静かにしろ頭が痛くなると言われて黙ったら泣いて謝ってきたので黙ってほしい
「はぁ、疲れた」
「お疲れ様です。これをお願いします」
「今……私は疲れたと言ったはずだが」
「今日中に提出しなければならないので、提出できないというのならお好きになさってください。私はあるということを伝えているだけですので」
黙って労るには仕事が遅い。あまりに遅い。何度か量と決済時間が合わないので量を減らすように伝えたら彼が「減らさないでくれ、仕事ができていないと思われるだろう」と言うから、こっちとしては宇宙を背負う顔を浮かべてしまった。
「少し静かにしてくれ。その声を聞くと最近、頭が痛くなる」
いや、できてないってことはできていないの何物でもないんだけど。それでもやれなくて、フォストンの仕事は溜まっていくばかり。今も過去最高に仕事が溜まって血液ドロドロの如く、色々詰まっている。
パイプが詰まるというより、車の渋滞のように動かない。最後には今みたく止まってしまう。休憩などとそれらしいことを言うが、仕事を無理やり抱え込んで、こうやってやれている振りをしているから疲れるのは当たり前。
「……承知しました」
ベティリーが手伝って一部が終わる毎日の繰り返し。善意で手伝っているので休みたいのなら好きに休めばいい。休むだけ仕事は増えるのだから、減らさない彼がそもそも悪い。それなのに何を甘ったれているのか。
こちらが酷いことを言っている風に述べるが、全ての原因は向こうだ。ため息を吐きたいのはこちらであると思っていると、カラララと音がして横開きのドアが前触れなく開く。
「フォストン様。そろそろ休憩しませんか〜?うふふっ。美味しいお紅茶も用意したんですよ?」
男爵家の娘であるデスターが部屋に入ってきた。いくらここが学校でも礼儀もマナーも無しの訪問に何か言いかけた口。しかし、それより先に婚約者がはしゃぐ。
「おおっ、気が利くな!」
気が利くとかそういう場面ではない。あまりにも気安い態度で頭が痛くなる。二人の教育係でもないので黙った。
「あ、ベティリー様の分はないんですよ。ごめんなさぁい」
「お気になさらず」
一言だけ言うが、飲みたい気分には到底ならない。うず高く重ねられている仕事がフォストンにはもう見えないのだろう。いそいそと設置されているテーブル席へ居座る。男爵令嬢も反対側に座る。
「フォストン様。このあと、一緒にカフェに行きませんか?」
「息抜きになる。行こう」
仕事がまだ残っているのにカフェに行こうなんて、更なる仕事を溜め込むつもりらしい。何か言うこともせずに二人がでかけるのを見送った。
途中、生徒会室に書類を受け取りに来た生徒達が来たが理由を教えて帰ってもらう。せっかく来たのに何も得られなかった面々は肩を落として王子に恨みを少しだけ持っていき、最終的には恨まれるのだろう。
学園の生徒会さえ運営がままならないのに、将来王になってもこのままで行くのではあれば国の仕事などしてもらえない、と親に報告されるのだろう。
ベティリーは確かに婚約者だが婚約者の仕事を手伝う真似はしない。なんだかあっちの功績にされそうだし、彼の仕事をする決定権もない。あくまで伴侶として契約上結ばれた関係だ。
無闇にあれこれ手伝うのはおかしい。側近や補佐の人間も手伝ってはいるが、彼らとしてもやれることなんて精々端くれ。王家の仕事にがっつり関わってやることなど、怖くてできない。それは己も同じ気持ちだ。
貴族たちだって、生徒達だって家の問題やこれからやろうとする事業などを一介の令嬢や令息に見られるなど、悪用されかねないと国に仕事を任せられなくなる。信用を大きく損なう。
王子にはなぜかそちらの気持ちがわからなかったのだ。彼は毎日毎日気づかないうちに支援者を失っているのだ。声の大きい支援者も、声なき支援者も。ベティリーは絶対にそれをやらない。
