78.逆サキュバス
ジロとナムヒはドチャクソドエロトラップダンジョン最奥部、ドーム状の広い空間に到達していた。そこに待っていたのは一人の女性魔族、サキュバス、いや、逆サキュバスであった。
「私は逆サキュバス」
「"逆"サキュバスぅ〜? どう逆なんだよ?」
ナムヒが悪態をついた。すると、その様子を逆サキュバスは鼻で笑った。
「私はサキュバスの逆、人の精は私にとって有害なのだ」
そして、彼女は拳を握り、戦う姿勢を見せた。いかにもサキュバス然とした格好に似つかわしくない武闘家の構えであった。
「即ち、それ以外の物はこの私には一切通用しない」
「その理屈おかしくねー!?」
おかしいもおかしくないもそういうものなのである。彼女はジロの腰の刀を指差して言う。
「試してみるか、その刀で」
「俺のは野太刀だ」
「いやそっちじゃなくて」
「……」
ジロは黙って刀を抜く。あ、ちゃんとした武器の方ね。それを見た逆サキュバスは地面を蹴り突っ込んできた。
「チンポッ!」
「変な掛け声でサキュバス感を出そうとするなっ」
即座にツッコミを入れてから、ジロは刀を振る。逆サキュバスはその額でその刀を受け止めた。その肌には傷一つ付いていない。
「効かないねぇ、逆サキュバスだから」
「……!」
ジロは逆サキュバスの腹部に蹴りを入れるが、びくともしない。その隙に、ナムヒが飛び彼女の後頭部に魔力を込めた飛び蹴りをかました。しかし。
「なっ……」
「逆サキュバスには効かないと言ったろう」
ナムヒの飛び蹴りも効果なしだった。二人は彼女から距離を取る。
「……やむを得ないか」
「マジでやんのか?」
その言葉に頷くと、ジロは自らの装備を外し、服をすべて脱ぎ捨てた。
「あ……♡」
「その意気や良し」
ナムヒが雌の顔になり、逆サキュバスが拍手をする。そしてジロはその野太刀を握り締め、逆サキュバスと向き合い戦いの体勢を整えた。
「カッコいい……♡」
その姿に見惚れるナムヒ。変わった感性を持っていた。カッコいいわけねえだろ! 多分痘痕も靨のLv50とかそんな感じ。
「よし、あたしにも手伝わせてくれ♡ ……っ!」
彼女が自身の服に手を掛けようとした途端、素早い鞭のような攻撃が彼女を襲う。すかさず真上に跳躍することで難を逃れた。
「乳首ねぶりドラゴンちゃんもいま〜す!」
攻撃の主がどこからともなく現れ、名乗りを上げた。そう、乳首ねぶりドラゴンである! ドチャクソドエロトラップダンジョンなどというお誂え向きの場所に、この厄介な上級変態ドラゴンがいないはずがないのである!
「ちびっこの乳首、だ〜い好き!」
「あたしの乳首はお兄の先約だし、お兄の乳首も渡さねえぜ」
会話がなんか碌でもないが、本人らは至って大真面目であった。さぁ、2対2の戦いだぁ!
逆サキュバスの猛烈なアタック! 彼女はステゴロで戦うスタイルであり、素早い動きでジロに拳を繰り出す。
「アナルっ! オップァイっ! ボッキぃー!」
そしてどう考えてもサキュバスというよりは下ネタ覚えたての小学生のような掛け声にジロは翻弄された。
「くっ……」
ジロは逆サキュバスの攻撃を躱していく。ブラブラさせてなければかっこいいのだが、ジロは全裸で戦うことに慣れていなかった。慣れてるやついるのか。更に、隙を見つけてはその大剣を研がねばならず、そしてタイミングよく発射せねば、有効打にはなり得ない。ジロには勝機が見えず、苦戦していた。正気の沙汰とも思えないし。
「お兄っ!」
「あんたのお相手は私でしょー!?」
ナムヒがジロの方を向いて叫ぶが、その隙を見て乳首ねぶりドラゴンの素早い舌がナムヒを襲う。
「チィッ! そうだ、確かアカネに貰った薬があったな」
彼女は自身の荷物を漁る。そして、目当ての薬、キニーネを見つけると、服の下に手を入れて自身の胸に塗った。結構前に犬獣人の一家に貰ったものである。これを乳首に塗ると、乳首ねぶりドラゴンは物凄く嫌がるのである。
「ん? この臭い……樹皮の臭い……まさか、キニーネ塗っちゃったの!?」
「よくわかったな、臭いなんて全然しねーぞ」
キニーネのついた指に臭いを嗅ぐナムヒであったが、乳首ねぶりドラゴンは異様な反応を見せる。
「それ塗ったらもう乳首ねぶれないじゃん!!! 殺す殺す殺す!!!」
「ひっ」
温厚な性格の乳首ねぶりドラゴンであればいざ知らず、この個体は苛烈な気性を有していた。ナムヒは少し怯え、後退りする。
「死んじゃえ!!」
「! しまっ……」
乳首ねぶりドラゴンの舌がナムヒに襲いかかる。そして、それは怯んで隙を見せた彼女を捉えたかに見えた。しかし。
「……あっ、お兄っ!?」
ジロがすんでの所でナムヒを抱きかかえて、その攻撃から彼女を救った。
「トゥンク……♡」
「口で言うな。それより、お前にはあんなの一捻りだと思ったが、勘違いだったか」
「あぁ? そんなわけねーじゃん、ちょっと、びっくりしただけだし」
「ならよかった」
ジロはナムヒを地面に降ろすと、再び逆サキュバスに向き合った。
「人の心配をしている場合か?」
「お前相手に仲間を守り切るのはそう難しくはなさそうだ」
