79.母と娘
6代目初恋ガールズから逃れたステラとアカネであったが、城塞内で迷子になっていた。
「自分ちでしょ、覚えてないの?」
「私基本部屋から出ないか他所にいましたので……」
ステラにさえ道はわからなくなっており、二人は途方に暮れていた。なにせ、アホみたいに広い。城壁内に宮殿はいくつかあり、複数の聖堂や庭園、そして場内で働く人々の住む集合住宅や離宮だの防御塔だのが乱立し、バカでかい城になっていたのである。しかもよく窓から人が発射される。
「窓外発射、今月で七件目だな」
「族長はその件でフェンミランドに使節を」
「ああ、そうらしい」
衛兵たちの噂話を小耳に挟みつつ、追手が来る様子も無いのでぼちぼち歩きながら城塞内を歩き回っていた。
「とりあえず、あっちの方が私の部屋だったので、そこへ向かいましょう」
ステラの提案に乗り、二人は歩いていく。しばらく進み、庭園に入ったところで、ステラが足を止めた。
「あれは、姉妹です」
「ん?」
彼女が指差す方をアカネが見ると、ステラの姉と妹であるルドミラとゾラがいた。見たところ、彼女たちは茶ぁシバいている。
「そろそろあのボンクラは死んだかしら、お姉様」
「さあね、あの見るからにひょろそうな女に戦闘能力があるのかないのか」
「あの傭兵はかなり有名な連中よ、ちょっとやそっとでは取り逃したりしないはずだわ」
「それもそうね。ステラが死ぬ、もしくは大怪我を負えば、遺産は私達のもの」
めちゃくちゃ喋るやん。ともかくアカネは衝撃を受けた。二人はステラの姉妹であるにも関わらず、ステラを亡き者にしようとしている。歴史の教科書ではよく見た話であったが、こうしていざ目の前で見ると、その衝撃は計り知れない。
「す、ステラ……」
「ん?」
「いや、ん? じゃなくて」
ステラの方に目をやるが、彼女は意外にもケロッとしていた。
「ケロケロ、ケロケーロ」
「ケロッとってそういう意味じゃなくてね」
とはいえ、遺産の件については初耳である。彼女はそのことについては憤りを感じていた。
「私の命を狙うのはともかく、遺産を二人だけでせしめようだなんて……!」
「そこかよ。まあ、その方がステラらしいけど……でも、私は許せない」
アカネは彼女たちの元へと歩み寄った。
「……! あなたは!」
「あの傭兵を差し向けたのはあんたたちかっ!」
そして、彼女は二人に凄む。が、ルドミラは鼻で笑った。
「ふふふ、いけなかったかしら」
「なんだってぇ……!」
「その子が遺産をもらったところで何になる? 全部酒代や賭け事に消えるわ」
「ぐ……」
アカネは言い返せなかった!
「それに、遺産の多くは製造の器械や素材ばかり。ステラに扱えて?」
「ぐ……」
アカネは言い返せなかった!!
「私達姉妹は事業の拡大を目指している。領民たちの面倒を見なければならないし、資産が必要だわ。何も出来ないステラに渡す分はない」
「ぐ……」
アカネは言い返せなかった!!!
「そして、そんな体たらくの身内を養ったり、あまつさえ放置しておくなど、一族の沽券に関わるわ。軟禁するか、始末するしかない。命を預ける武具産業は信用が第一よ」
「ぐ……」
アカネは言い返せなかった!!!!
「やばい、一個も反論できないよ……!」
「じゃあ暴力で解決してください!」
無茶苦茶なことを言う元凶ステラであった。アカネは溜め息を吐いた。
「だとしてもさ、命のやり取りをせずに穏便に解決することは出来ないの?」
「お前たち、母を除け者にしてお茶会か」
そこへ、割って入る者がいた。この三姉妹の産みの親であるエミーリアである。
「お母様」
「昔を思い出す。姉妹三人が揃うなどと……よく帰ってきてくれたステラ」
「お母様、私は……」
エミーリアはステラの頭を撫でた。
「みんなでまた武具を作ろう」
「いえ、私は……私は才能が……」
「そんなことはないといつも言っていた」
諭すように言うエミーリア。彼女には才覚を持たざる人間の気持ちがわからなかった。
「工具と材料さえあれば誰にだって出来る。出来ないのは努力が足りないからであろう。才能などという言葉は逃げだ」
「あっ……」
そう、彼女はこういったものづくりをする人物の中でもあんまり関わり合いになりたくないタイプのエルフであった! ちなみにルドミラとゾラも母親のこの部分は普通に嫌いである。
「わ、私は……」
「大丈夫だ、私が教える。だから……」
「私はそれ好きじゃないんです!」
ステラが叫んだ。そして彼女はエミーリアを突き飛ばす。
「私が、努力をしていなかったと思いますか?」
「思う」
「アカネさんは黙っててください! 子供の頃から殆ど顔も見せてくれなかったのに、一体何を学べと言うんですか。私を育てたのは殆どリブシェじゃないですか!」
「え……」