当たり前になってしまえばつまりは、王がいらないと言うことになるから。周りが先に気づくべきだ。まだ学生の人間の支えを土台にして政治は行われてはならない。もたれかかられてはベティリーがぷちっと潰されてしまうから。
どこのブラック労働の末の話になるのかと思ってしまうのは仕方ないだろう。彼らはまだ実感していないらしいが。無自覚とは恐ろしい。ベティリーが手伝わなかったらとっくに崩壊していると言うのに。
カバンから【婚約による双方の同意書】という文字が書かれた紙を見る。ベティリーは継続と拒否の欄を見つめながら、丸をつけた。この傾斜は婚姻後の関係が悪化して水の泡にならないようにという、家を存続させるために危険な道を渡らないためのシステムであり、契約上許されたものだ。
婚約者はすでに学園で過ごしている間に成人をする年齢になっている。この前誕生日の婚約者枠に呼ばれたからいやでも覚えている。ベティリーもあと三日で成人として扱われる。
それから一ヶ月後には、この紙に記載したものを元に婚約を続けるか否かを決定付けられる。双方の親はそれを尊重しなくてはいけない。親が嫌がるベティリーを説得するためにこの方法になったのだから、記載する重みは婚約者とは違う。
フォストンは同世代たちと遊ぶことばかりを考えることで、頭がいっぱいなのだ。王太子はまだ決まっていないことが幸いなのだろう。今回でもし破談になろうと次に王家の系譜にあてがわない契約もギチギチに決められている。
あちらがダメなら、もう一人なんてキリがないしたらい回しなんてそれこそ、女というものを馬鹿にしている。繰り返したら恨みを買うことは必須。そんなことにならないように親は娘の言うがままにこれを製作したのだ。
製作しなかったら修道院に行くと脅したのだ。令嬢として領地のために生きるのは構わないが、王や王子たち。王家達が楽をするための、便利な道具扱いをされるためにここまで苦労して勉強し、外国語を学んだわけじゃないのだから。
高位貴族でそれを望まれるのならば、まず王家自体が必要ないと宣言するようなものだ。大貴族として、それだけは受け入れられない。そんなもののためにここまで生まれて生きてきたのではないのだ。自分がいればうまくいく、だから口を閉じて王家の女として支えてくれと言う周りの視線を弾き続けた。
周りが割食うのはわかっている。けれど、元凶はベティリーではない。彼らや王子を教育して賢くできなかった、失敗した親世代のせい。ベティリーは彼らの子供と同じ歳なのだ。
教育スケジュールに介入させてもくれなかったくせに、今更失敗作をこれ見よがしに見せてどこのコンテストが受賞させてくれる。これならばまだ、三歳児が作ったお皿の方が金賞を受賞できる。
あれはもうダメだ。フォストンは政治を回すにはあまりにも普通すぎて、王家の血筋でなければ王城に入る資格さえ与えられなかっただろう。血だけは立派な製造機。そう、評価するしか他に使い道などない。受け皿になるつもりはない。丁度ちょろちょろしている女生徒がいるから、囮にうってつけだった。
ベティリーの誕生日イコール契約の最終確認だとは頭にない。あの女がいなくても気付く可能性はほぼなかったが。百パーセントない方がいい。親に再三言われていたとしても適当に継続に丸をつけて、それで今後も変わることなく安泰だと軽い頭で見通したに決まっている。
それを見て、関係を再構築しようなどと思うわけがない。ベティリーの誕生日までのタイムリミットが迫っているというのに、あの態度からして何もする必要はないとあぐらをかいていた。しっかりこちらもそれを確認して、決意は揺らがないと確信できたのは喜ばしいこと。
控えも何枚か描いて、各所に保管させておく。万が一王家が手放したくないからと書き換えていたとしても、全ての紙が違う箇所に丸をつけられていた場合、即刻契約違反として膨大な違約金が発生する。簡単に手は動かないようになっていた。
