90.いざ東征
程なくして扶桑全国に東征の勅令が下される。標的はもちろんドー国であったが、コノエ家の手にかかる家はもちろん、お金もらっちゃったので拒否、気が乗らない、なんか正当性足んなくない?、その日は風邪引く予定がある、行けたら行く、などの理由で参加する封臣はあまり多くなかった。
「みんな酷いっ、朕ってば帝なのにっ……!」
「よしよし」
ジロに泣きつく帝であったが、これ自体は予想されていた事態である。扶桑帝国が瓦解に向かっており、コノエ家と指定暴力団徳川組の魔の手が中枢まで入り込んでいた証左であり、まさしく近年の朝廷の威信が低下している何よりの証拠である。そうやってすぐ泣きついてたりするからこんなことになるのではというのは置いておいて、とはいえまだ見極める段階であり、積極的にどちらかに肩入れしようという勢力は皆無であった。
また、出撃前に勝利を祈願する儀式が行われた。巨大な篝火の周りに一行と帝が集まる。
「ここに、川で取れる海苔を捧げると、神龍であるマテラフ様が顕現なされる」
「へぇ〜、海苔!」
「海苔で来るとは安上がりな神龍ですね」
ジロがみんなに説明しながら、篝火の前の供物台に海苔の束を供える。すると、帝が祝詞を唱え始めた。
「……あ、祝詞なだけに海苔ね!」
と、アカネが合点がいったように口にした瞬間、一同は篝火ごと猛スピードで現れた巨大な物体に轢かれた。
「どわ〜〜〜〜〜!!?」
一同は吹き飛ばされてしまった。なんとか顔を上げると、そこには巨躯の東洋龍が鎮座していた。
「私がマテラフ山田、毛皮の民の守護神龍」
「マテラフ……山田!?」
そして、その龍はマテラフ山田と名乗った。マテラフ山田、彼女は狼人、というよりは獣人という種そのものをざっくりと司る神龍である。
「呼ばれたのはいつぶりか、先の大戦争の際であったかな」
「マテラフ様、実は斯々然々でございまして……」
帝が儀式に至った経緯を話す。それを、マテラフ山田は尻尾をパタパタさせながら聞いた。
「ふぅん、大変だな」
「興味なさそう!」
「しかし、この川茸を頂戴する代わりにお前たちに加護を授けよう」
彼女は、川茸と呼んだ海苔の束を尻尾で掴んで持って行くと、そのまま一口で食べてしまった。
「お、美味しいの?」
「海苔の味」
「でしょうね」
彼女は無類の海苔好きでもあった。そして、彼女の身体が光ったかと思うと、一同の身体も発光し始める。これが加護の力であった。
「私の加護があれば確実に勝利を得ることが出来るであろう。ちなみに効果は三日で切れる」
「全然間に合わないじゃん……」
実質単なる願掛けであった。得てして儀式とは多くの場合そういうものではあるのだが。
「てか出発前なのにふっ飛ばされてすでにボロボロなんだけど……!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そしてもちろん、ドー国にも東征の情報は伝わっていた。
「ついに始まるでおじゃる」
「ミーたちが征伐隊を打ち倒せば、扶桑の実権を握ったも同然だゆ!」
「……」
女神ローナははしゃぐタヌマロとイエユナを見てほくそ笑む。彼女の狙いは別の部分にあるからだ。この世界に顕現し、かつ力をフルに使えるようになること。そしてきさらぎの鏡を手に入れることである。顕現することは今のところ達成した。あとはきさらぎの鏡を手に入れればシン・浮世とこの浮世とを繋げ、二つの世界をめちゃくちゃにすることが出来る。その方が、ずっと面白いと考えている。彼女は荒らし・嫌がらせ・混乱の元であった。
「迎え討つ準備をするゆ!」
ドー国側も戦の準備に取り掛かる! 彼らも座してただ待っていた訳では無い。稀人たちから引き抜いた強力な祝福を持つ精鋭部隊や、膨大な資金により建造された魔術師部隊が配備された数多くのキャラック船級の軍船など、一領邦でありながら大国並みの戦力を取り揃えていたのである。そして。
「全市民に告げるゆ! 武器を取って戦い、臆病者には刑罰を与えるんだゆ!」
「麿が思うに、後のことを考えるとそれはちとマズイのでおじゃるが」
「関係ないゆ! どうせ負ければ全部終わりだゆ!」
やくざ者に明日の勘定はない。ドー国の平野全てが戦場となり、一般市民などというものは存在しなくなるだろう。コノエの懸念も聞かず、イエユナの号令は下された。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「お前ら、首級が欲しいかぁぁーーーー!!?」
「ウオオオオォォォォォーーーーーーーー!!!」
「そんなノリなの!?」
かくして東征軍本隊は出発した。錦の旗を掲げて軍団は進む。ジロたちは騎乗しその先頭集団を進んでいた。
「なんか、ピクニックみたいですね!」
そんな中ステラは呑気なことを言っていた。しかし、アカネは窘める。
「そんなわけないでしょ、戦争なんだよ?」
「えー、お弁当作ってもらったんですけど……」
「お弁当って……んもう。ジロさんも何か言ってあげて」
ジロはいつになく神妙な顔をしている。そしてゆっくりと口を開いた。
「……実は俺が作った弁当だ」
「あたしもお兄に作ってもらったぜ」
「あのさぁ」
呆れるアカネ。そんな様子を見ているエルヴィンも辟易とした表情を浮かべている。
「吾輩、このノリにはついていけん」
「だよねエルヴィンさん! 私もぉ〜〜!」
物々しい一列の先頭にいながら結構呑気しているジロたちであった。
道中、軍団を見た市民たちは怪訝な表情をするも、錦の御旗を見るやいなや物資を分けてくれたり、激励の声を上げた。まだ帝の威信は失墜しきってはいないということである。また、川原でその辺にいたおっさんとしこたま酒を飲み交わすこともあった。ちなみに位置は我々の世界で言うところの岡山県の北部である。
「やめてね!?」
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