エミーリアはなにも言えなくなった。確かに彼女はステラに愛を注ぐ時間は無かった。
「でもそれは、戦争が……」
「そんなの子供には関係ありませんけど! それを大きくなってからいきなり武具を作れだなんて、最初は頑張りましたけどね、出来ないものは出来ないんですよ! 貴方たちと違って! 私は出来もしない武具製作なんてやる気はありません! 遺産は貰いますけど」
「遺産はもらう気なのかよ」
アカネのツッコミは無視された。エミーリアはしばしの間、沈黙していた。その表情はどこか悲しげである。
「……ずっと、すまなかった」
「今更謝ってももう遅いですよ、私はもう、こんな性格ですから」
二人は口を噤み静寂が訪れたが、それはルドミラの大きなため息によって破られた。
「はぁ〜〜〜…………話は終わり? どちらにせよ、そのボンクラを放っておくわけにはいかないわ」
「ボンクラ? 何を言っているルドミラ」
「お母様、実は私達姉妹は仲が悪いのよ」
「そ、そうだったのか……!」
エミーリアは驚愕した。こいつもまあまあボンクラなのかも知れない。実際次女の教育は失敗している。
「ボンクラな母と笑いなさい……!」
「落ち込み方鬱陶し! ともかくステラ。あなたの自由は認めない、シュコダ家のブランドに傷がつくからね……」
「いやハイエルフ諸部族の裏切り者のチェヘマ族に傷つくブランドなんか元からありませんよ!」
「なんですってぇ……!」
ルドミラが激昂し、一触即発の雰囲気になる。さぁ、戦いなのか!?
「ちょ、ちょっと待ってってば! 別に殺したり軟禁したりしなくてもさ、ステラがシュコダの姓を捨てるとか、あるでしょ!」
アカネが仲裁に入った。結構怖いのを覚悟の上で、会話に割り込んだのである。ルドミラとゾラはなかなか良い提案だと思った、だが。
「嫌だ、ステラが家族じゃなくなるなんて」
それはエミーリアによって拒否されてしまった。
「えっと、フーテンやってるのが良くないんでしょ? 別にステラは存在が恥ずかしいけど、恥ずかしいことをやって回っているわけではないよ! あんまり!」
「全くフォローになっていませんが」
実際のところ、冒険者はあまり外聞のいい職業ではない。武力を持った住所不定無職だからである。ギルド管理下であればいざ知らず、多くが山賊ならず者一歩手前の存在であると認識されている。もちろん、地域に恩恵をもたらすのであれば掌は翻されるだろうが。
「ではどうしろと? そのバカボンクラ風来坊バカが我が家名を汚すのを待っていなくてはならないの?」
「バカって言いましたよ! 二回も!」
「まだ汚してはないじゃん!」
「まだって言いましたね!?」
アカネは必死に説得する。が、ルドミラとゾラは納得しそうもない。ステラは意を決して叫ぶ。
「私は、私は名を挙げてシュコダ家の栄光を世界に轟かせます! それなら文句ないでしょう!?」
彼女が非現実的なことを叫んだので一旦、一同はスルーした。
「私は、私は名を挙げてシュコダ家の栄光を世界に轟かせます! それなら文句ないでしょう!?」
「うわっ、同じ言葉を同じイントネーションで!」
しかしながら、ルドミラはそれを鼻で笑った。
「ほう、どうやって名を挙げるのかしら。何も出来ないあなたに」
「私は何も出来ません、しかし、アカネさんやジロさん、ナムヒさんは、何かを成す大人物です……!」
「人任せじゃないの!」
「私はその、マスコットみたいなものです!」
「こいつ〜〜〜〜!」
とはいえ、彼女が皆の役に立っている時もあるのは事実である。実際エルフとの取引が出来るのは彼女のおかげだし、マジヤベー薬とか作ったこともあるし、錬金術の知識は本物である。
「そう、出来るのね?」
「はい、出来ます!」
自信満々で言うステラ。ルドミラは溜め息を吐いた。
「なら……始末するのは待ってあげてもいいわ」
「当然です」
「ホッ、よかった。よかった? まあいいか」
アカネは安堵した。もしルドミラとゾラが強行に及べば、ステラを守る為に戦いになっていたかも知れない。尤も、戦ったとしても負けはしないだろうが。
「でもですね、和解したというわけではありませんからね。実際家名なんてどうでもいいですし」
「なんですってぇ……!」
「またそういうこと言う」
とにかく、一旦は場は落ち着いた。これからのことについては今後また話し合うとして、とりあえずは矛を収める事となる。いつものことながらヌルっと解決してしまった。エミーリアはステラに愛情が伝わっていなかったことがかなりショックだったようで、その日は寝込んでしまったという。
「あいや待たれい! 6代目初恋ガールズ見参!」
「あなたたちもう帰っていいわよ」
「え、そうなの? そりゃ、残念……」
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