81.ゴー・イースト
前回のあらすじ
一杯の酒が、歴史の明暗を分けた。オゴデイはある日、気まぐれで酒を控えた。その結果、モンゴル軍はヨーロッパ平原を駆け抜け、ピレネー山脈を越え、ジブラルタルに到達、ユーラシアの東西は繋がった。それから数世紀、世界の人々はようやくモンゴルの影響から抜け出せた。
西方ではモンゴルの行政区に合わせた地域大国が数多く乱立、モンゴルの支配を逃れたイングランドとスコットランド、アイルランドは互いに睨みを効かせている。新大陸ではアステカやマヤなどの大帝国に旧大陸の技術や制度が渡り、東方でも。外征に乗り出した日本や朝鮮、中華皇帝を志す数々の奸雄、再びモンゴル帝国の栄光を夢見る平原の遊牧民。ムガルの脅威に晒され結束する藩王たち。中東、バルカン半島、アフリカ大陸北部にまたがるオスマン帝国、その脅威に対抗すべく国威の向上に励んだアフリカ諸国、再興したソロモン朝エチオピア、南方の部族も次々と覚醒しつつあった。太平洋ではマジャパヒトが洋上帝国を築き上げ、マオリ人たちは結束しハワイ王国、アオテアロアを結成、オーストラリアの部族たちは妥協と融和により統合の兆しを見せる。人々は心を弾ませる。爛々と光るその目にはこの先に起こる乱世を見据えていた。
「もう何の話なの……ていうか、章の名前! 勝ち確定なのバレバレじゃん!」
「まあ負けて終わったりはしませんよね普通は」
本当の前回のあらすじ
なんか地球世界に乗り込んで半年ぐらい満喫したジロたち。帰還することが出来たが、自身の母カエデとジロが関係を持ったことに怒ったアカネは再び浮世世界へと戻ってきた。ステラの故郷チェヘマにて女神についての情報を得ることになったが、道中で変な幼女をとっちめたり、ドスケベドエロトラップダンジョンへと行くことになったり、暗殺者に襲われたりと大変な目にあった。母親との確執があったステラであったが、なんかヌルっと解決へと一歩前進、いい感じになる。そして、女神を倒す武器を持つ男エルヴィンを無理矢理召喚し、仲間に加えるのであった。
さて、一行はエルヴィンに事情を説明したり、TSしていた数日の間なぜかジロが毎朝ベッドの上で潰れたカエルのようになっていたり、元の性別に戻った一行にエルヴィンがビビったりと色々あったが、今日はステラの母エミーリアが妙に気を利かせて宴会を開くことになった。なんでも、ジロの故郷である人種の狼人の歌手を呼んだのだという。
「どうもみなさん、私はイシオ・タケイでございます! では私の歌をお聞きください!」
軽快な伴奏と高らかに彼のヨーデルが宴会場に響く。
「ヨーデルかよ!」
本場仕込みのヨーデルは実際素晴らしく、彼がヨーデルマイスターであるのも頷ける。東西の戦争の際に兵士として西方世界を訪れ、ドワーフの兵士と意気投合し、色々あってヨーデル歌手になったのである。
「素晴らしいわ……」
「これほどまで極めるには眠れない夜もあったでしょう……」
ステラの姉妹であるルドミラとゾラは大絶賛し、感動のあまり涙を流していた。その後、イシオはジロとの面会を希望し、一行の食事に同席した。
「その家紋、他ならぬホージョー家のものでございましょう」
イシオはジロの腰に差す鞘に描かれた紋章を指差す。
「……そうだ」
「我が殿!」
そして彼はその場に膝を付き拱手を行う。ジロは困惑した。
「こ、困る、急に」
「いえ、私は元はホージョー家に仕えていた兵士。惨禍に見舞われたということは故郷との手紙で存じております」
この人物は扶桑と手紙のやり取りを続けており、ここ十年に何が起こったのかをよく知っていた。彼の口から扶桑の現状が語られる。
「ドー国の地にて、ならず者をまとめ上げるものがあります。それはタヌマロ・コノエ……」
「コノエだと?」
