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喚び寄せる声  作者: 若竹
8/70

第8話 迷い子

h22.10/12 改稿しました。

 

 ヴァルサスは目覚めたばかりの私に質問をしてきた。私としては、答えにくい内容ばかりで返答に困る質問だらけだ。


「ユウ、君はどうして魔物が出た時、あの場所に居たんだ?」


 うっっ、と思わず私は言葉に詰まる。


 魔物とは怪獣クンの事だろう。この質問には答えられそうにない。

 だって、私にも全く訳が分からない事柄をどう説明すれば良いというのだろう?

 本当に全くもって解らないのだ。


「本当に分からないんです。気が付いたら、そこに居ました」


 私はヴァルサスの眼を見て話をしようとしたが、顔が私よりかなり上の方にあるので視線が合わない。必然的に見上げる形となった。

 見上げて更に、上目使いで彼を見る。


 ヴァルサスは背が高い。こんな風に見上げる事なんて、普通無いだろう。日本人では考えられない程の長身だ。

 私は首が疲れてきた。疲れが表情に出たのかもしれない。

 ヴァルサスは私の様子を見て椅子から立ち上がると椅子を脇に除け、私と視線を合わせるように其の場に跪いた。

 私は驚いた。ヴァルサスの観察力や、さり気ない気遣いと優しさに。その何気ない風を装った優しさが自然に出来る人間である事がほんの少しの間に解った。


 ヴァルサスは優しく微笑んだ。


「迷子になったのか?ユウのご両親は?」


 ……迷子。いい年をした女を相手に迷子とは。私って一体どう見られているのかしら?若干へこんだ。いや、若干よりもう少し凹んでいるかもしれない。


 ヴァルサスの態度はまるで迷子センターのスタッフさんのよう。彼は本当にやさしいです。デモ、子供扱イ。

 いや、待て。これはもしかして、ワザとなのかしら?しかし、ヴァルサスの表情は真剣そのものだ。ううむ。


 ヴァルサスが跪いたので整った顔が、あの美しい瞳が良く見える。それにしても本当に格好良い人だわ。

 同じ人間とは思えない。こんな人今迄一度も見た事が無い。最早感心しながらユウはヴァルサスの質問に答えた。


「親とは、離れ離れになってしまいました。もう会えないと思います」


 何とも話し難い。我ながら苦しい内容の返事をしているが、嘘を付いている訳では無い。

このままでは舌を噛みそうだ。

 でも、本当の事を言っても信じてもらえるだろうか?決してそうは、思えない。

 それどころか病気扱いか、もしくは下手をすれば魔物と間違えられたりしてっ!

 ううむ。

 私の脳は今迄に無いくらい素早く回転している。


 そもそも、私、死んだんじゃなかったのかしら?何で、生きているのかしら。本当に訳が解らない。むしろ、私の方こそ誰かに教えてもらいたいくらいだ。

 それでは、此処はどこ?天国?それとも地獄?でも、死後の世界には思えない。まるで違う世界に居るみたい。しかも、何故か自分が使えたあの力。


 不思議だ。……もうそれ以上言い様が無い。


 どうして生きて此処にいるのだろう。ふと思い出す、あの呼び声。死ぬ前に夢ともうつつとも分からない、白い空間に漂っていた私のあいまいな意識の中で聴こえた声。


 耳に心地よい低めの、そして少し甘い声。


 ヴァルサスの声に似ている。


 ――――あなたが私を此処に呼んだの?


 そう、心の中で問い掛けた。


 質問に答えた私の返事を聞いてヴァルサスは少し顔をしかめた様に見えたが、その表情は一瞬で何も窺えない表情になった。もしかして、私の見間違えだったのかもしれない。


 ヴァルサスは真剣な顔で私を見ると問い掛けた。


「ユウ、ご両親が見つかるまで、此処で私と共に過ごそうか?」


 私への配慮に満ちた優しいヴァルサスの問い掛けに、私は驚いた。いきなりだったからだ。しかし、言われてみて初めて気付く。

 私には何処にも帰る所が、居る場所が何処にも無い。此処が何処なのかすらも解らない。


 そうか、私、本当に迷子になっちゃったんだ。ヴァルサスの問いかけは正しかったのだ。

 私は心細くなった。この訳のわからない場所で唯一人、私は強く孤独感を覚えた。


 もし、あの声がヴァルサスだったのなら。不思議な力で此処に私を呼んだのだったら、そのくらいしてもらっても悪くは無いだろう。

 そう考えないと私は彼に甘える事が出来そうに無かった。初対面の、何一つ知っている事の無いヴァルサスに。


 ヴァルサスから差しのべられた手に、私は一も二も無く飛び付いた。


 本当は不安で仕方無くて、誰かに手を握っていて欲しかったのかもしれない。

 彼の手の温もりは、母の手の温もりを想い起こさせた。


「はい、よろしくお願いします」


 三十路で迷子という状況の私は、ペコリと彼に頭を下げた。






読んで下さる方や、お気に入りにして下さる方が増えました。

とっても嬉しいです。

これからも、宜しくお願いします。

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