第3話 慟哭する獣
魔物を見た事が無い彼女は宇宙怪獣と表現しています。
彼女視点で書いていますので、宇宙怪獣と魔物を表現させてもらいました。
h22.10/10 改稿しました。
低く、高く、何かを擦り合わせる様な獣の鳴き声に似た音が私の所まで響いてくる。
不思議な響きを持ったその音は、私の心を切なく震わせる。悲しい音色を内包していた。
私の心もこの音につられて深く沈んだ。
さっきから聞こえてくるこの音は何なのだろう?一体何処から聞こえてくるのだろうか?
しくしくと、か細い響きが空気を震わせた。
ふと、その音は人の声であることに私は気付いた。
子供が全身を震わせて必死に泣く時のような、そんな声が先程からずっと聞こえていたのだった。
――いや、聴こえてくるのだ。直接私の頭の中に。
それは身を切るように切なく、悲しい心の叫び。必死でもがく者の出す全身から出る心の叫びだった。
その声を聞くと自分まで身を切られるような悲しく苦しい気持ちになった。私の心には目の前の恐ろしげな怪獣を哀れむ気持ちが芽生えていた。
何て悲しい声なんだろう……。
その声は宇宙怪獣から発され、聴こえてくるようだった。
その声は、周囲の人間達には聴こえていないのか激しく攻撃を続けている。
城の方からは雨の様に宇宙怪獣への攻撃が降り注ぐ。爆音が何度も響き宇宙怪獣の皮膚が千切れ、体液が噴き出した。
このままでは、小さな人間達もこの哀れな宇宙怪獣も傷つき苦しみ被害が拡大して行く。
私には、目の前の事態が最悪な方向へと急速に進んでいる様に思えた。どうしてそう思えたのか?第三者の眼で空から眺めていたからなのかもしれなかった。
気が付くと思わず体が、心が動いていた。言葉が口から零れ出る。
「泣いているの?」
思わずそう、声を掛けていた。
宇宙怪獣は暴れ破壊を繰り返していた動作を止め、私に初めて気が付いた様にこちらを視た。
眼球自体が動いて此方を見たかは良く判らないが、視られているという感じがした。
私は何とかこの悲劇の様な事態を良くしたいと、話し掛けていた。この時私は言葉がこの宇宙怪獣に通じるのか等と疑問に思う事すら思い浮かばなかった。ただ、気持ちのみが先に動いていた。
「どうしてそんなに泣いているの?悲しいの?寂しいの?」
まるで幼い子供に話しかける様な口調になった。子供の様な泣き声に聞こえたからだ。
心に感情が伝わってくる。それは悲しみ、寂しさ、孤独、不安と後悔。そして温もりへの強い渇望。
だから、思わずそう声を掛けていた。
見た目は恐怖を誘う姿だが、それが今は不思議と気にならなかった。宇宙怪獣の心が私に聴こえてきたからなのかもしれない。中身が解れば怖いと感じる事も無かった。それとも未だに夢の様に感じているからなのかもしれない。
宇宙怪獣は獣の様に咆哮を上げた。
その咆哮はびょうびょうと空気に唸りを上げさせ大気を震撼させる。唸りを上げた空気は渦を巻き上げながら竜巻のように周囲に襲い掛かる。竜巻は目標が定まらぬまま、空に向かいそして消える。
それは宇宙怪獣の心の奥底から出た叫び声だった。
お前に何が分かるのか?と。
この苦しみから、この孤独からの救いをくれるのか?と。
「……孤独なら、私が傍にいてあげる。そんな風に苦しみながら泣かないで。だからもう、お互い傷付け合うのは止めようよ。余計に苦しみは増すばかりだわ」
気が付くとそう言っていた。この心が軋むようなつらい感情を放ってはおけなかったのだ。
すると眼の前の魔物から身を切るような切ない泣き声が収まり、そっと違う感情が伝わって来た。今迄の身を切る様な切ない悲しみから他のものへと。
それは戸惑いという感情だった。
重たい雰囲気がもう少し続きます。
今回も読んで下さった方、本当にありがとうございます。