86.魔術札の闘士
「私は魔術札の闘士、決闘者サエ」
ちょっとまるっとした感じの体型のセーラー服の少女はサエと名乗った。魔術札の闘士とは、 魔術札と呼ばれる特殊な魔道具を使って戦う者たちのことである。この魔術札には魔法や使役した魔物などが封入されており、それらを発動、召喚することによって戦う特殊な戦闘術である。
「修行中は厳しい掟があった。一つ、鍛錬に努め己の限界を乗り越えること。二つ、決闘から決して逃げず戦うこと。三つ、風呂には入らないこと」
「汚いよ!?」
「私はそれが嫌で技術を身に着けた後速攻で足抜けした」
「だろうね……」
今は毎日入っているので安心してほしい。そして、相対するエルヴィンはようやくアカネを降ろすと両手剣を抜いた。
「アカネ、下がっていろ。大スケルトンとあらば吾輩の出番だ」
「大丈夫、エルヴィンさん、私も戦うよ」
アカネも、彼の横に立ち、サエと対峙した。
「ふふふ、餓者髑髏だけとでも思った?」
すると彼女は懐から更に魔術札を取り出す。
「ケルベロス、アーペプ、召喚!」
彼女が叫ぶ。すると、手に持った札が輝き、三つ首の大狼と青と黄色の模様の大蛇が出現した。
「二体を攻撃表示にしてターンエンドだ!」
二人はそれらに餓者髑髏を加えた三体の魔物に取り囲まれる。
「では、吾輩たちのターンだな」
エルヴィンはそう宣言すると、翼を広げて真上に飛び立った。そして両手剣を振りながら餓者髑髏に斬りかかる。骸骨、即ちアンデットである餓者髑髏にはその両手剣は効果絶大であり、その巨大な骨をも容易く切り裂いた。
「まずは一体」
「ぐわああああ!」
「!?」
すると、サエの身体が吹っ飛び、地面にたたきつけられる。
「え、な、なに?」
「ぐぅぅ……魔術札の闘士は、魔術札によって召喚された魔物を倒されると自身の身体にダメージがフィードバックされる……」
「な、難儀な戦い方だなぁ」
アカネが驚いていると、ケルベロスとアーペプが彼女に同時に襲い掛かる。
「うわっ、"|魔力の防壁《プロテクト アンド サバイブ》"!」
魔力の壁が覆い、その爪や牙から彼女を守った。どんな魔法か忘れてしまったのでおさらいするが、"|魔力の防壁《プロテクト アンド サバイブ》"、優れた防御魔法であり、あらゆる魔法や事象をシャットアウトする、少なくとも17秒間は。そして、魔物二体がその壁に釘付けになっている間、エルヴィンは再び飛び上がり、上から両手剣を振り下ろし、大蛇の魔物アペプの首を切り裂いた。
「うわあああああああ!」
「戦いにくっ! デメリットの方が大きくない!? 魔術札って!」
「いてて……そ、そんなこと、ないもん!」
彼女の反論は強がりではない。魔術札は使用者の能力以上の存在を戦力として使役出来るし、フィードバックについても、極端に戦力の逐次投入を行いその全てを蹴散らされた、などでなければ命を失うほどではない。エルヴィンは餓者髑髏とアペプは難なく倒すことが出来たが、ケルベロスには防戦を強いられていた。素早い牙と爪の連続攻撃を彼はなんとか両手剣でいなし続ける。
「ぐっ、このままは持たん」
「"魔力の雨矢"!」
援護するべく、アカネは攻撃呪文を唱えた。光の雨がケルベロスに降り注ぐが、気にもしていない様子でエルヴィンに攻撃を続ける。
「バカめ、ケルベロスは地獄の番犬だぞ、地獄の番犬に魔法なんて効くか!」
「よくわかんないけどそうだったんだ……!」
理屈はわからないが打つ手も無い、彼女にはもうサエを直接ぶん殴る以外の手段が残されていなかった。
「うおおおお!!」
「やめて! こっち来んな!」
サエは、アカネが自分に向かって来るのを見ると思わず走り出して逃げ出した。端から見れば女子高生が女子中学生を追いかけ回しているようにしか見えない。勝負を決めたのは異世界歴の長さであった。アカネの足は長旅で鍛えられ、すっかりと健脚になってしまっていた。
「よし、捕まえた!」
「うおっ、足ふっと……♡」
とうとう、サエは捕まってしまった。しかし、ケルベロスの猛攻が止まる気配はない。
「あれ、なんで!?」
「召喚した以上、やられるか命令を完遂するか、私が止めるか死ぬまで動き続ける……!」
「じゃあ止めさせて」
「嫌」
アカネは彼女に関節技をかけるが、決してサエは止めなかった。エルヴィンの疲労はどんどん溜まっていく、果たしてどうなるのか!?
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
少し時間は遡り、サエの襲撃が始まった頃。ナムヒとハーメリアのテントにも騒ぎが聞こえ始める。
「なんだ?」
「何か騒いでるわね、出た方がいいかも」
二人は木箱の蓋を開け、身体を出した。しかし話をしていた二人の男はまだそこにいたようで、ぎょっとした表情で彼女らの方を見ている。
「アイイイイエ!! 曲者!? 曲者どうして!?」
「……どうも、悪代官ドノ。朝麗忍者です」
ナムヒはなぜかはわからないがやめたほうが良さそうな名乗りを上げた。しかしながら、彼らも彼女らに構っている暇は無さそうであった。
「ええい、やむを得ん、曲者は捨て置いて逃げなければ!」
オオトモと呼ばれた男と徳川組の下っ端はテントを飛び出そうと逃げ始める。しかし。
「待ちなさい! TSしておしまいっ!」
ハーメリアが叫ぶと、彼女の身体が光り輝き、その光に包まれた二人組は性転換してしまった。
「やぁ〜ん!」
「女の子になっちゃったワん」
「お前らそれ今の時代許されねえからな」
古臭いリアクションを取る二人をナムヒは逃げないように柱に括り付ける。
「行くわよナムヒ、この騒ぎはただ事じゃなさそう」
そして彼女ら二人はテントを飛び出す。そして演目が行われている大テントの方を見ると、大勢の人が中から逃げ出していた。
「行ってみるわよ」
「いや、待て」
ハーメリアをナムヒが制止する。彼女はあることを考えていた。
「こっちに行こう」
「え?」
きっとあの稀人の連中を助けておけばジロは褒めてくれるのではないかと。二人は先程の稀人たちのテントに向かった。そこは警備兵たちが騒ぎに乗じた稀人たちが脱走しないか警戒している状況であった。今更そんな雑魚どもに苦戦するナムヒではないので戦闘描写は割愛する。
「そんな……」
そしてテントの中に入る。ボロ切れのような服を着た少年少女たちが怯えていた。
「おい、ガキども! 脱出する気はあるか!」
ナムヒが大きな声で言う。子供たちは何がなんだかわからなかったが、唯一自分たちを逃がしてくれそうな人物が駆けつけてくれたことに安心して頷く。
「あなたは一体……?」
「姉御と呼びな!」
ナムヒは自信を持って言い放った。それから彼らを連れ出し、伸びた警備兵の装備やサーカスの小道具などで武装し、大テントの方へと突入する!
「ナムヒ、あんたこの状況楽しんでるでしょ」
「良心の呵責もなく好きに暴れられるなんて最高だからな」
応援、ありがとー!
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