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喚び寄せる声  作者: 若竹
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第34話 奇病 1


 ヴァルサスと共に急いで戻ってみると王城は混乱のなかにあった。

 騎士達が巡回し、物々しい雰囲気が漂っている。

 所々に割れた花瓶や踏みつけられた花、台が床に転がり、飾られていた像などが壊れて無残に散らばっていた。床に散乱した物や騎士達の物々しい雰囲気が、地震の後の混乱具合を表していた。


 ヴァルサスは近くにいた騎士の一人に声を掛けると現状を報告させた。

 もちろんこの時既に、血で汚れていたあの怪しいフード付きマントは脱いでいる。

 あんなのを着ていたら、今頃大騒ぎだろうと思う。

 報告の内容によると、王城でも地震の後にグールが出現していた。出現したグール達は王城の騎士達によって速やかに退治されていたけれど、突然の事態に被害者も出ていた。

 地震とグールによる被害者は、騎士、文官、女官の他、下働きの者達と様々で、不幸にも死者が数人、負傷者も幾らか出ていた。

 中にはグールに襲われたのでは無く、地震によって倒れてきた家具や物によって怪我を負った者もいたようだ。

 ヴァルサスは買い出しの荷物が入った大小の袋を騎士に渡し、治療院に運ぶように事づけると、私を自室まで送ってくれた。ヴァルサスは送ってくれる間も警戒を解かなかった。私の自室に危険が無い事を確かめてから、ようやく警戒を解いて私を部屋に入るように促した。


「どうやらここは安全なようだな。ユウ、入っていいぞ」


 恐る恐る入った部屋の容相は、出かける前とあまり変わり無く所々に小物が少し落ちている程度だった。


「ここはあまり被害が無かったようだな。だが、他はどうか分からないから、安全が確認されるまで大人しくしておいてくれ。このまま傍に居てやりたいが、私は急用が出来たのでここで失礼するぞ」

「うん。ここまで本当にありがとう、ヴァル。気を付けてね」

「ああ」


 ヴァルサスは私の頬を一撫ですると、部屋を出て行った。ヴァルサスの急用とは今回の被害状況の確認と現状への対策等を指示する事だろうと思う。

 私は先程から気になっていた、フランやいつも面倒をみてくれる侍女達の安否を確認するため彼女達を探した。

 すると、奥から出てきたフランは一見変わりないように見えた。


「フラン! 無事だったのね。良かった、大丈夫? 怪我は無いの?」

「ええ、ユウも元気そうでなによりですわ。私達は皆無事ですよ。幸いこちらの方にはグールが出現しなかったのです」

「ああ、そうだったの。皆怪我がなくて良かった」


 私はほっと胸を撫で下ろした。


「フラン、治療院の方はどうなっているか知っている?」

「いえ、生憎とそちらの方は分かりません。ここの事で精一杯で」

「……そう。私、クリス先生や治療院の人達の事も気になるから様子を見てくるね! 何か手伝える事もあるかもしれないし」


 私はフランに一言断ると、止めるフランを置いて治療院へと向かった。

 クリス先生や他のスタッフ達はどうなっているのだろう? 無事であったらいいのだけれど。それに、今回の騒ぎで今頃治療院は大忙しだろう。少しでも何か力になれれば。


 治療院への道のりは特に危険無く無事に移動できた。

 治療院のスタッフ達は、地震とグールによって怪我を負った人達への対応で皆忙しそうにしていた。

 ただでさえ元々忙しい所なのに今は混乱状態となっている。

 その中を、私はクリス先生の姿を探して回った。程なくしてその姿を見つけた時、クリス先生は病室で新たに負傷した人への処置をしていた。

 広い病室で処置をするクリス先生はとても酷い顔色で、自分の方が病人であるかのようにふらついていた。

 今朝会った時よりも、随分と具合が悪いように見える。


「クリス先生、遅くなりました。大丈夫ですか? 顔色がとても悪いですよ」

「ユウかい。無事だったようだね」


 クリス先生はいつもとはかけ離れた弱々しい表情で顔を上げた。その声は、酷く細い。


「はい。先生は体調が悪い様ですから少し休んでください。出来る事は私が代わりますので」

「ああ。それなら済まないが、こちらを手伝って――」


 クリス先生は最後まで言葉を口にする事が出来なかった。

 立ち上がろうとした途中で、ぐるりと白眼をむいたのだ。


「先生!」


 吃驚して咄嗟に手を伸ばしたけれど、間に合わない。

 クリス先生は派手な音を立てて医療器具と一緒に床へと倒れた。

 傍にあった消毒薬やガーゼ、包帯などが床に散らばる。


「先生、しっかりして! 誰か手を貸して下さい!」


 クリス先生は意識を失っていた。

 先生の呼吸は浅く、じっとりと冷たい汗をかいていた。指先は青白く、顔色は紙のように蒼白だった。

 触れた手首から伝わってくる脈はとても頼りなく、微かに触れるという程度の弱々しいものだった。


「先生!」


 突如、クリス先生の姿が揺らぎ始める。クリスの体からは陽炎のようにオレンジがかった魔力がうっすらと立ち昇っていた。


「何があった?!」

「どうしたの!」


 他のスタッフや医師達がバタバタと足音を立てて次々と集まってきた。クリス先生の状態を診たスタッフ達はすぐさま担架にクリスを乗ると重傷者用のベットへと運んで行く。


「ユウ、あなたは此処をお願い」


 私は共に手伝おうとしたのだけれど、途中になっている処置の続きを任せられ、そのままクリス先生が運ばれて行くのを見送るしかなかった。





 負傷者の傷の手当てがひとしきり終わり、治療院にようやく落ち着きが出てきた頃、クリス先生の病名が判明した。


 クリス先生は奇病を発症させていた。

 治療法も分からない未知の病を。

 しかも、奇病に侵されたのはクリス先生だけでは無かった。一般市民や騎士達にも今回新たに発症していた。


 そしてこの国の第二王子、アルフリードも奇病という名の死神に取りつかれていた。






今回も読んで下さいまして、ありがとうございます。

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