今後、王家が令嬢に施す支度金をある程度残しておかないと後がなくなる。それを知るベティリーはクスッと笑って王へ両親と共に向かって、紙を差し出す。すでに成人として扱われているので、親を説得しようと答えを無理矢理捻じ曲げることはできない。
「本当に……こちらなのか」
「それは、私の意思を無理に変えようとしている質問なのでしょうか」
「ち、違う……だが、息子とはもう長いではないか」
今更ぐちぐちぐちぐち、うるさい。話したくないのなら息子の方を離れたくないと思わせるように磨けばよかったのだ。ただ、それをするだけで周りからも尊敬と敬意を集めて安定した時代を過ごせたのに。ベティリーだけ荷重に役に立たない重石を乗せて、それをおぶって仕事をしろなどと。そんなのは奴隷ではないか。
そもそも我が家は代々王家と縁を結ぼうとしていたのだが、当時の婚約者の男側が何かしらやらかして代々白紙や破棄、契約違反により後一歩を逃してきた。
祖母のときは当時の婚約者を暴漢から守った。のにも関わらず王子の方がビビって婚約を白紙にした。祖父は今でも首筋に薄い線があり、面白可笑しく当時を語る。
母の代は今目の前にいる王ではなく王の兄が相手であったが、その兄王は豪遊に耽り甘やかされた結果。年上の母を口うるさい貴婦人と年頃の令嬢に向けて、悪質な悪口を常々投げつけたとか。相性の悪さにより、婚約は自然消滅。
だが、どうやら母を好きだったらしい。何を言われても好きなままでいるべきだろ、婚約者のくせに。などと暴言を会うたびに以前より悪化させて、隣国の次男だった父も目の敵にして何度も騒ぎにした。
貴族の目がある中での醜態に、幽閉、のちに遠い僻地に封地となったのだ。そんなこんなでついに今回は問題なく結べるのかと、当時、父と母に頼み込んだ今ここに居座っている方の王。
生まれたばかりの娘の話を聞いて、異性ならばと婚約を取り持った。しかし、全時代のトラブルが重なり契約書がああも本人に委ねるものへと変化したのだ。ベティリーはそれをいまになっても、とても感謝している。人には相性というものがあるから。
「今日もあの人は、生徒会の仕事を放り出して、最近仲がいい女子生徒とカフェに繰り出していきましたよ」
「な、なにっ」
王はこめかみをピクピクさせて、聞いていないのか初耳な反応をする。今日、来るようにでも言い聞かせていたのかもしれない。
「その時、私にあの人はなんと言ったかわかりますか?王」
王は、こちらの怒りが手に取るようにわかるよか、ごくりと喉を動かす。手遅れなのにまだ回避できると思っている。ずるい大人には、どうしようもない現実を見せる方がいい。
「あいつは、なんと言った」
聞く気はあるらしい。こちらは薄く微笑み、目を光らせた。
「静かにしろ。お前の声を聞くと頭が痛くなる。そう、婚約者に向かって言いました」
王はギュッと手を掴む場所を握り込み、目を辛そうに閉じた。そんなことをしたところで、息子に通じるものなどない。今彼は見た目は可愛く王妃にするには足りなさすぎる令嬢と、隣り合ってカフェでケーキでもつつき合っているのだから。
「王、あなたは声を聞けば頭が痛くなる二人がうまくいくと本当に思いますか?まだ、私が寄り添わなければ足りないのでしょうか?」
今までの代々の王家の婚約者たちだって、なによりも寄り添った。祖母は守ったし、母は子供の精神から成長しない男をギリギリまで待ち続けたのに。それなのに、あなたはまだ足りないと言うのか?
言えるのなら言ってみるといい。祖父は王子を命懸けで守り、母は隣国とのパイプを祖国と繋ぎ強くした。その娘にどこまで望めるのだろう。
やらかした方は、王子らは何もできていないというのに、令嬢の方の家にだけ寄りかかりすぎているのだ。恥ずかしくはないのだろうか。
怯えて、怒って、遊びふけて。三人も連続して悪いのはそちら側だというのに。毎回毎回、系譜たちの優しさに漬け込む寄生者は一体どちらなのか?