「言ってくれる……!」
逆サキュバスがジロに飛びかかる。そして、二人の拳が激しくぶつかり合った。
「ぐっ……」
「私の身体に物理的な攻撃は無力、一方的にお前だけに攻撃させてもらおう」
「……ぅっ」
「何ッ!?」
拳がぶつかった瞬間、既にジロの準備は整っていた。一射目が発射され、白い弾丸が逆サキュバスの腹部へと飛ぶ。
「スカトロっ!」
しかし逆サキュバスは咄嗟に距離を取り、その弾丸を躱した。
「お前、早いな」
「ああ、しかも絶倫だ」
まだジロのその剣は衰えておらず、輝きを増してさえいた。輝くな。逆サキュバスも次の一手を打とうと、構え直す。
「ここに来るまでにトラップにいくつ引っ掛かったのかは知らないが、いずれにせよ精神的、肉体的疲労はある。持久戦は私が有利だ」
「だとしても、勝たねばならん理由がある」
睨み合いを続けている今も、ジロは刃を研ぎ続けている。流石の彼でも連続では厳しいものがあった。
一方、ナムヒも乳首ねぶりドラゴンの猛攻に防戦一方であった。
「"氷の刃よ! 我が敵を追い詰め給え!"」
このドラゴンの使う魔法はイスタンティノープル式の術式であり、魔力そのものや魔力によって作られた構成物を擬人化し、命令を下すものである。いつもアカネなんかが使っているオクサンフォルダ式のように呪文に応じ決まった魔法が出力される訳ではなく、ある程度融通がいい感じに利く。無論その分、魔力とイメージ力が施術者に求められる。才覚を持つ者が完全に習得すると神にも等しい力を得ることが出来るが、大抵の人間は到達する前にその生を終える、長命種であっても。呪文を唱えると、彼女の周囲から氷の刃が無数に生まれてナムヒを襲った。
「うおっ」
ナムヒはその魔法を避けつつ、少し後退する。
「"我が敵に災いをもたらし給え! 我が敵を退け給え!"」
追加の詠唱を行うことにより、氷の刃はナムヒを追尾する。鋭い刃は蹴り技が主体のナムヒには少々分が悪かった。ナムヒは飛んできた氷の刃をなんとか躱すが、すぐに次の刃が襲ってくる。
「めんどくせえ魔法だな」
「ちょこまかと素早いやつ!」
「あんたがトロいのさ」
ナムヒは余裕の表情で鼻をフンスと鳴らす。左右から飛んでくる氷の刃を躱し、時折叩きつけられるドラゴンの爪や長い舌の鞭も器用に避けて、着実に近づいていく。そして、ナムヒは逆サキュバスの懐に潜り込んだ。
「あっ!」
「"テコンドー波"ぁーーっ!!!」
両手をドラゴンの腹部にかざしナムヒが叫ぶと、その手からテコンドー波が放出され、乳首ねぶりドラゴンを持ち上げた。
「うごぉっ!!」
ダンジョンの天井に巨体が叩きつけられ、瓦礫と共に地面に落下した。
「ぐぎぎ、ドチビのクソ人間の劣等種の分際で……!!」
「底が見えたな、変態クソドラゴン」
ドラゴンの頭上には、仁王立ちで不敵に笑うナムヒがいた。そして足を大きく上げると、その先に魔力を集中させる。
「"光鎚"!」
魔力で光り威力を増した踵落としが、乳首ねぶりドラゴンの脳天に直撃する。
「あっぐぅっ……!」
その光景を横目で見た逆サキュバスは感心した様子であった。
「ほう、あのドラゴンを倒すとはな」
「真っ当に修行を修了したんだ、弱いはずがない」
ジロは得意げにそう言った。
「だが、その苦労も私の前では無意味だな」
逆サキュバスが構えを取る。ジロもそれに応えるようにして、野太刀を構えた。
「とっとと終わらせてやる」
二人はじっとお互いを睨み合った。しかしながら、ジロはまだ次の準備が出来ておらず、内心焦りを感じていた。そして沈黙をやぶったのは逆サキュバスであった。
「アナルっ!」
掛け声とともに地面を蹴り凄まじい速度でジロに詰め寄る。
「っ!」
見切ってはいる、しかし攻撃は通用しない、だがまだ繰り出すことは出来ず最後の一押しが必要であった。ジロは鋭いパンチを繰り出してきた彼女の腕を掴んだ。
「おっと」
彼女はそれを振り払おうとするが、渾身の力を込めたジロは容易に彼女の腕を離さなかった。
「"身体強化の呪"」
そしてすかさず、呪術を唱えた。久々に使ったが、決して設定を忘れていたわけではない。かすり傷から流れる血が魔力となり彼の体に力がみなぎる、そしてその肉体は更に強靭となった。野太刀もデカくなった。なんでだよ。逆サキュバスは腕を必死に振り払おうとするが、びくともしない。その間も、ジロはその刃を磨き続けていた。
「ぐおお、まさかそのままやるつもりか!」
「ああ」
「させるかっ」
彼女の膝蹴りがジロのその野太刀の根本からぶら下がるモノに直撃する。しかし、その瞬間、いやむしろ、それが引き金となり、弾丸が発射された!
「なにぃっ」
一発目よりも多く発射されたそれは逆サキュバスの腹部に当たり、彼女の体を蝕み始める。
「ぐ、おぉおぉおおぉおぉぉ!!」
「ふぅ……俺はマゾでもある」
「お兄、カッコよ過ぎる♡♡♡」
ナムヒはなんかポワワ〜ンってなって、目がハートになっていた。いやカッコよくはないだろ!
応援、ありがとー!
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