幽霊の正体がわかりまし……あれっ?
ここは30年前まで隔離病棟として使われていた建物だ。
俺と連れのコウタ、そして心霊スポット大好きなマリナと3人でこれからここに突入する。
それぞれにスマートフォンで撮影しながらの探検だ。いい画が撮れれば……いや、何も出てくれるなと両方の願いを胸に、俺たちは建物の中へ入った。
元々は自動ドアがあったであろう入口には何もなく、ただの四角い穴となっている。そこを入った途端、うすら寒い空気が俺たちを取り囲んだ。
「夏の気温じゃないよね……これ」
「さむっ……」
「ウッフッフ、幽霊さーん、来ましたよぉー♪」
一人だけはしゃぐマリナが不気味だ。
荒れ果てた廊下を歩き、診察室だったらしき部屋に入ってみた。
床には段ボールのゴミが散乱し、診察台の上にはなぜか壊れた人形がたくさん乗せてある。綿のはみ出たぬいぐるみ、髪の乱れまくった市松人形、顔の半分ないフランス人形、藁で編んだ人形、蝋人形にほわほわ人形まである。なんなんだ、これ。
スッ、とドアの向こうの廊下を誰かが通った。
「わふ!」
コウタが情けない声をあげる。
「うぎゃ!」
マリナもさすがに奇声をあげた。
『お家帰りたい!』
俺は思っていた、二人を守るように前へ出ながら──。
すると通りすぎたと思われた誰かが、バック歩きで戻ってきた。
「あっ。もしかしてユーチューバーさん?」
気さくに話しかけてきた。
濡れたような長い黒髪、青白い顔に白い和服姿──どう見ても幽霊だ。
「お邪魔してます」
「勝手に上がり込んでごめんなさい」
コウタとマリナがビビりながらぺこりと頭を下げた。
「あっ……、あの……」
俺は勇気を振り絞り、彼女──だと思ったら男の人だった彼に聞いた。
「幽霊さん……ですよね?」
「違うんですよー」
彼はカラカラあかるい笑い声をあげた。
「そういうことにされてるようですが、私たち、地球に潜伏してるエイリアンなんですよー」
「えっ」
「じゃあ……」
「今まで人類が動画や写真に収めてきた不思議なものや恐ろしいものは……」
「すべてエイリアンです」
彼は言い切った。
「なーんだ……」
「じゃあ、幽霊なんていないってこと?」
ロマンを壊されて、俺たちはしょんぼりとしてしまった。
「まぁまぁ」
彼が俺たちをなだめようとしてくれる。
「わかります、わかりますよ。死んでも死後の世界があるとか期待しちゃったんですよね? でもあなたたち、死んだら終わりです。霊にはなりません。転生して異世界デビューとかはあるかもしれないけど」
「なんか」
「しらけちゃったね」
「どうする?」
「帰ろっか」
「いえいえ皆さん、そうはいきませんよ」
彼はじぶんの長い濡れ髪をニチニチと触りながら、俺たちに言った。
「我々エイリアンの目的は地球侵略です。めっちゃノロノロやってますけどね。ニチニチ星人である私の正体を知られてしまったからには記憶を消去させてもらいますよ。そのスマートフォンで私のこと撮りましたよね? 盗撮です。消去します」
結局、幽霊はいなかった。
ホッとする気持ちと残念な気持ちを両方抱えながら、俺たちは廃病院を後にした。
「残念だったねー」
「……つまんない」
「髪の長い白い和服姿の幽霊とか、出てほしかったなぁ」
それぞれが自分の録画したスマホ画面をチェックする。気づきにくいところに心霊でも映っていないかと期待したのだが、それらしきものは何も映っていなかった。なぜか途中10分ぐらいは撮影できていなかった。
やっぱり幽霊なんて存在しないのだろうか。
いやいや……。なかなか出会えないからこそロマンがあるのだ!
いつか幽霊の存在を動画に収めてみせる!
何か見たような気もするのだが、なんだか途中の記憶がなくて──まぁ、なんにも見なかった。俺たちはなんにも見ていない。
その時、俺たちの目の前を不気味なつまようじみたいな女が横切った。
幽霊か? と思ったら、しいなここみだった。
「おわかりいただけたであろうか?」
鬱陶しい震える声でそんなわけのわからないことを言うので、車で轢いてやった。