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プロローグ:初対面

 この話は、第一世界→第九世界のおはなし。


/


 目を覚ますと、打ち捨てられた祠、そして枯れ木だらけの森に放り出されていた。気持ち悪いことこの上なかったが、自分の知る『世界の地獄』に比べればましなものだろうとため息を吐く。


「ここはどこだろうか」


 などと冷静ぶって言うものの、内心は全く冷静でない。先ほどまでは普通に下校していたはずの私が一体どうしてこんな仕打ちを受けねばならぬのだと舌打ちまでしそうになる。


 ちなみにどうして意識を失っていたはずなのに意識を失う直前下校していたということを鮮明に思い出せるのかといえば、だいぶ汚れてヨレヨレになり始めたセーラー服を身に纏っていたからだ。


「……夢かな」


 夢ならばと思って頬をつねったり、そばに落ちていた朽ちた枝で肌を傷つけてみたものの、痛みは当たり前に襲ってくるし、血が流れる。ということは、これは夢ではなく現実なのだろう。……しかし、こんな森がある場所、私の住んでる国にあったかなー。現代日本にはないでしょ、これ。


「うわあ、なにこれ」


 打ち捨てられた祠から外に出てみれば、そこはまさに『死んだ森』というのが相応しい居場所だった。祠からだと少ししか見えなかった枯れ木も、外に出てみれば360度、百パーセント枯れ木、死んだ木だらけだったというのだから、当たり前だ。おまけに足元に、虫ならまだよかったのだろう、が、先ほど死んだばかりだろうかと思われる栗鼠の死骸が転がっていたのだ。なにこれ、と声を上げてしまっても仕方ない。


「っていうか、ほんと、ココドコなわけ」

「死の森だよ」

「へー、死の森……って、ぎゃああああ!?」


 女子らしからぬ雄叫びを上げると、私にこの森の名を教えてくれた人物が大きく後ろにのけぞった。しまった、いろんな意味でしまった。驚かせてしまった上に親切にしてくれた人に対して不審人物に向ける目を向けてしまった。


 恐る恐るながら、顔を上げると、その人物――少年は、苦笑いを浮かべていた。歳は14か15程度だろうか?私とあまり変わらない年齢に見える。艶やかな黒髪と吸い込まれそうな黒い瞳をしていて、おそらく日本人だろうかと予想がつく。そもそも言葉が通じる時点で日本人であるのだが。


「……あ……あんた、誰?」

「あ、ごめんごめん。そうだよね、驚いちゃうよね。僕は薫、黒野薫」

「……いや……いいけど……」

「それで、君の名前は?」

「……フランシスコ・ザビ……」


 適当に思いついた教科書に載っていた偉人の名前を答えてごまかそうとしたところ、目の前の少年――カオルが、笑いをこらえているのがわかった。自分も頭の片隅にあったその偉人の容姿を引っ張り出してきて、『この名前はイカン!』と真面目に頭の中で警鐘を鳴らしてしまった。この名前は真面目にヤバイ。というかマズイ。女子が名乗るには殊更に。


「……如月唯」

「ユイ?ユイが名前でいいのかな?」


 何を言っとるんだこいつは、自分が日本式の自己紹介をしておきながら。そう思いながらも、それでいいと示すように頷いて手元にあった小さな石コロを握り締めた。

 ――んん?何かがおかしいな。


「ねえ、ユイ、それってセーラー服だよね、制服の」

「あ、うん、それがどうした?」


 思わず素直に肯定すると、少年はきらりんと目を輝かせた。私はなんじゃこいつと思いながら少年の表情がころころと変わる様子を眺めていた。そしてから――少年は、一瞬神妙な表情を浮かべて、私が最初どこにいたのかを尋ねた。質問の意図がつかめなかったが、すぐになるほどと納得して私は彼を最初に目を覚ました祠に連れていった。


「この祠だけど……」

「……えっ?」

「えっ?」


 私が祠を指差すと同時に少年は顔色をさぁっと悪くした。そばにいただけの私に血の気が引く音が聞こえたような気がしたんだから、ばっちり嫌なことです、ありがとうございました。もう勘弁してください。


「えっと、これなんなのさ」

「これね、……いや、なんでもない。ユイは、どこに住んでたの?」

「どこって言われましても。地球人ですし日本人ですけど。もしかしてあんたは地球人ですらないわけ」

「いや、僕は地球人だし日本人だよ。まあ、ここは地球じゃないかもしれないし日本じゃあないけど」


 ……は?いやいやいや、日本じゃないのはわかってたけど地球じゃない?確かに地球上には存在しそうにない物騒な場所だけど、本当に地球じゃないなんて私かけらも思ってなかったよ?一体どういうことなの。


「戸惑うよねえごめんね。ちょっと、一緒に来てくれる?」

「こんな状況で君に同行する以外に選択肢がありますか」

「そりゃ当然か。それじゃ、ちょっと僕の右手ぎゅっと握っててくれる?」


 言われて私は彼の手をぎゅっと握る。すると彼は口元で聞きなれない言葉のような、呪文のような何かをつぶやいた。直後、私と彼の体が青白い光に包まれたのを感じ、そして――


 本日二回目の、意識が飛ぶという感覚を実感した。わー、頭が真っ白になっていく……。

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