83.シジマの道中
さて、ジロたち一行はいくつもの中継地点を経由し、一週間ほどかけて扶桑の北シジマ空港に到着していた。荷車から降りるとドラゴンの姿をしたカミカゼ航空のマスコット、カミカゼ航空マンが出迎えてくれた。無駄に声がいい。
「……故郷に帰ってきてしまったか」
ジロが感慨深そうに呟く。
「そうね〜〜〜!」
と突然荷物から小さな龍が飛び出す。
「ハハハハー! 私はハーメリア! TSしぐえっ!」
が、ナムヒに首を掴まれてしまった。
「こいつまだいたのかよ」
「ぐるじぃ〜〜〜!」
彼女が拘束を緩めると、ハーメリアは咳き込む。
「ふぅ、私の力がどうせ必要になるかと思って……あわよくばこの作品のマスコットになれるかと思って……」
「いや、もう最終章だよ? 今からキャラクターを深堀りするのは遅いんじゃないかな……」
エルヴィンにも刺さる事を言って、アカネはこの神龍を諭す。しかし、諦めるつもりは無いようだ。
「今からでも、マスコットになれるとそう確信している!」
「その通り、吾輩も馴染むことが出来る!」
とにかく、次の便で馬車と馬が到着すると、ジロたち一行は中央政府の存在するオオミコトノキョウへと向かうことになる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ぎんぎん ぎんぎらぎんのギルド組♪ 酒場を覗けば顔馴染み♪」
「回して頂戴いい任務♪ 今日も一日草むしり♪」
「さり気なく変な歌歌わないで」
ジロたちの馬車は砂糖街道と呼ばれる大きな道を進む。これは昔から砂糖を輸入した商人が全国に売り歩く際に通った道とかではなくかつて砂糖をばら撒いて回ったヤベーやつがいたとかいう変な故事に因む。
「なにそいつ!?」
「わからん……」
現地の住民にもわからず謎に包まれている。一説によると稀人の仕業ともされる。というか、変な出来事はだいたい稀人のせいにされる。街道は掃除のために封鎖され、住民たちは大変迷惑がったとされている。
「そしてこの砂糖街道には魔物も多い。こっちじゃ妖怪と呼ぶこともあるが」
扶桑の魔物、妖怪というのはアンデットに分類されるものが割合に多く、狼人たちが列島を征服した際に駆逐した種族たちの祟りではないかとされている。
「アンデットであれば、吾輩にお任せあれ」
そして悪霊によく効く両手剣を持つエルヴィンはまさにうってつけの人材であった。神霊の類ぶっ殺し両手剣の閃きを浴びたアンデットは筆舌に尽くし難い痒みを訴え、その刃に切り裂かれると二度と立ち上がることはない。
「早速お出ましだな!」
張り切るエルヴィンの前に立ちはだかる悪鬼悪霊たち。彼は両手剣を振りかざし、次々と敵を切り捨てる!
「そんなの相手しなくていいから、早く馬車に乗って、エルヴィンさん」
「え? ああ、うん……」
が、アカネの呼びかけに渋々応じ、馬車に乗り込む。そして馬車は再び走り始めた。
「……」
めっちゃ凹んでいるので、アカネはもうちょっと好きにやらせてもよかったかなぁ、と思うなどした。空回りが痛々しく居た堪れない雰囲気になってしまった。そこで、ステラが口を開いた。
「私思うんですけど……」
「何?」
「マスコット枠って私では?」
「知らないよ」
しかしアカネに冷たくあしらわれてしまった。
「いや、俺だ」
「あたしだろ」
反応すると収拾がつかなくなるので、スルーを決め込むアカネであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
街道を進んでいき、首都の郊外に辿り着く。するとなにやら街が賑わいを見せていた。
「早く行こうぜ! すっげー曲芸があるんだってよ!」
狼人の子どもたちがそう噂話をしながら小走りで駆けていく。街中にチラシがばら撒かれており、馬車から降りたナムヒがそれを拾い上げた。
「ああ? さーかすぅ? ……なんか見世物みたいのがあるらしいぜ」
「散楽とは違うのか」
「よくわかりませんが、面白そうですね!」
チラシに描かれた地図を見て、ナムヒも頷いた。彼らは馬車を宿に預け、地図の示す場所へ向かうことにした。街の外れの原っぱに大きなテントが立てられ、周りには小さなテントや屋台、動物の入れられた檻などが立ち並び、人だかりが出来ている。鎧を着込み槍を持った衛兵たちが行列整理に四苦八苦していた。
「よし、行くか」
「ですね」
ジロはオレンジの半ズボンにミミズの這ったような線で顔が描かれたお面、ステラはウサ耳に赤い縞模様のキャットスーツを着ており、やる気は十分であった。
「出る側!?」
「これだけの人数、相手にとって不足はない」
「不足も何も、あなたたちは芸人じゃないでしょ!? ステラも、いつの間にこんな服用意したの!」
「今の私は"ステラ・ザ・パフォーマー"とお呼びください」
「しゃらくせーよ! ……もういい、二人なんて置いてみんな行こ!」
呆れ果てたアカネは残りのメンバーの手を引き、二人を置いて人混みの方へと消えて行った。
「……関係者入り口ってあっちだろうか」
「え、ホントに行くんですか!?」
その後、ジロとステラはなんとか関係者用の入り口を発見した。
「あのー、サーカスに出たいんですけどー」
すると、サーカスの団員たちはいつもの事のように呆れた。
「カーッ! またかい! いるんだよなこういうやつ!」
しかしながら、ステラの方を見やると目の色を変えた。
「お、エルフか! 初めて見る! それならいい見世物になるかも……」
「見世物ではありません、"ステラ・ザ・パフォーマー"です」
「なんでもいいよ! よし、二人とも採用だ!」
団員は二人の肩を叩き、控室へと通すのであった。
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