの?」

「うん、ここの王宮」

「へぇ、王宮………って、はぁ!?」

「あ、そっか、言ってなかったね。まあ、歩きながら話すよ。ほら、こっち」


 彼に手を引かれて私は少し戸惑う。そういえば手をつないだままだった。……男子と手をつなぐのなんて、幼稚園生ぐらいの時以来か。なんだか懐かしい気がする。なんて思っていると、彼に話しかけられる。


「それでね。僕さ、ほら、君と同じ“世界”の出身なんだけどさ。こっちの世界に召喚されたんだよ。僕は勇者なんだ」

「ふうん……」


 しまった。


 普通に返事したものの、私、思考追いついてマセン。召喚?勇者?世界?どういうこっちゃ。つまり私もこの世界に召喚されたってこと?頭の中にクエスチョンマークが浮かんでグルグル回っている。


「……要するに、RPGみたいな状況」

「ああ!」


 なぜこの説明で納得したのかは不明だ。けれどここまででされた受け入れがたい非現実的な説明に比べると、随分とわかりやすいというか、受け入れやすいものだったからだろうと察した。(自分のことなのに察したというのは何かがおかしい気がするけど。)


「とにかく、この世界――もしかしたら別の惑星かもしれないけど――に召喚されて、この世界に平和をもたらさないと帰れない的なアレですか」

「そんなかんじのアレだね。まさかなんのとりえもない平凡な僕みたいなのがそんな状況に入るとは思わなかったけど」


 彼はそう言うものの、私はなんとなく彼がこの立場に選ばれた理由がわかる気がする。何がって、彼、お人好しすぎるのだ。初対面の私に対してここまで優しくしてくれる理由もないだろうに。それにメッチャ愛想いいし。


「さて、これが王宮だよ」

「へえ……でっか」


 感想。


 デカい。あまりにデカすぎる。こんだけお城が大きいと掃除が大変そうだ。私がもっと頭がいい人だったら、もう少し真面目な感想をもてたのだろうが、残念ながら成績は中の下、授業中寝ててもテストで満点取れる妹と違って私は頭が悪いのだった。おまけに不真面目だし。


「まずは王様に会いに行こう。仲間も迎えに行かなくちゃ。僕ひとりで死の森に行ってたからね、心配かけてるかも」


 そのまま私は少年にぐいっと手を引かれ、赤い絨毯の上を歩き、仰々しい扉を開き謁見の間へと移動させられた。待つこともなく、既に謁見の間に王様はいた。ずっと謁見の間にいる王様っていつ仕事してるんだろう。……まあこれはどうでもいいか。


「ただいま戻りました、タナト王」

「おお、よくぞ戻ってきた、勇者カオル。して、そちらの者は?」

「はい、……それが……その、人払いをしていただけますか?」

「ふむ、よかろう。ならば人に聞かれる可能性があるこの部屋より、我の私室の方が良いだろう」

「ありがとうございます、王よ」


 先程までのフレンドリーな態度とはうって変わって、礼儀正しい。笑顔も愛想が良いものというよりは、礼儀をわきまえた上での愛想ある笑顔に変わっているし。切り替えが早いなあ。


「では、こちらへ……」


 近くにいた女中さんが私と彼を誘導するように先をあるく。彼はまた私の手を引いて、女中さんの後ろを歩き始めた。


(ねえ、これどういうこと?)

(いいから、今は黙って付いてきて)


 ひそひそと声を立てて聞いてみたのだが、……返す彼の声が怖い。声というか、声色か。怖いのはともかく顔を見ればすぐに緊張しているとわかったのだが、私にそんな余裕はなく、ただ背筋をぴんと伸ばして彼についていくしかなかった。

チョコチョコ進む話になると思います、すみません。

世界説明の方にあったほかの世界の話ももそもそ書いて行くので、そちらも気が向いたら読んでみてください。

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