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喚び寄せる声  作者: 若竹
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第11話 子猫の湯浴み

h22.10/16 改稿しました。

 窓から差し込んでくる朝日が眩しい。私は澄んだ清々しい空気に包まれて、眼が覚めた。

……眼覚めると朝だった。一体いつの間にベットに入ったのだろう?全く記憶に無い。私が着ている服は、昨日着替えた服のままだ。服は皺になってしまっている。

 一体どのくらい眠ったのだろうか。時計が無いから解らないが、少なくとも日にちが変わっているのは間違いない。


 私はとても疲れていたのだろう。全く夢も見ずにぐっすりと眠った。おかげで今朝は気分が良いし、身体も軽く感じられる程だ。

 私はベッドの上でう~んと伸びをすると、ベッドから抜け出した。


 窓から外を眺めると、吸い込まれそうに透明な青空が見えた。窓を開けるとそこから吹いた心地よい風が私を包む。窓からぐっと身を乗り出して下の方を窺うと、昨日は気付かなかった花壇のある小さな中庭が見えた。花壇には色鮮やかな可愛らしい花が風に揺れて咲いている。ふんわりと辺りを花の香りが漂った。


 向かいには回廊を歩いている人が見える。一階部分の回廊には洗濯物を抱えた女中の様な格好をした女性や、野菜を篭一杯に抱えた料理人、騎士を思わせる服装をした背の高い男性達などが会話をしながら歩いている。

 周りからは鳥の囀りや人々のざわめき、心地良い風に乗って活気のある声と共に、トントンカンカン砦を修繕している音も聞こえてきた。


 部屋を見渡すと机の上に綺麗に畳んである新しい着替えが目に入った。誰かが用意してくれたのだろうか。


私は用意してある服を手に取った。服は手触りが良く軽い。上等な生地で出来ている事が解る。

 これに着かえれば良いのかな?

 そう思いつつ、服を元どおりに置くと私は用を足しにトイレへと向かった。


 この部屋の奥の扉を開けると洗面台とトイレがあった。トイレは洋式トイレと似た作りで脇にある紐を引くと上に付いているタンクから水が出てきて流れて行った。

 トイレットペーパーはロールでは無く、一枚一枚ティッシュペーパーの様に取り出すようになっており、それで処理を済ませた。手を洗い、顔を洗って歯を磨く。歯ブラシは木と何かの毛で出来ていて、歯磨き粉は小瓶の中に入っていた。薄荷と塩の味がする。


 スキンケアは顔を洗うだけで済んだ。今の私は子供なので化粧水や乳液がいらない程、肌はきめ細やかだ。有り難い。明らかに、これは子供特典だろう。


 シャコシャコとぼんやり洗面台の鏡を見ながら歯を磨く。

 ――昨日はいつの間にか寝てしまったんだ。


 食事の終わりくらいから記憶が無い。美味しい食事を平らげた後、とても眠くて仕方が無かった事は覚えている。居眠りした私を誰かがベッドへ運んでくれたのだろうか。ぼんやりとだが優しい手が抱き抱えてくれたのを覚えている。

 

 思考を遮る様に、ノックの音が響いた。その後、「入るぞ」という声と共にヴァルサスが入ってくる。

 相変わらず、私の返事は聞いちゃあいない。


「お早う、ユウ。どうだ、良く眠れたか?」

 

 そう聞くとヴァルサスは微笑みながら、私の頭を撫でた。


「はい、おかげさまでとても良く眠れました。あの、私、昨日は食事の途中で居眠りしてしまって、ごめんなさい。ベットに運んでもらったみたいでご迷惑をお掛けしました」

「ああ、昨日の事か。気にしなくていい、疲れてたのだろう。私が無理をさせた」


 謝るどころか逆に、反省させてしまった。あれれ。


「とんでもないです!本当に有り難うございました」


 私は慌てて否定した。

 そんな私に対してヴァルサスは、優しく笑うと私の頭をまたもやナデナデして、返事の代わりとした。


 私、ナデナデされ過ぎている。

 ふと、唐突に自分が随分お風呂に入って無い事を思い出した。

 あ!髪べたついて無かったかな?うーん、気になる。ヴァルサスの手は大丈夫だったかな?頭、洗いたい。私、臭く無いかな?大丈夫かな?

