相澤兄妹観察記~傍観者の苦難
5月25日一部改稿しました。
コレでよしっと
オレはいつものように総司の動向をボスにメールすると携帯を閉じた。
どうもバスケ部モブ友人A佐木優です。オレの視線の先では今、
総司と雅ちゃんが腕を組みながら歩いている。あの二人仲良すぎだろ。あんだけイチャついてればボスも嫉妬するわ。
そもそも妹なんてもんは生意気で偉そうなもんだと相場が決まっているのだ。それなのに妹の方からくっついていく…だと!家の妹なんて、家の妹なんてぇ。あいつオレの事パシりやがって…くそっ羨ましくなんかないんだからな!
現在のオレの状況を説明しようと思うと部活終了時まで遡ることになる。
部活が終わり部室で着替えをしていた時だ。隣では既に着替え終わった総司が携帯チェックをしていた。
最初なにやらひきつった表情で携帯を見ていた総司だったが、携帯をいじるにつれその眉間にしわが刻まれていった。携帯を持つ手も心なしか力んでいる気がする。しばらく様子を見ているとヤツは血相を変えて荷物をまとめ、どこかに電話をかけながら挨拶もそこそこに大慌てで部室を出ていった。
これは何かあったな。おそらく雅ちゃん関連で。しかし今から追っても追いつけまい。あいつはドジっ子のくせに運動神経はいいからな。取りあえずこの事をボスにメールして、オレは部活仲間と腹ごしらえに駅の方へくり出した。
割と近場の高校に進学したオレだが、家は徒歩圏内では無いので高校へは自転車で通っている。自転車。それが有れば徒歩30分かかる道のりも約10分前後に短縮されるすばらしい乗り物である。しかしその利便性も集団行動ではまったく用をなさない。一緒に行動する人間が同じく自転車で有れば問題ない。だが一度徒歩の集団に紛れるとどうだろう。はっきり言って邪魔なお荷物でしかない。
そんなわけでひとまず自転車を駅の駐輪スペースに預けようと駅まで来ていた。どうせ駅近のバーガーショップに行くのだから問題ない。
邪魔な自転車を置き、さて行くかとなったところでオレは怪しく蠢く陰を発見した。建物の陰でコソコソと向かいの雑貨屋をうかがう二人組。よく見ると総司と城戸だ。
何してんだ?あいつら。と視線をたどるとそこには雅ちゃんがいた。それも男連れ。あの制服は西高だな。うちの高校もそこそこ高い偏差値だがそのうちよりも2ランクレベルが高い学校だ。男にしとくのはもったいないくらい可愛らしい顔立ちをしている。背はそれほど高くないが雅ちゃんがちっこいからそれ程気にならない。こんな事言ってボスの耳に入れば殺されそうだから口には出さないが、客観的に見てなかなかに可愛らしいお似合いカップルだ。
ここで発見したからには仕方がない。とりあえず職務を全うしなければと部活仲間に先に行ってもらい、目立たない場所から様子を観察することにする。ひとまず二人の写メは押さえようと雅ちゃんと西高生にカメラを向ける。相手の顔がきっちり分かるように撮るとデータを保存する。なかなかうまく撮れている。
…それにしてもあいつら目立つな。さっきからチラチラと視界に入って鬱陶しい。オレは雅ちゃんに向けていた視線を総司達に戻す。それなりのイケメン二人がかなり接近してごちゃごちゃやってるものだからかなり目立っていた。しかも一人は180センチ半ばの大男だ。目立つなというほうが無理がある。会社帰りのサラリーマンやらOLさんがちらちらと見ながら通り過ぎる。向こうの方には何やらキャーキャー言いながら二人を観察している婦女子、もとい腐女子の皆様がいらっしゃるようだ。薄い本がアツくなりますか…ソウですか…合掌。
まぁそんな事はどうでもいい。この写メをさっさと送ってしまおう。オレはひとまず二組を見守るのにちょうどいい位置のベンチに座りメールを作成する。周りに紛れるモブ顔のオレだが身長だけは総司と同程度はあるので座らないとそれなりに目立ってしまうのだ。手早くメールを作成し添付ファイルをつけて送信する。
コレでよし。ここまでしたら後はボスが煮るなり焼くなり好きにするだろう。恐らく事の顛末はボスの方が詳しい。あの人絶対盗聴器とか仕掛けてるから。ストーカー怖っ。
とまぁここで冒頭へ戻るわけだ。
さて、総司と雅ちゃんも行っちゃったしオレも部のみんなと合流すっかな。オレはベンチから立ち上がるとみんながいるであろうバーガーショップへ向けて歩き出した。それにしてもあの兄妹の観察は面白いわ。オレがニヤニヤしながら歩いていたときだ。後ろの方からオレを呼ぶ声が聞こえてきた。振り返るとそこには必死の形相の城戸がいた。
「佐木ぃぃぃぃぃ!ちょっと助けろぉぉぉ!」
城戸は叫びながらオレを掴むと裏通りに引き込みオレの陰に隠れる。おぉう何だぁ?
「き、城戸?どうかしたのか?」
ヤバい見つかった。オレは冷や汗をたらしながら肩越しに城戸を振り返る。城戸は脅えた様子で大通りの方を指差す。つられて正面を向くとそこには西高の制服を着たかわいい系美少年がそれはもういい笑顔で立っていた。タダシ目ハ笑ッテマセンガネ。
「あれ?邪魔者は一人じゃなかったんだね。まぁいっか一人ヤルのも二人ヤルのも一緒だよね。」
穏やかな口調に反してなんか物騒なこと言ってるんですけど…。手には何やら光るものが握られている。あきらかに刃物です。お巡りさんこっちデス。
っておいぃぃぃぃぃ!城戸ぉぉぉぉぉぉ!っざけんな!オレを巻き込むんじゃねぇぇぇぇ!!一緒じゃないから一人と二人じゃ罪の重さが全然違うから!何コレ!何コレ!初心な爽やか可愛い系美少年じゃなかったのぉぉぉぉ!邪魔者排除系ヤンデレじゃねぇか!最終的に監禁フラグゥゥゥゥ!さすが雅ちゃん安定の変態ホイホイ。
「話せば分かる。お、落ち着いて話し合おう。」
オレは両手を前に出して落ち着くようにジャスチャーする。少年はコテンと首をかしげ不思議そうな顔をする。
「話しなんてないでしょう?世界には彼女と僕さえいればいいんだから。」
完全に逝っちゃってるよ。オレはすばやく周囲に視線をめぐらせると武器になりそうなものを探す。視界の隅に大型のゴミ箱の姿を認めた。オレは一気にそれに間合いをつめて持ち上げると、少年に向けて投げつけた。重っ。中身は生ごみだったらしい。腰がやられたら城戸に治療費払わせる。
「城戸!走れ!」
そう言うと一気に路地を走りぬける。真面目にメニューこなしててよかった。こんなときだけは主将の鬼の練習メニューに感謝しつつ城戸と二人でがむしゃらに走る。
ちらりと後ろを見ると誰も追ってきていない。何とか助かったみたいだ。
それにしてもコレであいつに付きまとわれたらどうしよ。そしたら城戸はヤル。ゼッタイニダ。
佐木君は漫画だったらきっといろんなところに見切れていることでしょう。
ちなみにボスは魔王こと佐伯一馬さんのことです。
ここまでありがとうございました。