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『元・陸自特戦群の俺、1937年のアメリカに転生。祖国と家族を救うため、たった一人で米軍の将官を狩る』  作者: 月神世一


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EP 10

狂い出す歯車と、次なる標的ターゲット

ワシントンD.C.、連邦議会議事堂。

孤立主義の急先鋒であるバートン・K・ウィーラー上院議員の執務室に、怒号が響き渡った。

「見ろ! やはりルーズベルトの奴らは、我々を欺いて戦争の準備を進めているぞ!」

ウィーラーの震える手には、今朝方「匿名の愛国者」から届けられた告発状が握られていた。

そこには、大統領周辺が密かに計画しているイギリスへの過剰な軍事支援策や、軍需産業との癒着の構造が、恐ろしいほどの正確さと「未来の事実」をもって克明に記されていた。

「このままでは、またしてもアメリカの若者たちがヨーロッパの泥沼で血を流すことになる。すぐにナイ議員や、アメリカ・ファースト委員会の連中と連絡を取れ! リンドバーグ氏にも、次回の演説でこの『事実』を大々的に糾弾してもらう!」

告発状という名の「猛毒」は、瞬く間に議会内の反戦派に燃え広がり、巨大な炎となってルーズベルト政権に襲い掛かろうとしていた。

有能な将官マーシャルの不可解な死による軍部の混乱と、議会からの猛烈な突き上げ。アメリカという巨大な国家の足並みは、見えない何者かの手によって完全に乱され始めていた。

     * * *

数日後、ニューヨーク。

喧騒に包まれるダイナーの片隅で、ジャック・ジャスティン(坂上真一)は、泥水のように不味いコーヒーを啜りながら、夕刊紙の一面を眺めていた。

『反戦派議員、大統領の秘密裏な戦争準備を痛烈に批判! リンドバーグ氏も同調へ』

(……食いついたな。これで、アメリカの軍事力拡大と同盟国支援は、議会の泥沼に足を取られて数年は停滞する)

坂上は冷たく口角を上げた。

マーシャルを物理的に排除し、ルーズベルトの政治力を世論で縛り付ける。第一段階のミッションは、これ以上ないほど完璧に達成された。

坂上は安っぽいコーヒーカップを置き、ポケットの中でいつものコーヒーキャンディを指先で転がした。

この不味いコーヒーを飲むたびに、妻の明子が淹れてくれた、あの香ばしいブレンドコーヒーがたまらなく恋しくなる。

(明子、真奈美。……父さんは、元気にやってるぞ。少しばかり、派手な裏仕事アルバイトをしてるがな)

心の中で家族に語りかけながら、坂上はコートの懐に忍ばせた「殺すリスト」を脳内で広げた。

マーシャルの死と、政治の停滞。だが、これだけではまだ足りない。

アメリカの底力はこんなものではないのだ。時間をかければ、必ず体制を立て直してくる。

ならば、奴らが立ち上がる前に、その手足を全て叩き斬るまでだ。

脳内のリストに刻まれた、次なる二つの名前。

一人は、ヘンリー・H・“ハップ”・アーノルド。

後に陸軍航空軍を創設し、日本全土を焼け野原にする「戦略爆撃」の基礎を築き上げる男。

もう一人は、アーネスト・J・キング。

太平洋艦隊を率い、冷酷無比な采配で日本海軍をすり潰していく海軍の絶対的権力者。

「……アーノルド。お前を生かしておけば、空を覆い尽くすほどの爆撃機が日本へ向かう。俺の故郷(広島)に、決してあの悪魔の兵器は落とさせない」

坂上の青い瞳に、特戦群の修羅としての絶対的な殺意が宿る。

「B-29も、太平洋艦隊も、俺がこの時代で全てスクラップにしてやる」

ガリッ、と。

口の中に放り込んだコーヒーキャンディを噛み砕く音が、ダイナーの喧騒に紛れて消えた。

1937年。狂い始めた歴史の陰で、孤独な暗殺者の戦いは、次なる標的(海軍・航空隊)へとその銃口を向けようとしていた。

【第一章:ニューヨークの亡霊ゴースト 完】

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