 女なのでそういう事には敏感だ。体をすっきりさせたいし、髪もしっかり洗いたい。

 お風呂……、入りたい。お風呂に昨日も入って無いし、死ぬ前も体を拭くだけでお風呂には入れなかった。よし、ここは勇気を出して聞いてみよう。


「あの……、お風呂に入りたいのですが、どうしたらいいですか?」


 ん?という風にヴァルサスは片方の眉毛を器用に上げると、屈んで私を見た。


「どうした?」


 どうやらあまりの身長差に私の言葉が聞こえなかったようだ。ヴァルサスは背がとても高い。2mくらいはあるのではなかろうか。


「あの、お風呂入りたいんです」

「ああそうか。……ん、そうだな、準備させよう。私も入ろうと思っていた」


 ヴァルサスは顎に片手をあてると少しの間、何かを思案しているようだったが、召使を呼んでお風呂の準備を言い付けると姿を消した。程なく準備が出来たのか、戻って来ると屈んで私と視線を合わせた。


「さあ、行こうか。体はしんどくないな?」


 私の体調が気掛かりだったようだ。一言確認する。


「はい、この通りぴんぴんしてます!気合い十分です」


 私としては、待望の入浴をここでストップなど掛けられては堪らない。この機会を逃したくは無かったので、出来るだけ元気であるとアピールした。

 目の前で力こぶなんか作って見せる。出来た力こぶはぷにょぷにょだったのだが、ヴァルサスはクッと相好を崩して笑うと、お風呂の許可をくれた。


「おいで」


 私はヴァルサスに連れられて、お風呂に向かう事に成功した。どうやらアピールが効いたようだ。

 此処には個人用スイートの様に、部屋付きのお風呂があるようだった。

 ヴァルサスはお金持ちか身分の高い人なのだろうと思う。こんな豪華な部屋に住んでいるし、お手伝いさんの様な人もいる。随分と身なりが良いし彼には品があった。人を使う事にも慣れている。

 扉を開けるとクリーム色をしたタイル張りのフロアに、金の猫足が付いたバスタブと固定のシャワーのような物があった。シャワーヘッドはハスの花の形に似ている。

 私にとって背の高いバスタブは、陶器で出来ていて縁に金が使われている。なんともお洒落なバスタブには少し熱めのお湯が張ってあった。

 私は覗き込むようにしてバスタブの中を見た。これは、よじ登るしかないか。

 

 裸でバスタブによじ登る自分の姿を想像する。……間抜けな姿だ。足台になる様な物はないだろうか?

 そんな事を考えていると、突然ヴァルサスが私の手を取った。


「ユウ、脱衣所はこっちだぞ」


 大きな手に私の小さな手が優しく包み込まれる。軽く引き寄せられた私は、そのまま逆らわずに付いて行った。

 此方の部屋は木のフローリングに真っ白でふかふかなタオル地のマットが敷いてある。

 ヴァルサスは繋いでいた私の手を引き寄せると背中のリボンを解く。私はそんな事には気付かず部屋の中を見渡していた。此処にもセンスの良い小物が置いてある。しかし、あれは何に使うんだろう?


「ユウ、両手を挙げて」


 こう?

 私は何も考えず、言われた通り素直に両手を挙げた。


「もう少し上へ」


 万歳をする様な格好になった。ヴァルサスは、私の服の裾を掴むとあっという間に脱がされた。いつの間にか服のリボンや釦も外されていたようで、一瞬にして上半身はスッポンポンにされる。しかも中の肌着も一緒にだ。


 ええええ――――!!ちょ、ちょっと待って。何これは!!この状況は!待て待て!!

 焦ってじたばたする。既に上半身は、裸に剝かれてしまった。ま、前を隠さなければ!膨らみなんて、ゼロだけども!


「ギャアああ!!止め止め、大丈夫です!間に合ってます!!十分です!自分でします!!」


 そう言うと、ヴァルサスは何言ってんだ、みたいな顔をした。解りにくいが片方の眉だけ器用に上げる。

 ヴァルサスは、ほら、みたいな事を言ったと思う。逃げようとしている私を難なく捕まえると、あっさり履いている7分丈のズボンも、下着のボクサーパンツも一緒に手際よく脱がされてしまった。

 手慣れている、等と考えている場合では無い!


 ヒョエエーーー!!


 ヴァルサスは私が着ていた服を脱衣用の篭に放り入れ、自分もポンポン脱いでいく。あっという間に裸になった。う、ウワ―――!

 私はなんとか体を覆い隠す物が無いかと焦ると周りを必死で探し、近くにあったタオルを掴んだ。

 逃げよう!取りあえず逃げるしかない!


