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喚び寄せる声  作者: 若竹
10/70

第10話 甘やかな子猫

h22.10/12 改稿しました。

 

 ユウはヴァルサスに促されて隣の部屋に入った。

 そこは、ユウの居た部屋と同じような感じだったけれど、さらに広い部屋だった。部屋には白い木目に金の化粧飾りが施された高級感溢れる家具が配置されている。絨毯はシックなサーモンピンクの濃淡と、モスグリーンの物だった。植物を模した複雑な紋様が美しく描かれている。


 部屋の雰囲気はクリーム色を基調としていて、高そうな絵や花瓶がさり気なく置いてある。所々にユウには意味の解らない置物なども置いてあった。

 照明は少し暗めで代りに蝋燭が部屋を飾るように灯っている。燭台に乗せられた蝋燭の、オレンジの火が揺らめいて美しく部屋を照らしていた。

 華美ではないが、上品なこの部屋の雰囲気の良さに私は魅入った。

 給仕さん? が奥から出てきた。給仕さん達の手によって、テーブルの上に次々と料理が並べられる。

 大きなテーブルの上には温かな湯気を立てる鮮やかな緑色のスープとこんがり焼けた薄い楕円のパン、青とオレンジ色と紫色をした葉っぱのサラダとカリッと焼けた白身魚と思われるメインディッシュ。最後に柑橘類と思われるオレンジや赤の一口サイズに切った果物が並べられた。

 どの皿も華やかな絵のように食事が飾って盛りつけてある。


 私は給仕さんがいるという、セレブな様子に驚きなからも給仕さんの洗練された動きをぼんやり見ていた。

 そんな私に構わずヴァルサスが、食卓の椅子を引いてくれる。どうぞと促されるが、椅子は少し背が高く座り難い。なんとか座ろうとしていると突然私は背中側から抱えられ、気が付いた時には椅子に座っていた。驚いて振り返ると、ヴァルサスが私の後ろで微笑んでいた。どうやら彼が抱えてくれたみたい。

 お恥ずかしい。これではホントに手のかかる子供のよう。お子様な感じに羞恥心が湧きあがる。自分の顔が熱くなって、赤くなっているのが解った。


 食事は本当に美味しくって、お腹が空いていたのも手伝って黙々と全て平らげてしまった。見た目と反して予想していた味や食感とは違うものはあったけれど、味は良かった。

 勿論、私の食事量とヴァルサスの量は違う。ヴァルサスの方が多いし、お酒も軽く飲んでいるみたい。

 食事はパンのような物が主食で、中はもちっと外はカリッとした食感。ほのかに甘い味がして、小麦では無くお餅を食べているようだった。

 スープはコーンスープのような味で、少し青臭かったけれど飲みやすく、豆っぽい。

 白身魚と思ったメインディッシュは淡白な味で鶏肉のような食感だった。一体何の肉だろう? 臭みが無く食べやすい。

 私の手には大きいサイズのフォークと見慣れない形のナイフがある。それを使って食べてみたけれど、使い勝手は悪く無い。

 サラダはホウレンソウのような葉っぱが入っていた。食感はパリッとしていて新鮮さが窺えた。口に入れると香ばしいゴマのような香りがふわりと広がる。他にもオレンジや紫の葉っぱが入っているけど、ほんの少し苦いパプリカみたい。瑞々しく歯ごたえが良かった。

 最後に色鮮やかな赤やオレンジ色のフルーツは、しゃりしゃりとした食感で味は甘酸っぱく南国のフルーツみたいだった。たっぷりと果汁を含んだフルーツは、噛むと口の中に甘酸っぱさがジュワッと広がって、至福の気分を味わった。


 どれもこれも、見たことが無く知らない物ばかり。素材は一体何なのか興味が湧いたけれども、味は美味しくて大満足だった。

 途中、何度か給仕さんに子供用のフォークやスプーン等と交換しましょうかと尋ねられた。けれどもそこは、意地でも断固として拒否をした。

 これくらいは大人でいたい。






 ユウは食事を食べ終わると、テーブルについたまま居眠りし始めた。目醒めたばかりで動いたので、体力を消耗しだのだろう。

 眼はとろんとして何度も瞬きをする。そのうち瞼が降りてきて閉じられたままになった。ユウの体の方は特に異常は無さそうで、食欲も有り出された食事をぺろりと平らげていた。なかなか良い食べっぷりだ。

