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Short Short Circuit

いつもと

作者: 境康隆

 私はいつもと変わらない。いつもと変わらない朝を迎えた。

 妻もいつもと変わらない。いつもと変わらない朝を迎えている。

 私はいつも妻にネクタイをしてもらう。いつもと変わらない朝のネクタイだ。

 妻もいつもと変わらずネクタイをしてくれる。いつもと変わらない朝だ。

 私はいつもと同じくこの後会社に出かける。それはいつもと変わらない一日だ。

 妻もいつもと同じくこの後家事をこなす。それもいつもと変わらない一日だ。

 私はいつもとは違った昨日一日を思い出す。いつもなら残業をする一日だ。

 妻もいつもと何も変わらない一日だったはずだ。いつもの私の帰りを待つ一日だ。

 私はいつもと変わらないはずだった昨日を思い出す。いつもの残業が突然なくなった昨日だ。

 妻もいつもと同じ昨日だったはずだ。妻はいつもと同じ表情だったからだ。

 私のいつもの残業は昨日はなかった。それはいつもはあって当たり前の残業だった。

 妻はいつもの残業で遅くなる私を我慢して待っている。それはいつもと変わらない我慢だ。

 私はいつもの残業相手に言われた。いつもいつも代わり映えしないのよあなたはと。

 妻はいつもいつも代わり映えをしない私に文句を言わない。妻はいつも同じ顔だ。

 私はいつもより早く昨日家に帰ってきてた。いつもと違う帰宅時間だ。

 妻もいつもと変わらなかった。私が残業から帰ってくるいつもの時間に夕食を用意した。

 私はいつもと変わらない風を装った。いつもと違うと悟られたくなかったからだ。

 妻もいつもと変わらない風に見えた。いつもと違う風には見えなかったからだ。

 私はいつものネクタイを締めてもらった。いつも妻はキュッとネクタイを締めてくれる。

 妻はいつもと同じくネクタイを締めてくれた。いつもの朝だ。

 私はいつもと同じ朝にしたかった。いつもと変わらないのだということにしたかった。

 妻はいつもと違う朝を迎えた。いつものネクタイを今朝はいつまでも放さない。

 私はいつもと違った昨日を思い出す。いつもと違うから悟られたようだ。

 妻はいつものネクタイを放さない。いつものネクタイを締めたまま放さない。

 私はいつもと同じようにしたかった。だからいつもと同じように出かけようとした。

 妻はいつものネクタイを放さない。いつものネクタイを締めたまま放さない。

 私はいつもと同じようにしかった。だからいつもと同じように出かけようと歩き出す。

 妻はいつものネクタイを放さない。いつものネクタイを締めたまま放さない。

 私はいつもと同じように…… したかった…… だからいつもと同じように出かけ……

 妻はいつものネクタイを放さない。いつものネクタイを締めたまま放さない。

 私はいつもと同じ…… ように…… だから…… いつもと……

 妻はいつものネクタイを放さない。いつものネクタイを締めたまま放さない。

 私はいつもと…… 同じ…… いつもと……

 妻はいつものネクタイを放さない。いつものネクタイを締めたまま放さない。

 私はいつもと……

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