王家の直系はいささか問題がありすぎる。疑問が湧くのだ。劣勢の遺伝子がやけに目に付く、と。それに対して、うちの家系は誰も彼もが良き伴侶を得て、祖国に少なくない富や名声を手に持ち帰っている。
本来の王家であるべきなのは、ベティリーたちの方なのではないか。どこかの代で入れ替わっていたりして、いつも劣等感を持つ血筋に納得がいく。確かに逆なら、王家の人間が謎に執着や拒否感を感じるのは、至極当然なのかもしれない。
古来より定められている、劣っているという感覚が血に入っているのではないか。祖母に助けられながら、捨てた相手。母に恋をしていたのに怒鳴った相手。ベティリーに隠しもしない優秀な婚約者への嫉妬の視線。
煽ったことも揶揄ったことも、馬鹿にしていることを口にしたことも、顔にも出したことはない。ただ、バカだと思ったことは親よりあるが。おくびにも出したことはない。
さらっと手伝って、優秀さを見せつける前に婚約者の視界に入らないようにしてきた。興味を持って欲しいわけでもないし。会話などもっての外。碌なことを言わない。やれ、これをやれあれをやれ。
拒否するとお前は婚約者だろうと、なんの理由にもならないことを毎度言われる。何度言えばいいのか。商会や会社で言うのなら、婚約者はまだ社員じゃない。ただの令嬢に決済する権利はまず、ないのだ。
何度言っても、王子の彼曰く言わなければわからないと言う。文書偽造の罪に加担させようとする王族など、笑えない。のちにその罪を着せて罪に問おうとしているのではないかと、疑心暗鬼になるのも当然だ。知らなかった、やらされたなどと通じない。
王子は罪にならないがベティリーがやったらその途端、罪になるのだから。話す気になれるわけじゃない。極め付けは今日の言葉。久々に業務以外の言葉が送られたと思えば。
「黙れと、言われました」
「……息子はそんなつもりでは」
「つもりで人の心が繋ぎ止められるのなら、よいのではないですか?」
「う」
つもりじゃないと親心で庇いたい気持ちはわかるが、ベティリーが受け入れる義理は一つもない。
「どうせ、婚姻した後は仕事を押し付けても逃げられないから、仕方なくやるだろうという思惑が透けているのです」
王にわかりやすくレクチャーをする。これでわからないのならば、もう知らない。というか、知ったとしても面倒を見る義務すらない。ただの令嬢に王家の男児を導く義務はない。国のために働くつもりはあるが、無駄飯ぐらいを無駄に肥えさせる気はない。
王へ圧の強い視線を向けるとまだ何も言えない側。ベティリーは今後も付き合う気はなかった。一ミリも時間を渡したくはない。今までだって時間を無駄に使わされた不愉快感で満たされている。
国の言うことは聞きたくない。技られたくない。王子はあんなに何もできないのに、なぜベティリーにはなにかを期待するのはおかしい。帰るのならまず、自身の息子からだろう。間違えてはいけない。
「何とかならないのか」
ゴミに何を与えてもゴミのままだ。
「生徒会の仕事も満足にできないのに、どうするのですか」
「……優秀な王妃を当てがえばと」
「王と同じ仕事をさせるのに仕事量は王より上、立場は下など誰が納得してその地位に居座るというのですか」
ベティリーは絶対にそんなの嫌だ。過労死させられる前提ではないか。夫になる相手がカフェに行く時間を捻出するために受け持つなど、どんな令嬢だろうと怒りを買い。
他家の身内がキレないわけがない。ベティリーだって、長年意味のない日々を過ごさせられて、いったい何を無駄にしたのか問いただしたくなるほどなのだ。
誰を当てがおうと、相手の頭空っぽで毎日肩代わりさせられるなど割に合わない。一人を犠牲にして債務をさせるなど、そもそも破綻をしているというのに。
ベティリーが王に問いかけると何も答えられなくなる。あんなでも、息子。しかし、失敗作といばって言えるほどの作品を景品にしたら王家派が一気に離れるだろう。
うちも真っ先に離れるので、その時点でかなりの痛手になる。他の家も離れるかもしれないが、あのちゃらんぽらんを他に挿げ替えたり、第二位の継承者へ譲ればなんとかなるかもしれない。
フォストンは失脚するだろうかもしれないが、貴族たちを怒らせて王家を弱体化させるよりはいい。ロロナに気を取られているうちにさっさと入れ替えるなり、城に閉じ込めるなりすればいいのだ。
こう垂れて反論をなくした王を放置し、家に帰ったベティリーは自由な時間を趣味と実益に使うことにした。
