5【喜びは我慢しないタイプ】
「クライドはずるいよなぁ」
「え?」
「俺がいくら何をしてもスピカちゃんのあの笑顔は引き出せない!」
「なんだそんなことか!スピカちゃんはジルのことも尊敬してると思うよ?」
「そうかぁ?」
クライドとジルは談笑していたがティアは魔力の操作がうまくいったことが嬉しくてたまらないと言った様子だった。
師匠――魔女のフィーネ はそんなティアを微笑ましく、まるで母親のような慈愛に満ちた顔で見ていた。
「ところでもう頼まれたものはできたけど」
「師匠、ありがとうございます」
「え!俺のこと無視なの!?」
「いや、ジルに構っていると日が暮れそうだからさ…」
「ひ、ひでえ…」
ジルは分かりやすく凹んでいたがクライドが袋を受け取り、ジルを引きずりスピカに手を振ると店を後にした。
フィーネはスピカにお客さんがいる時は静かに入ってこないと駄目だろう、と叱るとその後にたまごと魔法の事を尋ねた。
「師匠の言う通り、たまごに手をあてながらいつも通りに魔法を使ったんです。そうしたらきらきらの雨が降って…」
「なるほど。たまごに魔力を吸わせることで上手くその膨大な魔力を相殺したんだね。だから下手に暴走しなかったわけだ」
「私、初めて魔法がうまく使えて嬉しくて嬉しくて…!お客様がいたのに、ごめんなさい…」
「舞い上がるのもまあ無理ないか。あれだけうまくいかなかったことがこんなにすんなりうまくいったんだからね。大目に見るよ。さあ、一旦店じまいしてスピカの魔法を見ようか」
「はい!師匠!」
フィーネは店の看板をCloseにすると鍵を閉めた。
自宅の裏庭へ行くとたまごを側に置いたスピカの魔法発動を確認することに。
「スピカ、落ち着いてさっきと同じように魔法を発動してごらん」
「はい!」
思いを形に。
イメージを具現化!
私の使い方はちょっと独特なのだと師匠は言ってた。
皆こんなふうには使わないんだって。
でもこれが、私の物心ついたときのやり方だった。
「すごいとしか言いようがないね…あんなに悩んでいたことがこんなに一気に解決するなんて」
フィーネが驚いた顔でたまごとスピカを交互に見る。
ただ、何かしらの副作用がないとは言い切れないなと顔を顰める。
「スピカ、もし体に異変があったらすぐに言いなさい」
「え?」
「確かにこれでスピカもうまく魔法が使えるようになっているかもしれない。けれど誰もこんな方法を試したことがなかった。という事は何かしらの影響が体に出てもおかしくない。少しでも違和感があったらすぐに言うんだよ」
「はーい!」
なんとも気の抜けた返事である。
それもそのはず、スピカは今まで体調を崩すなんてことをしたことがなかった。
とりわけ丈夫であった。
なので違和感・異変と言われてもしっくり来ない部分があったが師匠があんな顔をしているから、何かあればすぐに言う事を約束したのだった。
「ひとまず今日は練習は一旦終わりにして休みなさい」
「ええ?!もう!?」
「何が起きるかわからないから今日は体調の経過を確認しよう」
「はい…」
そうフィーネに言われた途端、スピカの視界は急にぐにゃりと歪みそのまま座り込んでしまった。
「し、師匠…気が抜けたみたいで」
「スピカ!」
必死に笑顔を保ったつもりが、スピカの記憶はそこで途絶えてしまった。
次に目が覚めたのは翌日の昼だった。
意外にも素直なスピカなので喜びは我慢しないタイプ。
そんなスピカが微笑ましい兄弟子クライド。
クライドに嫉妬しちゃうジルだけどクライドは頼りになる相棒。