 そのまま此処から逃げ出そうとして足を踏み出した途端、ベチャリとコケた。

 見事に顔から床へと突っ込んだ。い、痛い。殆どの衝撃を顔で受け止めたんじゃなかろうか。


「ふぎゃ!!」

「おいおい、大丈夫か?」


 そう言いながらヴァルサスは私を起き上がらせる。逃亡計画は一瞬にして失敗に終わった。


「さ、行くぞ」

「ど、何処へ!?」


 そう言って後ろから両脇を抱えて私を抱き上げた後、左腕だけで私を抱え、タオルを二枚掴むと浴室に入った。私はヴァルサスの小脇に抱えられ、ペットか荷物の様に運ばれて行く。


 うぎゃああああああああああああああああああああああ!!


 最早言葉は出て来ない。頭は真っ白、体は硬直。


 ヴァルサスは私を抱えたまま猫足バスタブに何かを放り入れると、私ごとざぶんと入った。しゅっと音がしてヴァニラと薄荷を思わせる匂いと共に泡が湧き上がる。


「ん?大丈夫か?熱かったか?」


 大丈夫じゃ無い。


 ヴァルサスは私をくるりと自分の方に向け直した。背中をヴァルサスに預ける形で膝上に座らせれていた私は強制的に?真正面からヴァルサスを見る事になった。みるみる全身真っ赤になっていく私を見て、ヴァルサスはあれ?という顔をする。少し眉が動いて目を見開いた。


「ユウは女の子だったのか。髪が短いから男の子だと思ったぞ」


 気付くの遅いよ!

 何?この刺激の強過ぎる状況は!

 私は自分の胸と下を隠そうとじたばたした。お湯が跳ねて、飛び散った。


「こら、暴れるんじゃない」


ヴァルサスは私をしっかり抱え直してしまい、身動きが上手く取れなくなった。


 ま、不味い。何だか意識が朦朧としてきた。身体に力が入らないよ。ヴァルサスは続けて何かを言っているのだが、何を言われているのやら全く理解がデキマセン。


 ヴァルサスは良い香りのする石鹸を泡立てている。次の瞬間には、私は石鹸の良い香りに全身包まれた。大きくて、少し筋張った手が私の頭を気持ちよくマッサージするように動く。

 大きな手は、更に耳の後ろや耳たぶ、首筋を優しく鳥の羽根が撫でる様に触れて行く。


 また何か言った。でも、頭はぐちゃぐちゃなのに真っ白ふわふわで、何を言ったか解らない。

 繊細な手つきで私の顔は泡で包み込まれた。眉毛を、瞼を、優しく指がなぞっていく。


 そのまま私は、何かの罰ゲームか羞恥プレイの様に頭から爪先まで、体の隅々まで洗われてシマッタ。


 おまけに、私もヴァルサスの体をばっちり見てしまった。引き締まって無駄の無い筋肉が付いた、豹を思わせるしなやかな体。きゅっと筋肉の付いた、すらりと長い四肢に大きな筋張った手足は、アフリカ人系の様な身体つきに似ている。肌はきめ細かくて白く、程良く日に焼けている。

 小さく整った顔に濡れた髪から水が滴ると、彼は水滴の滴る鋼色の髪を掻き上げた。指の隙間から零れた水滴が顔の輪郭をなぞって喉仏を伝い、逞しい胸まで滑り落ちて行く。

 瞬きをした伏し目がちな瞳はお風呂に入っているせいか、艶を増して潤み眼元がほんのり紅く色付いている。

髪の隙間からは少しだけ先の尖った耳が現れた。耳の先は丸く無い。


 私、もう、お嫁に行けないかも……。まだ、一回も行って無いのに……。

 体は子供だけど、心は三十路。三十路にも、この状況は刺激が強すぎる。頭がぼんやりしているのはお湯でのぼせたのか、ヴァルサスの色気にやられたのか……。

 意味の解らない思考が私の頭の中をぐるぐると回った。


 ヴァルサスに抱えられてお風呂から上がった私は、バスローブを着せられて、ぐったりとソファーにもたれていた。

…………燃え尽きたぜ。


 ヴァルサスの方はというと、私が湯あたりしたくらいにしか思って無い様だった。






今回も読んで下さって、ありがとうございます。

まだまだ恋愛要素は低めですね……。こちらも今後、ちょっとずつ増やして行こうと思うのですが、気長にお付き合い下さい。

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