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喚び寄せる声  作者: 若竹
20/70

第20話 混血児

h22.11/5 改稿しました。


 あれから1カ月。いまだに私の体は成長してる。


 この一カ月の間私は毎日治療所へと通い、エディルのお見舞いとクリス先生の授業を受けていた。お見舞いの方は途中で不要になったけど。

 エディルの腕は、わりと経過良く早いうちに治って退院した。現在、彼は仕事に復帰している。


 私は毎朝の日課になってしまった自分の体の確認を、鏡の前に立って行った。今日もまた少し成長してる。

 毎日のように少しづつ、しかし、明らかに急速に私の体は変化していく。通常の人間なら数年かけて起こる身体の変化が一カ月程で起こった。

 ただ背や、髪が伸びるだけでない。身体つきが女性らしくなってきた。


 今まで、凹凸の無いつるぺたボディだった体のラインは腰にくびれができて、ささやかながら胸に膨らみができた。今の私の身体つきは子供ではなく、少女と言って可笑しくない。100センチ位しかなかった身長は、150センチ位にまで成長していた。

 もちろん、私の理想とするクリス先生の巨乳にはまだまだ程遠いけど。

 巨乳様、どうせこのまま育つのなら私は貴方のようになりたい。

 感染しないかなー、巨乳。


 そんな私の成長具合をみた巨乳様ことクリス先生は、先日の授業の時とある推測を述べた。


「ユウ、あんたのご両親ってどんな人なんだい?」

「どんなって……。ごくごく普通の人でしたよ」


 それ以上言いようが無い。だって、異世界人ですとかって言えないし。


「そう、普通の人か……」


 クリス先生は少し黙った。何か、躊躇っているよう。けれど、決心がついたのか口を開いた。


「ユウ、これはあくまで私個人の推測なんだが、あんたは純粋な人間では無いのかもしれない。あんたの成長は普通の人間とはあまりにも異なっているんだよ。ユウだって、人と違う事は薄々気がついてるんだろう? 」

「え?」


 人間では無い?どういう事?

 ……やっぱり異常だったんだ。


「ここの砦にも極少数だが、魔族や獣族のとの混血児がいる。そういった者は普通の人間とは成長が異なるんだ。あんたの容姿や成長具合を見ていると、そう思わずにはいられないんだよ」


 そうなんだ、そういう事もあるんだ。

 この世界には人間の他に魔族・獣族がいて、人間と他種族間での妊娠・出産が可能なのだそう。ちなみに魔族と獣族の間では子供は出来ないんだって。遺伝子的に離れすぎているのかもしれない。


 それにしても、実際に他種族との混血児が存在するなんて。

 だとしたら、私の体にも人間以外の要素があるのかもしれない。

 けれど、私には自分が一体何者であるか一切解らなかった。確実に解っている事といえば唯一つ。今、私はこの異世界で生きている。ただそれだけ。


 私は、明日という日が灰色と白の霧でごちゃ混ぜになっているような気持ちになった。



 成長した私は当然の事ながら、今までの服は着れなくなった。

 クローゼットを開けるとそこには新しい服が並んでいる。一度は新しく服を揃えてもらったが、またもやすぐに着れなくなってしまい再度揃えてくれたものだ。今度は私の成長具合を考慮して、少し大きめなサイズで揃えてくれた。