ドー国とは、我々の世界で言うところの関東地方である。実在の地名と同じなので非常に紛らわしいし、絶対後で後悔する名付けである。ちなみに我々の世界での西日本はこちらではセー国であり、東と西、ドーマンセーマンと掛けている。だからどーだこーだというわけではないが、やっぱり紛らわしいかもしれない。なんでこんな設定にしたんだ。そしてコノエ家とはホージョー家を壊滅させ、その後普通に共倒れになった因縁の相手である。ジロは思わず身を乗り出して聞き入る。
「ええ、そして彼の側に付いたのは指定暴力団徳川組」
「指定暴力団徳川組!?」
これにはアカネが食いつく。
「え、ええ……」
「徳川家、こっちの世界だとヤクザになったんだ……ちなみに織田信長って人とかいる?」
「いませんが……」
「いないんだ……」
いなかった。とにかく、重大な情報である。
「話を続けます。彼らの背後には面妖な輩がいるとか。稀人であるとされています、この半年で急に数を増やしたとか」
「絶対あの女神の仕業ですね!」
ステラは無根拠にそう言い放つ。まぁ、実際そうなのである、彼女は何らかの何かを企んでいる。
「ジロ様、扶桑へとお戻りください。ホージョー家の臣下には生き残りがいますし、帝もあなたの帰還を待っている……」
「そうか……誰か生きている者が……」
感慨深く感じたジロはイシオの勧めに従い扶桑へと戻ることを決意した。一行も、どうせやることもないし……って感じでそれに従うことになる。毎回そんな感じだな。しかしそんな雰囲気についていけていないおじさんが一人いた。
「我輩はどうしてこの旅に……」
エルヴィン・ホッジャその人である。前回から彼は空気に流され続けて宴を満喫していたが、イマイチ事情を把握していなかった。精悍な猛禽類の顔が困り果てている。見かねたアカネが口を開いた。
「その説明をする前に今の世界の状況を理解する必要がある、少し長くなるよ。まずはこの世界、浮世世界っていうんだけど…」
彼女は20分かけて説明したがあまり要領を得なかった。でもエルヴィンは頑張って説明を聞いて、理解しようとした。
「えー、つまり、我輩の剣でその女神を叩き切るのがよい、と」
「有り体に言うとそうだね」
「余計な情報が多すぎます」
「意外と説明が下手だな」
アカネの意外な一面を知る一行であった。すると、エルヴィンは表情を明るくさせる。
「つまり……神聖なる存在をぶった斬ってよいと!?」
「え、ええ、うん」
「……苦節25年、ようやく、ようやくこの時が来た。こんな剣など継承してなんの意味があるのかと思って、神龍やら神獣やらアンデットやらを手当たり次第に襲っていたが、ついに!」
「だいぶヤバい人じゃないですかこの人!」
「いやー女神の血が何色であるか、楽しみだなぁ!」
エルヴィンは結構血の気の多いおじさんであった……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
エルフの里で英気を養った後、一行はヴルタハ国際空港に来ていた。
「ヴルタハ国際空港!? 空港あるんだ!?」
「え、地球には空港ないんですか(笑)」
「未開なんだな(笑)」
「クソが〜〜ステラはあるって知ってるくせに〜〜〜!」
滑走路には荷車を背負った翼竜たちが整列している。翼竜による航空輸送が実用化されているのである。とはいえ一部の金持ち国家だけだが。
「いくつかの航空会社から選ぶようだな。えーっと、ケアレ・スミス航空とピエール・セドリック・ボナン兄弟運送社、それからカミカゼ航空というのが扶桑に向かう便を出しているらしい」
「どれも乗りたくない……!」
協議の結果、比較的マシそうなカミカゼ航空を利用することになった。マシかなぁ。所定の場所に向かうと翼竜の操竜手が挨拶を行う。
「ご利用ありがとうございます。私が今便の操竜手を務めるハンス・ウルリッヒ・ル……失礼、用事を思い出しましたのでまた後ほど」
そう言って彼は途中で何処かへと行ってしまった。
「ど、どっちだ……?」
「どっちにしろ落ちるだろ」
かくして、一行は翼竜に繋がれた荷車に乗り込み、空の旅へと向かうのであった……。
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