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喚び寄せる声  作者: 若竹
5/70

第5話 甦る輝き

今だに登場人物の名前が出てきません。もう少し話が進むと出てきますので、もうしばらくお待ち下さい。

h22.10/10 改稿しました。


 私の眼の前にはぐったりと地面に仰向いて倒れている男性がいる。

 その姿は、泥や埃にまみれて襤褸雑巾の様だ。鈍い灰色の髪も汚れている。

 しかし、その澄んだ深い青の瞳が、眼差しが、とても印象的でこんな状況なのに彼の外見に反してなぜか惹きつけらた。


 この人だ。この男性が私を引き寄せるのだ。私は唐突に理解した。

 何故こんなにもこの人に惹きつけられるのだろうか?解らない。この澄んだ瞳の所為かも知れない。


 彼は私の方を見るとゆっくりと力なく微笑んだ。

 けれど、その微笑みとは反対に青の瞳はゆっくりと力を失っていく。

 このままでは二度と彼の美しい瞳と相まみえる事無く終わってしまうと私は思った。

 ――――この美しい澄んだ瞳と。



 目の前の彼には目立った外傷は無い様に見えるのだが、どんどんと生気が奪われていくように視えた。

 私は彼に近づくと、先程赤毛の男性を癒した時と同じように手を翳す。

 しかし、変化が見られない。全くもって彼の容体は一向に良くならなかった。こうしている間にも彼の生気は失われていく。

 私は焦った。

 何としてもこの男性の命を救いたいと願う。今では力無く閉じられてしまった瞼の奥に存在する美しい瞳と再び逢いたい。


 私は流れ出る生気を押し止めるかの如く彼の胸へ、心臓の真上へと手を当てた。


 自分の中から力が流れ出していく。さらさらと流れる水の如く触れ合った掌を通して、倒れている彼へと流れて行く。私の生命力そのものが流れて行っているのだと私の思考が教えてくれる。


 それでもいい。それでこの目の前の男性が救われるのなら。


 私は唯ただ願った。

 もう一度その瞳が、命が輝きますようにと……。






 彼は薄れゆく意識の中ぼんやりと考えていた。

先程まで彼の心を占めていた絶望的な感情は消え去っていた。


 召喚にて呼び出した虹色の女?は魔物からこの砦を救い、さらに傷ついた仲間たちをも癒してくれた。まるで奇跡が起きた様だ。目の前で生じた事柄が、にわかには信じられない。あの悲惨な状態の部下達が助かった。数多くの尊い命が救われたのだ。

 普段は神の気まぐれな奇跡など信じていない自分でさえ、この神が起こした様な奇跡に感謝する。

 皆、救われたのか。……本当に良かった。


 ――ああ、これで私の役割は終わった。


 この召喚はイレギュラーが発生したようだった。召喚自体は正常に働いたようだからだ。そのため通常とは異なる存在を召喚してしまった。

 召喚は失敗すると召喚獣の姿を形成する事ができず四散してしまう。結果としては召喚獣が出現しないのだ。


 イレギュラーは発生率自体がとてつもなく低く、彼自身実際に経験するのは初めてだった。



 幸運な事に期待以上の働きをしてくれたこの虹色の女の姿をした召喚獣は、明らかに上位に属するモノだと思われた。そんな存在が此処に現れてくれた。まさに奇跡を起こして。


 召喚獣とは、召喚対象を総称してそのように呼ぶ。

 今回の存在は魔に属するモノか、聖に属するモノかは不明だったが上位魔神か上位の神にも匹敵した存在だったのかもしれない。


 しかし、先程現れた召喚獣は彼の知り得る知識の中には存在しなかった。


 初めて見る召喚獣の活躍によりこの砦と、多くの人々の命が助かり被害が抑えられた事に心の底から神と召喚獣に感謝した。


 この危機を乗り切った自覚が出ると、とたんに自分の事にも意識が向く。おかげで不良な体調である自覚も一緒に出てきてしまった。


 こうやっている最中にも次々と自分の体から力が失われて行くのが分かる。

 もう、座っていることすら出来ない。其の場に崩れ堕ちる様に横たわる。


 顔をなんとか皆の方に向けると女の姿は消え去り、そこには救われた仲間の騎士達、召喚士達が見えた。立ち上がって茫然としている者もいれば、抱きあって喜びを噛み締めている者も見えた。彼らから歓声が上がる。

 知らず笑みが浮かんでいた。此処を守りぬいた事に、ひいては彼の大切な人達を守れた事に満足だった。


 眼の前が霞んできた。


 ここまでか……。


 自分の人生の終焉が訪れようとしている事に少しの後悔が浮かぶ。

 彼が出来なかった事、やり残した事に。しかし、もう良い。皆を守れて満足だ。これ以上何を望むと言うのか。後は、苦痛が無くこのまま死ねるのなら幸運だろう。


 思考は重く沈んで行く。もう、何も考えられない。

 何者かが自分の前に居る気配を微かに感じた。


 しかし、彼にはもう霞んで何も見えない。光の明暗が感じられるくらいだ。


 目の前の何者かは彼を窺った後、労わる様にそっと彼に触れた。


 胸の上に。


 突如、体の奥に灼熱の炎が轟々と噴き上がり燃え上がった。

 心臓がどくりどくりと力強く鼓動する。


 ガツンと体の奥深くから力が沸き上がり力強く眼を見開いた。体が彼の意志とは関係なく海老の様に仰け反り跳ね上がる。


 熱い。体内からの灼熱の炎に体が炎上しそうだ。体が熱く力が漲ってくる!


 深い青の瞳は輝きを取り戻す。鋭い眼光を放つ男の瞳からは最早、先程迄の弱々しさは欠片さえも窺うことが出来なかった。 




今回も読んで下さって、ありがとうございます。

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