「うん。美味しい」
ノンアルコールカクテルを口にして、頬を緩めた。小さな頃からその手の知識を応用して、隣国にノンアルコールのお酒を作る工房を建てて出荷していた。ブランドとして品質を高めてきたが、今回漸く時間が満足に取れるのだからと没頭する時間に全て当てるのだ。
隣国なのは、貴族として令嬢だとバレて色眼鏡で見られるのを避けたくて。ただの生産者として評価されたくて隣国にした。貴族として自国の役に立つが、貴族ではない部分は利益を一つも渡したくなかったので自国で売ることはしなかったのだ。
自国の役に立つということは、フォストンの評価を上げてしまうことになる。それだけは嫌だった。うまくいって隣国でかなり有名となり、今回しっかり着手することになったのはタイミング的に最高だった。
隣国での新作発表も考えている。今はもう自国から出ても誰からも何か言われることはない。王妃候補が隣国にばかり行くと理由のない非難を受けるから。なかなか行けなかった。
隣国に行くとノンアルコールのファンだと熱烈に、手紙をくれた男が待っていた。平民か商会の人間だと思っていたのに、会ってみるとただならぬ気配がする。平民……らしくもない。
貴族の次男とかでも……なさげ。急に他人のふりをしたり、お腹が痛くなったりしてここから離れないといけないのかと、顔がこわばる。
「待ってくれ!私が君の作ったノンアルコールに手紙を送った男だ。ずっとやりとりをしてくれていただろう。帰るなんてしないでほしい」
目をうるうるさせて、そこまで言われてウウッとなる。話を聞くことになり、歩きながらおすすめを教えてもらい、自己紹介をしてみた。すると、手紙には一切なかったものが表に出てくる。
「王弟の孫だから、継承権はないが爵位を貰っている」
「そうなのですね。お酒作りには関係ないですけど」
「ふふ。そうでもない。ノンアルコールを作る工場を優先して、土地を抑えているんだ。私の名を使うと買いやすい。後ろ盾になれば長期間契約も可能だ」
「えっ。ほ、本当ですか!」
「はは、本当だ。やっぱり食いついたな」
楽しげに色々教えてくれる人。話していると気が合う。ノンアルコールの熱烈なファンは伊達ではない。隣国に輸出しているものを試飲しては、合う食べ物も教えてくれる。
彼はお酒が全く飲めなくて、周りが飲むのを羨ましく思っていたが。それで飲めないことに落ち込むとノンアルコールの登場で人生が変わったと語る。手紙にも書かれていたので知っていた。
時が経ち、隣国に本格的に工場と工房を移動させて祖国から離れていた。その間にベティリーの名前とノンアルコールは祖国で大ブームが起きていた。しかし、隣国からの輸出により関税が高く設定されている。奇しくも自国の令嬢であり国母になるはずだった女の大活躍に、生まれた国の面々は大使や手紙を通じて誘致するが。
「また来たのか」
「パーティを内で開いてほしいって」
「懲りないな。なにもないときは便利使いして、酷使していたくせに」
憤慨する彼はベティリーの事情を知っている。苦笑すると、手紙を畳み元に戻した。
「落ち着いて。絶対に戻らないし、なにがあってもあそこの国に工場は置かないから」
税金が大量に祖国に行くなんてベティリーも嫌だから。彼はホッとした顔をして手に触れてくる。握り返すと、デスターはさらに強く握った。
元婚約者はノンアルコールが知れ渡るとベティリーへの態度の悪さと、押し付けていたものや逃した魚などと言われて散々、各所に責められていると聞いている。
ロロナもベティリーを共にいじめたと知られて、格下の貴族が調子に乗ったのだと家ごと大ダメージを受け続けているとか。元婚約者の手紙が実家経由で送られてきた時は、再びの再婚約を打診されたが。
「ワインは失敗すると味が桁違いに悪くなる。彼らは私が管理するには品質がイマイチだったってだけ」
デスターがパッと笑って頷く。
「永遠に熟させておけばいい。そうしろ」
どこにも逃げないというのに、ぎゅっといつまでも離さない手がとても頼もしい。最近は特製ジュースを楽しみにしているらしく、隣から離れず常に試飲したりと制作者ごと逃さない勢いだ。
意見や評価が的確なので、よきパートナーに恵まれた幸運に乾杯した。
最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。ノンアルコールの話を書きたくてやってみました




