海の底で見る夢(2)
どれだけ深くもぐったのだろう。
視界はとうに暗闇に閉ざされている。
私にしても、ここまで海の深くにまで潜ったのは始めての経験だった。
息はまだ十分余裕があったが、水圧が身体中を締め上げてくる。
まだ底は見えない。
視界の隅で一瞬、強い光が揺れたような気がした。
私は視線を落ちていく海の底へと向けた。
少し先では、赤や青、紫に緑、色とりどりの明かりを灯した何かが漂っている。
「いけない」
思った時にはすでに遅く、光は急速に近づき、私は光の中へ入り込んでいた。
密度の濃い液体のような身体をくねらせ、あちこちで鮮やかな色彩が暗闇を彩っている。
「クラゲだ」
幻想的な光景とは裏腹に、背筋に緊張が走る。
光の中心からは、ユラユラと細い触手がいく本も伸びている。
触手は四方から私を取り囲み、手や足に絡まりついてきた。
無理に動こうものなら、全身に絡まりついた触手が、一斉に私を攻撃してくるだろう。
私は思わず肺に溜めた息を吐き出してしまった。
海の中では、思考の揺れは天敵だ。
何かに囚われれば、海の声は途端に遠ざかる。
息苦しさと不安が私の心の端に手をかけようとしていた。
私は目を固く閉じると、海の音に意識を集中する。
コポン、コポンと気泡の昇る音が何処からか響いてきた。