 私はフランが新しく選んでくれた服に袖を通した。


 クローゼットに並んでいる服はフランの趣味だと思う。白やピンクベージュ、可愛らしいパステルカラーの服がならんでいた。

 レースやリボンをあしらったものやシフォン地のヒダの寄ったふわりと広がる服、可憐な刺繍を施してある服など女の子らしくてとても可愛らしいデザインが多い。

 私はどちらかといえばシンプルで動きやすい服が好きなので、ほんの少しだけ用意してあるシンプルなシャツとズボンを毎日身に着けている。


 そんな私の格好を見るたびフランは残念そうな顔をする。


「ユウ、今日もまたそのような格好をしているのですか?たまには可愛らしい服も身に着けて下さい」

「うん、解ってるよ、フラン。でも、動きやすいからついついズボンを選んじゃうんだよ」

「そう、残念です……」


 フランは「くっ」と言って拳を握りしめた。


「……」


 何?その握り拳は。


 私が毎日少しづつ成長していることについて、最近ではフランは何も言わなくなっていた。

 フランに言わせると毎日のことなので、当たり前のようになってきたそうだ。

 フランは私が異常に成長していることを、意外とすんなり受け止めてくれてるように見える。

 理由はクリス先生が言ってたように、混血児という存在が認識されているお陰かもしれない。


「ユウ、今日は王都に出かけるぞ。どうだ、ユウも一緒に来ないか?」


 ヴァルサスは私の部屋に入って来ると、いきなり私に質問した。

 もちろんノックの返事は間に合わない。

 突然のことに私は驚いたがヴァルサスの言葉を理解すると、その内容に興奮した。


「ええっ!行きたい。是非とも一緒に行きたい!あっ、でも……」


 王都。一体どんな所だろう?

 私はここの砦以外の場所をいまだに知らなかった。今までこの砦から一歩も外に出たことが無かったから。だから、砦の外の世界に対する興味は日に日に増していた。

 けど、クリス先生の授業はどうしよう。今日の授業内容は何だったっけ?確か……。

 私が悩んでいるとヴァルサスが不意に言った。


「ほら、クリスからこれを預かってきたぞ。今回の授業はこの本を読んでおけば受けなくても良いそうだ。クリスの方も今日と明日は忙しいらしい」

「えっ?」


 ヴァルサスは手に持っていた本を私に手渡した。

 なになに?本のタイトルは《治療士の心得》とある。

 そういえば、今日の授業はそんな内容だとクリス先生が言ってたっけ。

 これを持ってきてくれたということは、ヴァルサス本人がじきじきにクリス先生に許可を貰ってくれたのだろう。全くもって何と言っていいのやら。

 ……彼は本当に優しい。私は彼の心使いや気持ちがとても嬉しかった。


「……ヴァル、ありがとう。本当に嬉しい!」


 私は嬉しさのあまり、思わずヴァルサスに抱きついた。本当に嬉しかったから。

 けれど、その瞬間ヴァルサスの体はビクリと強張った。私にも伝わるほど。

 私はヴァルサスの体からぱっと離れた。一瞬だったが、ヴァルサスの反応に私は気付いたからだ。

 ヴァルサスはすぐに強張った身体の力を抜くと、そっと私の頭を撫でた。

 彼の表情からは何の感情も窺えない。


「そうか、それは良かった。ただし、遊びに出かける訳ではないぞ。それでも良ければ直ぐに準備するんだ。あと一刻したら、出発するからな」


 ヴァルサスは何事もなかったように話を続けた。私もそれに合わせる。ちくりと胸が痛んだ。


「……はい」

「まあ、本当に良かったですね、ユウ。楽しんで来て下さい」

「うん、ありがとう」




 不意に名前を呼ばれたような気がして私はヴァルサスの方を振り向いた。しかし、彼はこちらに背中を向けている。聞き違いだったのかな?


 ヴァルサスは自分自身の準備があると言って私の部屋を出て行った。私は彼の背中を見送りながら、思いに沈む。


 ――――さっき、一瞬だけどヴァルサスの体は強張っていた。


 子供の体だったときは、ヴァルサスがこんな反応をしたことは無かった。

 少女の体に成長してからだ。こんな風に彼の様子が変わったのは。

 私の外見は、ヴァルサスが自分の子供のように可愛がってくれた姿では無くなってしまった。今の私は子供の時と比べると、別人のように感じるかもしれない。

 今までと違うヴァルサスの反応に私は微かに不安を感じた。


 もしかしたら、私に抱きつかれてヴァルサスは嫌だったのかな?


