04. ペンライトと双眼鏡
予想通り、座席はかなりいい場所だった。
Q:UAR7Zの今年の単独アリーナライブツアー『Crystallize』は、エンドステージから花道がまっすぐ一直線に伸びているステージ構成となっている。そのため、アリーナ席では特定のメンバーをずっと見ることができない。だからこそ、ステージ全体を見渡せるスタンド席が当たりとなるのだ。
ショルダーバッグから双眼鏡を取り出し、ピントを合わせる。ステージ側も花道先端もどちらも問題なく見えることが確認できた。ついでにペンライトのスイッチをオンにしてストラップも忘れずに片手に通しておく。開演5分前になると、最後のペンライトの制御テストがあるため、その前には準備をしておいたほうが丸い。
この時間は着席率は8割を超えているためか、場内のざわめきも大きくなっている。
連番相手を一緒に自撮りをしている二人組の女性、スマホやペンラを振って、遠くの座席にいる友人に合図を送っている人、流れている曲のリズムに合わせてペンラを振る人──。思い思いに公演が始まるのを今かと待ち構えていた。
数分経った頃だろうか、ふと、場内のBGMの音量が絞られる。
直後、暗転。
それと同時に「キャー」とファンたちの黄色い悲鳴が響き渡った。ステージのモニターからライブのオープニングムービーが流れ始める。
暗闇に各メンバーカラーの結晶が7つ、横並びで浮かんでいた。そのうちのひとつ、ローズピンクの結晶にカメラが徐々にフォーカスしていく。拍手を煽るようなBGMに脈動するかのように光の輝きは明滅し、それと共に結晶にひびが入っていった。軽い亀裂音が鳴って、結晶が砕け散る。
その中から、今ツアー専用の王子様風衣装を纏ったグループの「あざと末っ子担当」の「中野悠希」が現れる。ペンライトも連動して、会場一面がローズピンクに染まっていた。
顔がアップで映り、静止したと同時に名前が大々的に表示される。その瞬間、耳をつんざくような歓声があがった。
この声出しはライブでのお約束のようなものだ。これが六人分繰り返される。
次に映ったのはリーダー「八代将吾」。メンバーカラーはアメジストパープル。
Q:UAR7Zのメンバーカラーは単純に、赤とか青のような色名ではなく、宝石──特に水晶などに近しい名前が付けられている。覚えるときは少し苦労をしたがグループ固有のものという感じで、結構、愛着がある。
その次に映ったのはメインボーカルの「綾瀬奏一郎」。メンバーカラーはシベリアンブルー。グループの歌の柱ということもあって、人気は上位のメンバーだ。歓声の量も、心なしか先ほどの二人よりも少し大きい。
次はメインダンサーの「常盤颯」。メンバーカラーはアベンチュリングリーン。くろさんの推しメンだ。黄色い悲鳴の中から「颯ー!」という野太い歓声も聞こえてくる通り、彼は男性人気──あくまでグループ比だ──が高い。
次にフォーカスされたのはグループのムードメーカー「奥田夏樹」だ。メンバーカラーはシトリンイエロー。ファンサが旺盛と評判の彼は、このムービーでもそれを遺憾なく発揮し、投げキスをしている。ツアー初日の歓声はとんでもないことになっていたが、ある程度公演数を重ねたからか、悲鳴の声は落ち着いてきていた。いや、もしかしたら該当ファンはムービーを見ることに集中するために、声を出すのを耐えているのかもしれない。
そして、ここで僕の推し、「芹澤聖」が映し出される。メンバーカラーはクリスタルホワイト。ビジュアル担当とも名高い彼に、今回のツアー衣装はよく似合っていた。他のメンバーのときよりも幾分か、ペンラを振る勢いが増してしまうのはオタクの性というものだ。
最後に映し出されたのは「須藤遼」。メンバーカラーはファントムレッド。センターというだけあって、一番大きな歓声だった。それに彼は直近で出演した深夜枠に放送された少女漫画の実写化作品で一躍有名になったばかりなのも、影響しているだろう。今日の会場内を歩いていても、体感全体の3割程度は彼目当てのファンだったように見えた。
『──さぁ、はじめようか』
遼くんのその言葉で画面は再度、暗転した。せり上がるようにツアーロゴが現れ、数秒間、そのまま静止する。
無音の時間が訪れた。
全員が固唾を呑んで次の瞬間を待つ。その間に僕は双眼鏡を定位置に構えた。
天井から照明が当たって、メンバーのシルエットがステージ上に浮かび上がった。次の瞬間、ツアー表題曲のイントロが流れ始める。
「横浜のみなさーん!」
「準備はいいかぁ!? いくぞ!!」
メンバーの煽りにファンは応えるように声を出す。その横で僕は上手で踊っている聖くんの一挙手一投足を見逃すことのないように、双眼鏡を向け続けていた。
***
Q:UAR7Zの単独ライブツアーの公演時間は、毎回多少の前後はあるものの大体2時間半程度で固定されている。
1曲目・ツアー表題曲で始まり、王道のアイドルソングを4~5曲。着替えとMCを挟んでバラードコーナーやソロ、グループ内ユニット曲が挟まり、後半は定番曲のメドレーと、ファンサのしやすいアップテンポ曲のメドレーで繋ぎ、合間合間にフル尺での新曲が数曲パフォーマンスされる。本公演のラストは全体バラード曲で締めることがほとんどだ。そして、アンコールでは3~4曲を披露して終わりというセットリスト構成。
何度もライブに足を運んでいても、飽きが来ない。かつ、あまりQ:UAR7Zのことを知らない初心者が見ても盛り上がりやすい、安定感のある構成だと思う。
今はライブで定番となった5thシングル──恋に悩む少年の心情について歌った王道ど真ん中のアイドルポップスだ──をパフォーマンスしている最中だ。
ステージ上で踊りながら立ち位置を入れ替わって移動している一瞬の間に、聖くんが遼くんの肩を軽く叩いているところが見えた。目線を双眼鏡から外してモニターを確認するが、カメラには抜かれてなかったらしい。
(──ああ、こういうところがあるからライブに来るのがやめられないんだ!)
再度、双眼鏡を覗きこむ。
頭の先からつま先まで。視線や表情も余すことなく見ることができる幸せに、僕は無意識のうちに感嘆の溜息が漏れ出ていた。




