01. 出会い
その動画が流れてきたのは、偶然だった。
広告として自動再生された、ひとつの映像。おそらく新曲のプロモーションとして出されているであろうMV動画。見たところ、10代後半から20代前半の7人組のボーイズグループらしい。
デビューしたてなのだろうか。簡易的なセットの背景と、動きの少ないカメラワークはあまり予算の掛かっていなさそうなクオリティだった。街中で見かける広告やテレビによく出ているグループと比較してしまうと、その差は圧倒的で。
だけれども、全員が真摯に臨んで制作された映像なのだと伝わるような、まだ少し硬さとあどけなさが感じられる表情の初々しい様子と、その緊張が伝わっているような指の先までピンと意識が張り巡らされたダンスは目を引いた。
いつもだったら何の感慨もなく、無常にスキップボタンに手を掛けただろう。
だけど、しなかった。
──いや、違う。正確にいうとできなかった。
画面の中心でひと際輝く「アイドル」。眩しくて、どうしようもなく目を奪われた。スマートフォンの約5インチほどの小さなディスプレイを食い入るように見つめてしまって、離せない。
色とりどりの王子様風の衣装──おそらく、各メンバーに割り振られたメンバーカラーが衣装のアクセントとして細部に取り入れられていた──の中で、ひと際視線を吸い寄せられたのは白でまとめられたメンバーだった。他のメンバーもアイドルらしく、端正な顔立ちをしている。しかし、中でもその彼は圧倒的に目を引いた。
華はある。だけども、ギラギラと焼き付けるような輝きではなく、百合の花のような清廉さや静謐さを彷彿とさせる、儚く、控えめな輝き。それなのに目で追ってしまう。もっとこの人が輝いている瞬間を目撃したいと思ってしまっている。ワンカットごとに切り替わる映像を見ながら、「どうすれば、もっとこの輝きを見続けられるのだろう」という考えが脳裏を駆け巡っていた。
そして、曲のアウトロが終わった直後の数秒のうちに、画面で表示され続けていた公式チャンネルへのリンクを躊躇いなく押した。
それが、当時平均年齢18.5歳の7人組・男性アイドルユニット「Q:UAR7Z」と、後に推しとなる「芹澤 聖」との運命の出会いだった。
***
「それが、湊クンの沼のはじまりってこと?」
アイスティーの入ったグラスにさしてあるストローを軽く掴み、くるくると指でかき回しながら、目の前の男──「黒瀬 蓮」は小首を傾げる。気だるげに、けれどきちんとセットされている黒髪が、さらりと揺れた。
彼は僕──「高槻 湊」の、友人である。
しかし、実生活で自然とできた縁による友人ではない。彼も僕と同じで「Q:UAR7Z」のファン……いや、オタクだ。SNSで「くろ(蓮)」と「煮卵(僕)」として繋がった数か月前から、DMではそれなりの頻度でやり取りをしてるが、実際に会うのは今日で二回目である。
蓮はメインダンサー兼サブラッパーの職人気質な「常盤 颯」を推しメンとしており、透明なスマホケースの裏側には、ついこの間始まったばかりのアリーナツアーのグッズであるチェキ風フォトカード(全21種ランダム・シークレットあり)のソロショット──当たり前のようにサイン入りのシークレットバージョンだ──が入っている。
「うん。確か2ndシングルのとき」
「すげぇー。じゃあ4年も前じゃん! そんときってまだ、毎週あちこちでリリイベやってた頃でしょ!? うわぁ、羨ましいぃ!」
「っていっても、僕はそのとき高校生だったから、行けたのは都内で開催されたとこくらいだけど」
「そこで尻込みせず、ちゃんと現場通ってたのがすごいんだって! あ~、俺もあと数年はやく知ってればなぁ!」
がくり、と大げさに落胆してみせる姿を見て、自然と笑みがこぼれる。
「Q:UAR7Z」というグループにハマった数年前は、こんな風に誰か──特に同性の友人──と「Q:UAR7Z」の話を直接できるなんて、考えたこともなかったからだ。
***
蓮と知り合ったのはSNSがきっかけだった。
情報収集用にと閲覧目的で登録したアカウント。もしかしたらランダムグッズの交換などにも使えるかもしれないという程度で、他のファンと交流しようという気持ちは微塵もなかった。その理由は自分が男であるというのが、やはり一番大きかった。
とはいえ、直接フォローはしていなくてもタイムラインに流れてくるファン同士のやり取りや、イベントやライブ会場で楽しそうに話しながら会場へ向かう様子を間近で見てしまうと、いいなぁと思ってしまうのが人間の性で。そんなとき、偶然流れてきたのが蓮の投稿だった。
『最近ハマりました!』
『03line / 関東 / 男 / 常盤颯くん推し / 同担◎ 他担◎』
『周りにメンズの連番相手いなくて浮いてるので、現場で飯とか酒とか行ける方いれば〜 普段は社会人してます。仲良くしてください! #QUAR7Z好きな人と繋がりたい』
軽い文面と共に、当時最新のツアーグッズのアクスタを会場前で掲げている写真や、会場内に設置してある彼の推し、颯のフラッグとのツーショットがいくつか添付されていた。
顔はモザイクでぼやけていたが、どの写真も楽しそうに写っていて好感を抱いたし、何より、年が僕より1つだけ上ということに親近感が湧いていた。
仲良くなりたいという願望はあれど、リプライなんて送る勇気は出ず、僕はその投稿にひっそりと「いいね」だけを残す。
自意識過剰なんだろうが、反応が返ってこなかったら……を考えると恥ずかしくて消えてしまいたくなってしまうのだ。けれど、そんなマイナスな考えとは裏腹に少し時間を置いてから、通知バッジは点灯した。
『くろさんがあなたをフォローしました』
『いいねありがとうございました! これからよろしくお願いします!』
心臓が跳ね上がったような気がした。おそるおそる、返信欄をタップする。
『こちらこそ、よろしくお願いいたします。同性の方と繋がれて嬉しいです』
数十分も悩んだくせに出来上がったのは当たり障りのない文章。きっと、この挨拶が最初で最後のやり取りなんだろうな。
緊張で震えながら送信ボタンを押した僕は、この数日後に彼からDMで話しかけられ、徐々に通話、エンカと段階を踏んで仲良くなっていくなんて、思いもよらなかった。




