74.犯罪者をしばこう
「なるほど、女神ですか」
リブシェと一同は客間に集い茶菓子をつまみながら、これまでの経緯や女神について語り合っていた。テーブルには各地から取り寄せられたドライフルーツや、ペイストリー生地を串に巻いて直火で焼いたトルデルニーク、そして小さな生地にジャムやマーマレードを包んで焼き上げたコラーチェが美しく並べられている。部屋の隅ではビザンチスタン人と思われる猫獣人の爆乳女シェフが新型の魔石式焜炉によって熱せられた灰にカップを沈め、香り高い濃厚なコーヒーを丁寧に淹れていた。その傍らのテーブルには瓶詰めの色とりどりの飴や、串に巻かれて艶やかに輝くオスマン飴が皿に盛られ、甘い砂糖の香りを放っている。とにかくめちゃくちゃ豪勢であった。ところが、ジロの前にはおにぎりが一つ置かれているだけであり、ジロはそれを手に取りジロジロと眺めていた。ジロだけに。
「噂には聞きました。何やら怪しい動きを見せていると」
「今は鳴りを潜めてるけど、こっちの世界の秩序を乱すのはやっぱり問題だよね!?」
「それに、そいつの眷属のカスの稀人にお兄を一度殺されてるからな。あたしもそいつのぶっ殺してやらないと気が済まない」
アカネの言葉に同調し、苛立ちを隠さないナムヒ。それはそうと、アカネには気になることがあった。
「あの、ステラのことなんだけど、親と何かあったの?」
「まあ、色々と。エミーリアは子育てが上手ではなかった、ただそれだけです」
「んー……なるほど……?」
「まあそういうことってのはあるよな」
アカネとナムヒは、複雑そうな表情をしつつも、納得した様子を見せた。ステラはというと口をへの字にして黙っていた。一方でジロはおにぎりを食べ終えると豪勢なお菓子を物欲しそうに眺めている。そしてそれに手を伸ばそうとするとエルフの巨乳メイドに手を引っ叩かれる。
「めっ!」
「クゥ〜ン……」
彼は悲しげな声をあげるも彼女に顔を睨みつけられてしまった。
「何してんだあいつ……」
ナムヒが呆れ顔で呟く。アカネが何か言いたげな表情をリブシェの方を見ると、彼女は首を振って言った。
「……私の指揮する軍勢が扶桑人部隊に蹴散らされたぐらいで特に恨みなんてありませんがね」
「まあまあ私怨寄りじゃない……?」
リブシェは苦笑いした。しかしすぐに表情を戻すと、一行に向き直る。
「女神について調べてみましょう。心当たりがあります。この周辺にも伝承が残っていますし」
「本当に?」
「ええ。もちろん、その代わりと言ってはなんですが……犯罪者を始末して欲しいのです」
「ほう」
好戦的なのかナムヒは前のめり気味になって聞き始めた。尻尾が揺れている。
「戦うのが好きなの?」
「いや、戦うのはそうでもない。勝つのが好きなんだ、当たり前だろ?」
「それは味方側から出ていいセリフではないよ!?」
どっかで聞いたことがあるようなことを得意げに言うナムヒ。
「で、どんなやつだそいつは?」
「その者は卑劣な悪党です、衛兵隊は幼女強姦魔と呼んでいます」
「幼女強姦魔!」
直球かつ悍ましい名前であった! もうちょっと濁せとは言いたくなるが、それほど衛兵たちも手に焼いているということだろう。知らんけど。
「素早く、なおかつ強力な武器を持っています。どうやら北方から来たと思われますので、見ればすぐわかるはずです。夜中を安全にするために篝火を増やしましたが、被害は増すばかり」
「許してはおけないよ! 別に報酬がなくたってそういうことならお手伝いするよ!」
「悪党はいいね、痛めつけても良心が傷まない」
俄然やる気になる二人であったが、ステラはやはり黙っていた。お菓子はめっちゃ食べていた、出席者の中で一番食べていたので元気がないわけではない。ずっと、ぼんやりと考え事をしているようであった。そうして食事会は終わり、片付けようとする使用人たちを眺めながらジロがクンクン鳴くので、ようやく彼はお菓子にありつけたのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
夜になり街を散策する。幼女強姦魔を探すためだ。
「ステラが囮になればいい」
「なんてこと言うんですか! 私が襲われてもいいと!?」
「いい」
ナムヒの提案にステラは声を荒げて怒った。それを聞いたアカネは意外にも賛同する。
「それ、意外と悪くない考えだと思うよ! 引きずり出せたならこっちのもんだし! それじゃあ、二手に分かれよう!」
「あん?」
その提案にナムヒが首を傾げる。
