91.討伐隊進撃
進軍を続けるにつれて、東征軍には続々と勅令に応じた封臣の軍隊らが合流していた。
「あ、三時間だけ戦ったら帰ります」
「アルバイトなの!?」
中にはアルバイトもいたが、それでも貴重な戦力である。軍団はドー国平野の北西部から進軍することを決断した。他の方面は軍備が固められており、大きな損害を免れないからであった。そこはグンマー族の住まう地域であり、山岳地帯であった。数多くの木々が存在し、グンマー族との交渉の元、木材が徴発されることとなる。グンマー族とは扶桑に住む人類種の一つであり、珍しい扶桑朝廷寄りの勢力であった。
「狼人、開墾、手伝ッタ。グンマー族、狼人、手伝ウ」
「ありがとう。助かる」
兵士たちやグンマー族の住民たちが木々を切り、それから馬車やトレビュシェットなどの装備を組み立てていた。
「グンマー族、金貰ッタ分働ク。あ、こういった地域性などに基づく差別や偏見などは創作上の演出でありブラックなジョークであるため、みんなは口にしないようにしようね」
「急に何!?」
本作品は地域性やそのイメージに基づくものなど、いかなる出生地、人種、民族、宗教、思想、疾病、障碍に対する偏見、差別等を助長する意図はありません。
「今まで割と散々ネタにしてきたくせに今更どの口が……!」
相も変わらずアカネは森羅万象にツッコミを入れていた。それはそうと、それぞれの作業を監督しているジロの下に伝令がやってきた。
「使い番です! 斥候の報告によると、敵は軍民問わずに武装させ、我々を迎え討つようです!」
「わかった」
彼は思案を巡らせる。軍量が多くなるため苦戦を強いられる可能性は高い。特に正面での戦いは向こう側の有利に働く。しかしながら、必然的に練度は低くなり、士気も下がりやすくなる。それから、ドー国の全ての住民が敵になるというのなら、殲滅するわけにはいかない。そうなれば死に物狂いで抵抗するだろうし、武装しているとはいえ訓練を受けていない町民や農民を殺すのは仁義に悖る行為であった。
「元民間人? 雑魚狩りなど、狼人の名が廃るというものですよ!」
伝令が叫ぶ。仁義というよりはそういう感じの理由であった。基本的に狼人は強いやつと戦いてぇタイプが多いのである。とはいえこれを無視して軍隊を率いて浸透するのは難しい話である。
「心理作戦はどうでしょう!? 訓練を受けていないのであれば通用するはずです、おーい、魔法使いか妖術師はいないか!」
「……」
なんか伝令が勝手に話を進め始め、立つ瀬のないジロであった。
「ちゃんとそういうとこは言ったほうがいいよジロさん」
「うん……」
当然、ドー国側の前線部隊も征伐隊の存在を察知していた。とはいえ、目立った動きもないため様子見をしていたのである。指定暴力団徳川組は所詮はならず者の集団であり、ここで攻勢に打って出られるような指揮官も兵士もいなかったのである。その間、征伐隊は十分な準備期間を得た。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ば、馬鹿な! あの規模、ドー国ドーム3個分はあるぞ!」
「いや、5個分か……!?」
都市郊外の農村に作られた簡易的な陣地に籠るドー国の守衛たちがわけのわからない基準で慄いていた。こんな変な基準が全域に堂々と放送されている国があるらしい。ともかく彼らの面前には大規模な軍隊が行進していた。そしてその軍団の指揮を取るのはジロではなくスヱコであった。
「今はこのスヱコが叔父上の代わりを務める。コノエ家、この火傷の痛み、一時も忘れたことはなかったぞ!」
「それは自分でっ……!」
「まあいいか! コノエ家許せねぇ!」
めちゃくちゃ大嘘で部隊を鼓舞する。スヱコの勢いに兵士たちも鬨の声を上げていた。一方で、ジロたち五人の姿は見えなかった。
「叔父上、ここは任せてね! 投石器、放てぇーーっ!!」
彼女の号令とともに、トレビュシェットの留め具が外され、巨石が放られた。さぁ、戦いだ!
「ケルベロス、召喚!」
魔術札を掲げ、召喚の宣言を行ったのはサエであった。手に持った札が輝き、三つ首の大狼が現れる。それと同時に、投石が着弾し防衛陣地や民家を粉砕した。
「突撃ぃーー!」
スヱコの号令とともに、ケルベロスを伴い征伐隊の兵士たちは防衛陣地に突っ込んでいった。
「ひぃっ、なんだあの魔物!」
「逃げろーっ!!」
民兵揃いのドー国軍はケルベロスに恐れ慄き逃亡を始める。踏み止まるのはこの村の住民であった兵士と徳川組構成員だけであった。
「矢だ、矢を撃て!」
しかし遅きに失した。ケルベロスは凄まじい速度で陣地に詰め寄ると蹂躙を始める。
「ぐわぁ!」
「肉球に潰されるっ!!」
ケルベロスの爪は鎧をも紙のように引き裂く。肉球は容赦なく押しつぶす。兵士たちは為すすべなく倒れていった。ドー国の守衛たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。そこへ、討伐隊の兵士たちも陣地に侵入してきた。
「みんな覚悟決めろーっ!!」
彼らは元はこの世界に転移されてきた単なる学生たちであったが、身に起こった壮絶な経験からなる怒りと憎しみがその体を奮い立てていた。勢いづいて彼らは守衛たちに襲いかかっていく。逃げ惑う背中を刺すのは容易かった。戦いとすら言えないような一方的な蹂躙が繰り広げられていた。そもそも、存在を認知しながらも放置していた時点で勝敗は決していたようなものである。かくして、討伐隊は緒戦を圧勝に次ぐ圧勝で飾ることとなる。とはいえ懸念はドー国の人間が人類種であり、一見して日本人と変わりがないという点であった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方で、ジロたちはというと戦場を迂回し、隠れながらドー国中心部を目指していた。
「みんな大丈夫かな……」
アカネがそう口にする。遠くから戦いの音が聞こえてくるからだ。
「まあなんとかなるでしょう。我々は我々の心配をしましょう」
珍しくまともなことを言うステラに一同は困惑した。一行はジロ、ステラ、アカネ、ナムヒ、そしてエルヴィンという少数で行動していた。総力戦では総大将を討ち取るまで戦いが終わらないと予想されたからである。早期決着を狙う作戦であった。そもそもいくら戦場で勝とうともローナにちゃぶ台を返される懸念が常にあるのである。
「女神ともあろう者なら、既に吾輩たちも察知されているかも知れん」
「ああ。気を引き締めていくぞ」
外套のフードを深く被り、一行は先を急いだ。
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