 ユウは美味しそうに食事をするので、見ている方も気持ちが良い。気が付くと自分の顔には微笑みが浮かんでいた。


 ヴァルサスは子供の様子を見て席を立った。このままでは椅子から落ちるかもしれない。

 ユウは好き嫌いなく出された食事を食べたが、食べながら眠くなったようだ。フォークを右手に持ったまま、こくりコクリと船を漕ぎだした。

 その愛らしい様子を見て、思わず笑みが零れる。

 ヴァルサスはユウを椅子からそっと抱え上げると、そのまま右腕に乗せるように抱き抱えた。

 腕の中の子供は驚くほどに軽い。それに華奢だ。


 ヴァルサスはユウが右手に持っていたフォークをそっと取り上げ、テーブルの上に置く。

 子供はイヤイヤと首を振るかのようにヴァルサスの肩に顔を埋め、子供の頭を肩に擦り付けた。

 眠いのだろう。何とも可愛らしい。

 そのさまは、まるで子猫のようだ。

 甘く、骨が無いような軟らかい小さな身体。首筋にかかる子供の微かな吐息と、さらさらと触れる艶やかな黒髪が少しくすぐったい。ヴァルサスの眼は笑みの形で細まった。

 ヴァルサスの心に甘い疼きをもたらす何かが湧き上がってくる。ユウの仕草はヴァルサスの庇護欲を刺激する。ヴァルサスは子供を起こさないように力加減をしながら、しっかりと己の腕の中に抱き締めた。己の腕からこの子猫がすり抜けて行かないように。


 気が付かないままに、いつの間にかヴァルサスの中でユウを愛でる気持ちが芽生えていた。

 ヴァルサスは己の欲望のもたらすままに、そっと頭を撫でながらその髪の感触を味わう。絹のような手触りの黒髪はさらさらと零れて指通り良く心地よい。ほのかに甘い花の香りがする。

 ……良い匂いだ。

 ヴァルサスは頭を傾けユウの様子を窺った。起こしてはいないだろうか? 顔を傾けると私の頬にユウの頬が触れた。触れ合う軟らかな皮膚と子供特有の高い体温が心地好い。

 傍から見るとその仕草は親が子供にする仕草のように見えただろう。……愛しむように。


 ユウは外見上4~6歳程度に見える。子供でも、小柄な方ではないかと思う。

 ユウは聞き分けが良く、年に似合わず大人びている。このくらいの子供ならもっと落ち着きが無く、我儘を言ってもおかしくない。普通なら我慢や忍耐、冷静さ、そういった物とは縁遠いだろうに。

 自分の弟と妹を思い出す。彼らは子供というには年を取っているが、今だにそんな風に思わせた。

 ユウは一体どんな環境で育ったのか?

 子供が大人に成らなければいけない環境とは、あまり良いものとも思えない。一瞬自分の過去が心によぎった。微かにほろ苦い思いを感じたが、直ぐに思考を切り替えた。


 ヴァルサスはユウが目醒めた時に交わした言葉を思い返す。

 親とはもう会えないとは、一体どういう事なのだろう? 今回の騒ぎで両親は存命していないのか? それとも置き去りにされたのだろうか。だとしたら、捨て子なのか? 分からない。

 魔物の襲撃で親と逸れてしまったのなら砦の担当に届けが出されている筈だ。しかし、そういった物は今の所、確認できなかった。


 ユウの黒髪と琥珀色の瞳はこの国ではどちらも珍しい。それは、この国以外での生まれを予想させた。ユウは一体どういう経緯でこの砦に来たのだろうか?

 ユウは礼儀正しく言葉使いが丁寧で下品な処が無い。訛りの無い共通語を話し、教養があるのを窺わせる。ユウは一般の子供とは明らかに違っている。つまり、それなりの教育なり躾を受けている事を窺わせた。一般市民の子供では無いだろう。

 それに、彼を助けてくれたあの癒しの力。

 癒しの力を持つ人間は大変数が少なく一万人に一人と言われている。その為、国を挙げて保護する事を取り組んでいる。

 その、貴重な癒しの力を持って生まれた者は保護を受け、国の医療機関で働く事となる。

 そんな者が保護者も無く迷子になるなど考え難い。

 もしくは力がある事を知らなかったのか? 自分の命を救ってくれた時が、初めて力が発露した瞬間だったのかも知れない。


 自分に子供がいたらこんな感じだろうか?

 心の中にこの子供、ユウを守りたいと思う気持ちが浮かんだ。己の想いに少しの戸惑いが浮かぶ。

 この子供を私は気に入ったのか?

 答えは解っている。命を救ってくれた恩人という以上に、この子供に好意を持っているのだ。出逢って間も無い個人を気に入るなどと。……子供だからだろうか?

 それは、普段の自分からは想像がつかない心境だった。


 ヴァルサスはユウを寝室に運ぶと、起こさないようにそっとベッドへ横たえた。






今回も読んで下さってありがとうございます。

おかしな文章が有ったりするかもしれませんが、出来るだけ良い物になる様に頑張って行きます。

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