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『元・陸自特戦群の俺、1937年のアメリカに転生。祖国と家族を救うため、たった一人で米軍の将官を狩る』  作者: 月神世一


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EP 5

最初の標的ターゲットと、「透明な」白人青年

数日後。マンハッタンの中心部にそびえ立つ最高級ホテル『ウォルドルフ=アストリア』の豪奢なエントランスに、一人の若者が足を踏み入れた。

仕立てのいい、しかし決して派手ではない上質なチャコールグレーのスーツ。整髪料ポマードで撫で付けられたブロンドの髪。

すれ違うベルボーイも、ロビーを警戒する私服警官たちも、彼をただの「上流階級の使い走り」か、「将来有望なビジネスマンの卵」としか認識せず、誰一人として歩みを止めようとはしなかった。

若者の正体は、マフィアの隠し金庫から奪った金で全身を「偽装」した坂上真一ジャック・ジャスティンであった。

(……笑えるほど簡単だな)

大理石の床を靴音を立てずに歩きながら、坂上は内心で冷たく毒づいた。

もしここを歩いているのが「日本人(東洋人)」であったなら、間違いなく不審な目で見られ、数分後には職務質問を受けていただろう。1937年現在、日中戦争の激化により、アメリカ国内での日本人への警戒感はすでに高まりつつあったからだ。

どんなに特戦隊で高度な潜入技術を叩き込まれていようと、人種という見た目の壁はどうしようもない。

しかし、「ジャック・ジャスティン」というアイルランド系白人の肉体は、この時代のアメリカにおいて究極の迷彩服ギリースーツだった。

胸を張り、堂々と英語を話し、白人社会の真ん中を歩く限り、彼は完全に「透明」なのだ。

坂上がこのホテルに潜入した目的はただ一つ。

明日の夜、このホテルで秘密裏に行われる軍部と財界の会合に出席する男――未来の米陸軍参謀総長、ジョージ・C・マーシャル准将の視察である。

坂上はロビーのソファに腰を下ろし、買ってきた新聞を広げるフリをして、精巧なカメラのような眼球で周囲の情報をスキャンしていく。

軍の制服組の出入り。フロントマンの視線の動き。エレベーターの稼働状況。

そして、VIP専用階へと続く階段の前に立つ、体格の良い護衛たちの配置。

(警備は軍の憲兵(MP)の私服組が四人。それにホテルの警備員が数名か)

大統領クラスの警護に比べれば穴だらけだ。マーシャルはまだ軍の絶対的トップではなく、警備体制もそこまで強固ではない。暗殺するには、この「実権を握る前」の今しかない。

「失礼、火を貸していただけますか?」

不意に、隣に座った恰幅の良い紳士が葉巻を揺らしながら話しかけてきた。

「ええ、どうぞ」

坂上は完璧な発音と作り笑いで応じ、安物のマッチを擦って火を差し出す。紳士は「ありがとう、若いの」と微笑み、坂上が暗殺者であることなど微塵も疑わずに紫煙をくゆらせた。

(……明日の深夜2時。マーシャルが会合から部屋に戻り、就寝したタイミングがデッドラインだ)

坂上の脳内では、すでにホテル全体の立体図面と、マーシャルの部屋スイートルームまでの侵入ルート、そしてあのアパートで調合した「無色無臭の死」をどう届けるかのシミュレーションが完了していた。

穏やかな笑みを貼り付けたまま、坂上は新聞を畳んで立ち上がった。

次に来る時は、死神としてこの場に立つ。

「さて……下見は終わりだ。最高の舞台を用意してやるよ、マーシャル准将」

ロビーの喧騒の中、誰にも聞こえない日本語の呟きが、冷たく床に落ちた。

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