 ずきん。私の胸に痛みが走る。


 どくん。どくん。


 心臓がやけに大きな音を立てて、鼓動した。


 いけない。こんな風に考えては、いけない。

 私はその考えをできるだけ打ち消した。


 ……今日だって、彼は私を大事にしてくれているのに。

 私はこれ以上考えるのを止めた。




 一刻後、フランに着替えさせられた私はヴァルサスと共に中庭奥の騎獣発着場にいた。

 この場所は、私がレオンと初めて会った場所だ。

 ここから騎獣に乗って移動するみたい。一体どんな騎獣に乗るのかな?

 私は期待と緊張でちょっぴり落ち着かない。

 すると、そこにヒエンを連れたレオンがやって来た。

 レオンはヴァルサスと共に私も一緒にいるのを見ると、おやっという顔をした。


「殿下、お待たせいたしました。遅れて申しわけございません」


 レオンは遅れてなどいないが、少しばかり私達が早く到着してしまっていたためそう言った。


「いや、遅れてなどいない。私達も先程ここに付いたばかりだ」

「勿体ないお言葉でございます」


 そう言うと、レオンはヴァルサスに礼をした。

 その後、レオンは少し砕けた口調に変わった。


「殿下。もしかして今日はユウも一緒ですか?」

「そうだ。よろしく頼む」


 ……レオンは変わった私をどう思っているのだろう?


 私はレオンにペコリとお辞儀をした。


「レオン、ヒエン。今日はよろしくお願いします」


 そう言うとレオンは優しく笑い、ヒエンは嬉しそうにガウと鳴いた。尻尾がピンと立つ。


「おう、よろしくな、ユウ。それにしても、ちょっとした間に随分可愛らしくなったじゃないか。ボウズのようだったお嬢ちゃんが、こんなに可愛らしくなるなんてなぁ」


 レオンは私の頭をいつもと同じように優しく撫でた。

 レオンの態度はいつもとあまりにも変わらない。

 子供の体の時も、少女の体となった今も。


 その優しい手の温もりは、私の心にじんわりと沁み込んだ。チクリと痛んだ私の心をゆっくりと満たしていく。

 レオンの手から伝わって来る優しい温もりが、私の表情に笑顔をくれた。


「フフフ、ありがとう、レオン」


 嬉しくなった私は貴婦人のように膝を曲げ、手を胸に当ててお辞儀をした。

流れるようにその仕草が行えたのは、カイルの指導の賜物だ。


「お、これは失礼した」


 レオンはそう言うと、私の手を恭しく取り手の甲に口づけを落とした。まるで本当の貴婦人になったみたい。レオンの仕草はとても洗練されていた。堂々としていて、思わず見惚れてしまう。口づけを落とすレオンと眼が合った。私はレオンを上から見るなんて初めて。少し上目使いのその表情は艶やかで悪戯っぽい。

 私は思わず顔が赤くなった。


「呼ぶぞ」


 え?何を?


 それまで私達の様子を見ていたヴァルサスだったが、突如言葉を放った。

 気のせいかな?少しいらついているような声だ。


 ヴァルサスはさっと掌を前方に向けた。


「ハクオウ、来い」


 そう言うと、ヴァルサスの掌に紋章が浮かび上がり、発光する。

 突如、びょうびょうと頭上から大きな音が轟き雲が渦を巻き始める。雲の渦は勢いを増し、渦の中心がある遙か上空に掌にある紋章と同じモノが光を放ちながら出現した。ただし、上空の紋章は驚く程大きい。


 金属同士を打ち鳴らしたような、高く澄んだ音がその場に響きわたった。


 鋭い金属音と共に紋章の中から白い塊が生える。次の瞬間、紋章を突き破る様に勢い良く巨大な塊へとその姿を現した。その姿は白い大きな弾丸に見えた。


 空気を震わし切り裂く音を轟かせ、空から落下してくる。


 白い大きな弾丸は、きりもみ状態のように回転しながら物凄い速さで落ちてくる。このまま地面に激突する!そう思った時、塊は一瞬で姿を変えた。ソレは自身の巨大な翼を広げ、そのまま空中で急停止した。


