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神「無属性の最強魔法を授けよう」魔法使い「サラッと言ってますけど“無”ってなんなんです?」

掲載日:2025/03/30

 若き魔法使いクローサーは、魔法の神が与えた試練を乗り越えてみせた。

 老人の姿をした神が褒め称える。


「よくぞ我が試練を突破した。今こそ授けよう、無属性の最強魔法『ヌール』を! これさえあれば魔王ですらおぬしの敵ではないであろう……」


「……」


「どうした、魔法使いよ」


 クローサーがつぶやく。


「あの……サラッと言ってますけど、“無”ってなんなんです?」


 魔法の神は目を丸くする。

 こんな質問が返ってくるとは思わなかったのだろう。


「“無”は“無”じゃよ」


「いや、まあそうなんですけど、イマイチ想像し辛いというか……」


「む……」


「やっぱり魔法使いとしては、“無”っていうものをちゃんと理解しておきたいんですよね」


「うーむ、一理あるのう」


 例えば炎の魔法を使うのであれば、炎の赤さや熱さをきちんと理解している方が威力は上がる。

 氷の硬さ、冷たさをよく知っている方が、氷属性の魔法は扱いやすくなる。

 何となくで使うのではなく、根源となる力を自分で把握していた方が、より高い効力を発揮できる。

 魔法とはそうしたものなのだ。


 魔法の神は少し悩んでから――


「“無”というのは何もないということじゃよ」


「……」


「これじゃダメ?」


「ダメってわけじゃないんですけど、その“何もない状態”っていうのがなかなか想像し辛いというか……」


「まあ、確かにな……」


 二人とも黙り込んでしまう。

 気まずくなったのか、クローサーが切り出す。


「何もないってことは、そこには生物もいなければ物体みたいなものもないんですよね?」


「ないな」


「水もない?」


「そりゃないじゃろ」


「空気もない?」


「もちろんじゃ」


「重力的なものもない?」


「無重力じゃろうなぁ」


「時間の流れも?」


「ないじゃろうな。ずっと止まったままじゃ」


「言うのは簡単ですけど、想像できないですよね。そんな世界……」


「まあ、確かに……」


 無というからには何もないのは間違いない。

 とはいえ何もない状態を想像しようとすると、とても想像が及ばない。

 じゃあ無ってなんなんだ、という堂々巡りに陥ってしまっている。

 クローサーが話題を変える。


「無の世界だと、色ってどうなってるんでしょう?」


「色? 白っぽいイメージじゃが……」


「それだと何もないじゃなく、“白”がありますよね」


「そうじゃな……じゃあ透明か?」


「透明だとしても、何かしらの色は見えるはずですよね?」


「じゃあ、黒か」


「それだと“黒”がありますよね。無じゃないですよね」


「そうじゃね」


「……」


「……」


 魔法の神は首をひねる。


「この方面から無を理解しようとするのは難しいかもしれんな」


「僕もそう思います」


「そこで、少しアプローチを変えてみようと思う」


「やってみて下さい」


 神は少し考えてから、おもむろに話し始める。


「想像してくれ。たまの休日、起きたらもう正午だった」


「うわ……キツイですね」


 クローサーは顔をしかめる。


「じゃろ。寝すぎたせいで頭はぼんやりしている。食欲もあまりない。とはいえ、まだ正午じゃ。外に出かけるなりすれば、十分休日を楽しむことはできる。じゃが……」


「じゃが?」


「そのまま二度寝してしまった」


「最悪だ」


「二度寝といってももう十分寝てるからしょっちゅう目は覚める。しかし、体はだるいので、二時、三時、と時間は過ぎていく。体力を回復するわけでもない。本当にただ横たわってるだけの睡眠じゃ」


「もうそのぐらいの時間になると、出かける気にもならなくなりますね」


「その通り。そうこうしているうちに、あっという間に夕方じゃ」


「休日が台無しですね……」


 クローサーは暗くなり始めている空を想像する。耳にカラスの鳴き声が響いた。


「とはいえ、腹は減ってくる。何か食わねばならん。幸い炊飯器には残りのご飯があり、これに湯で温めるだけで済むレトルトのカレーをかける」


「カレー美味しいですよね」


「うむ。そしてそんなカレーをスプーンでハグハグと食べる……。美味しいが、非常に空しい。この瞬間こそ、まさに“無”ではなかろうか!?」


「おおっ、確かにそんな気がします!」


 神の力説に、クローサーも納得する。


「ようやく、無の何たるかが分かったようじゃな」


「はい、イメージできました! これならば無属性魔法を使いこなし、魔王を倒せるはずです!」


「うむ、期待しておるぞ!」


 クローサーは意気揚々と魔法の神に別れを告げた。



***



 そして――

 クローサーは世界を滅ぼさんとする魔王との対決に臨んだ。

 一進一退の攻防が続き、ついに大魔法を唱えるチャンスが訪れた。

 クローサーが唱えるのはもちろん――


「受けてみよ、魔王! 遅く起きた休日を二度寝三度寝で台無しにし、そんな日の夕方に空しく食べるカレーの如き魔法……『ヌール』!!!」


 虚無が魔王の全身を包み込む。

 魔王も必死に抗うが、クローサーは無属性を完全に自分の物にしており、ついにその体は吞み込まれていった。


「ぐあああああああっ……! このワシがぁぁぁぁぁ……!」


 魔王の最期を見届け、クローサーは喜ぶ。


「や、やったぞ……!」


 世界は救われた。

 今夜彼が食べるカレーは、きっと格別の味に違いない。






お読み下さいましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
無属性って属性が無いって事じゃないの? この問答はどちらかと言えば「虚」とか「虚無」「空」属性になるんじゃないだろうか? いや、まあ、世界観によってその辺りは変わってくるだろうけど。 とりあえず、「遅…
無属性:属性という「色」を付けてない魔力そのもの、何らかのエネルギー的で直接的に攻撃してる イメージ的には波動○みたいなもん 虚無:虚にうつろだったりほらあなだったりの意味があるので物質を飲み込んで最…
クローサー「行くぞ!究極の無属性魔法!レトルトカレーを生み出す魔法!!」 神「カレーの部分しか聞いてない…」
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