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タイムマシーン・ロッカー  作者: MMPP.K


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第一話 金曜のすれ違い

 金曜の放課後は、いつもより空気が軽い。

 授業が終わった瞬間、教室のざわめきが一気に弾ける。


「今日さ、帰りに寄り道しよ」

 幼馴染の彼女が、鞄を抱えながら言った。


「いいよ」

 俺は何気なく返した。

 そのときは、本当に行くつもりだった。


 でも。


 昇降口を出たところで、サッカー部の連中に声をかけられた。


「おい、フットサル行くぞ。人数足りねえんだって」

「ちょっとだけな」


 ちょっとだけ。

 高校生男子の一番信用ならない言葉だ。


 気づけば一時間が過ぎていた。


 スマホを見ると、彼女からのメッセージが一件。


『どこにいるの?』


 胸がざわついた。

 急いで校門に向かう。


 彼女は、もういなかった。


 翌週の月曜。

 彼女はいつも通りに話しかけてきたけれど、その笑顔の奥に、薄い膜のような距離があった。


「……ごめん、金曜」

 勇気を出して言うと、彼女は少しだけ目をそらした。


「ううん。もういいよ」


 もういいよは、本当にいいときには使わない。


 その日の帰り道、俺は旧校舎の前で立ち止まった。


 さっきの喧嘩の続きが、まだ頭の中に残っていた。

 家に帰る気にもなれなくて、ただ時間を潰す場所を探していた。


 薄暗い廊下。

 誰も使っていないロッカーが並んでいる。

 その中のひとつ──十三号だけ、なぜか鍵がかかっていなかった。


 気になって扉を開ける。


 ガコン。


 金属が噛み合う、古い音。


 中には、黄ばんだ紙が一枚だけ貼られていた。


【十三号保管箱】

 1.閉じると三回までやり直せる

 2.やり直すたび、大事な記憶が消える

 3.消えた記憶は戻らない


「……なんだよ、これ」


 意味なんてわからない。

 でも、胸の奥に残っていた後悔が、この紙に吸い寄せられるように疼いた。


「やり直せたら、戻れたらいいのに」


 その一言が、指先を勝手に動かした。


 扉を閉める。


 ガコン。


 廊下に響いたその音は、どこかで聞いたことがあるような、そんな気がした。


 ──火曜。

 彼女は、何事もなかったみたいに笑っていた。


「ねえ、金曜さ。帰りに寄り道しない?」


 胸の奥が、ひやりとした。

 彼女は、すっぽかされたことを覚えていない。


 いや、その記憶だけが抜け落ちている。


 俺はまだ、その意味を知らなかった。

 


毎週月曜日 お昼12:00更新(全4話)

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