 空気を己の翼に孕ませ突風を生じさせると、大きな音を立てその場にぴたりと止まる。


 その存在が発した風が私達に向かって強く吹きつける。

 一瞬の突風に吹かれながらも、私は開けた眼を閉じる事が出来なかった。


 私の視界には力強くも美しい、メタリックな輝きを放つパールホワイトのドラゴンがいた。

 まさに、その姿は威風堂々という表現が相応しい。

 私はただただ、その素晴らしい姿に声も無く見入った。


 白いドラゴンは日の光を浴びてキラキラと硬質の輝きを放ち、煌めいている。頭から生えている2本の角は、根元の部分が半円を描いて前方に向け力強く突き出している。その角の色は根元が深い青みがかった紫で、グラデーションのように先端に向けて白くなっていた。

 体は全体のバランスからいうと細めで尻尾は長い。尻尾はそれ自体が武器であるかのごとく鞭のようにしなっている。大きな翼を広げると翼の付け根は角と同じく深い青みがかった紫色で、徐々にグラデーションのように先端に向かって白くなっている。

 翼を広げた全身の姿を見上げると、その姿はまるで白く輝く十字架だった。


 白いドラゴン、ハクオウは鳥のような優美さで私達の眼の前にふわりと降りた。

 まるで重力を感じさせることなく、翼はあっという間に鳥のように畳まれている。

 さらに、ハクオウの大きな腕と脚は獅子のようにがっしりとして、見るからに力強く爪の先まで真っ白だった。


 ハクオウは体を曲げ覗き込むようにして、上から私達を見た。ハクオウの瞳は深い青紫で高い知性を窺わせる。

 ヴァルサスは手を伸ばすとハクオウの顔を撫でた。撫でられたハクオウは気持ち良さそうに眼を細める。


「よろしく頼む、ハクオウ」


 そう声をかけられてハクオウはじっとヴァルサスを見た。その様子はレオンとヒエンの時と同じように意志の疎通を図っているように見えた。

 ハクオウは不意に私の方をひょいと向くと眼を閉じ頭を下げた。その様子はまるでお辞儀をしたようだった。私はその挨拶が嬉しく、ハクオウにゆっくりと近付いた。

ドキドキと興奮する。ドラゴンだなんて!何て綺麗で格好良いんだろう!


「は、初めまして、ハクオウ。今日は宜しくお願いします」


 興奮で少し声が震えた。

 私が挨拶すると、ハクオウは嬉しそうに私の顔に自分の顔をよせ、優しく擦りつけた。

 感触は硬くてツルツルしている。こんなに大きいが、擦りつけられても私はふらつかなかった。力加減を上手にしてくれてるのだろう。


「フフ、くすぐったい!」


 私は思わず身じろぎした。すると、背中に何かがぶつかる。

 振り返るとそこにはいつの間に移動したのか、私の後ろにヴァルサスが立っていた。次の瞬間、私は背中側からヴァルサスの片腕で強引にさっと抱きかかえられていた。私のウエストにヴァルサスの力強い腕が巻きついて、そのまま体が宙に浮く。


「!」

「行くぞ」


 気が付くと、私はあっという間にハクオウの背中に乗せられていた。何だかいつものヴァルサスとは違って強引だ。背中には微かにヴァルサスの体温を感じる。

 

 ヴァルサスの声に反応したハクオウは高い声で一声鳴くと、その場から力強く飛び立った。

 ハクオウはぐんぐんとスピードを上げて空高く舞い上がっていく。

 私は思わずぎゅっと眼を閉じて、身体を竦ませた。

 不意にヴァルサスがそっと私を支えてくれた。少しの距離を置いて。


 私はその距離を寂しく感じた。少しの距離なのに、やけに遠く思えた。






 

今回も読んで下さってありがとうございます。





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