「なんで二手に分かれるんだ?」
「え、だって、ナムヒちゃんも……その、ステラとそう変わらないし」
「お前、あたしがガキみたいだって言いたいのか?」
「ん~~~~~、まあ、そう、有り体に言えば……」
アカネの言葉にナムヒは青筋を浮かべた。そしてアカネに掴みかかろうとするが、彼女の胸が目に入ると手を下ろした。
「見ての通りあたしはただのお子様だよ……」
「なんか急に自信を無くした!?」
しょげ返った様子で言うナムヒに、アカネは面食らった。とにかく、ステラとアカネ、ジロとナムヒの二手に分かれて捜索することになった。囮が前を歩き、その後をもう一人が追うという単純なものであったが、犯人はこの釣り針に食らいついた。ジロが前を行くナムヒを後ろから見張っていた時、闇の中から声が響いた。
「なにか気になることがあるのかねぇ?」
「っ! ナムヒっ!」
「んっ?」
声の主の標的はジロであった。柄の短い鎚を月明かりによって象られた彼の影に向かって振り下ろすと、地面と共にその影が砕け散った。すると、ジロは一歩も動くことが出来なくなってしまう。
「ふふふ、屈強な獣人とは! エルフの男共は軟弱揃いだったからねぇ、濡れてきたよ……」
「おい、お前何やってる!」
その二人の元へナムヒが駆け寄る。
「おや、仲間がいたとはねぇ。囮だったってわけかい」
「いや囮はあたし……まあいい、どっちにしろお前はならず者だろ?」
「そうだねぇ、私が世に聞こえる"幼女強姦魔"、と言っていいだろうねぇ」
自らをそう名乗ったのは如何にもバイキング然とした兎耳の生えた小さな半獣人の少女であった。でも喋り方は全然らしくない! 納得いかない! 手には柄の短い赤く焼けた鉄槌を持っている。
「なるほど、幼女を強姦魔じゃなくて、幼女が強姦魔、だったのか」
「そういうことになるねぇ」
嫌な叙述トリックも明らかになったところで、さぁ、戦いだぁ!
「言っておくけど、テコンドーは素早いぜ。"縮地"」
縮地法とは東アジアに古来より伝わる瞬間移動術[要出典]であり、もちろんテコンドーもそれを取り入れている[要出典]。そして光の魔力を使うテコンドーにおける縮地は光速にも近い速度になると言われている[誰によって?]。
「光の速さで踵落としをされたことはあるか?」
どこかで聞いたことのあるような決め台詞と共に、ナムヒの光り輝く足が幼女強姦魔に振り下ろされる。しかし、彼女はすでに防御姿勢を取っていた! 踵落としは鉄槌に弾かれ、ナムヒはバランスを崩す。
「んっ」
慌てて後ろに飛び退き距離を取る。
「あの速さを防ぐとは……」
「私も驚いているねぇ。やはりこの聖遺物ミョルニールはすごいねぇ」
彼女が手に持つのは聖遺物『神の戦鎚ミョルニール』であった。これはかつてドワーフの名工が打った鎚であるとされ、強力な魔力を帯びている。様々な性質を持ち、色々と痒いところに手が届く便利なものであり、持つ者によりその大きさを変えるとも言われている。なお、柄が短いのは予算不足のためである。
「そんなものどこで手に入れたんだ」
「なんか小屋で拾ったねぇ」
「そっかぁ」
幼女強姦魔はミョルニールを振りかざし襲いかかる。戦闘慣れしているようで、素早い動きでナムヒに肉薄する。ナムヒは攻撃を躱しつつ、反撃の機会を伺う。
(攻撃自体はすっとろいが、あれに当たるとどうなるかがわからん)
彼女は再び後ろに飛び、距離を置いた。
「短いから、当たらなきゃどうとでもなるな」
「そうかねぇ」
幼女強姦魔は大きく振りかぶり、ミョルニールをナムヒに投げつけた。当然、そんなことも想定していた為横っ跳びに躱すが、ミョルニールは彼女を追尾するように襲ってくる。
「んっ! "光壁"!」
彼女は慌てた様子で光の盾を出現させ、ミョルニールの攻撃を防いだ。ミョルニールは光の壁に弾かれるも、地面に落ちることはなく持ち主の手に戻っていく。
「くく、これがミョルニールの能力さ。防がれるとは思わなかったがねぇ。便利だと思わないかい?」
「確かにな……」
「さて、そろそろ、私もそこのいい男と楽しみたいので、終わらせてもらいたいがねぇ」
「お兄に何をした?」
「影を砕いた。そうすることで、動けなくする力がミョルニールにはあるのさ」
「影を砕く? そんなことが……」
「できるのだよ。この聖遺物ミョルニールにはね。さぁ、その光の壁はいつまで持つかねぇ」
「持たせる必要はない」
ナムヒは無数の光弾を放ち、幼女強姦魔を牽制する。しかし軽々と鉄槌を振り光弾を打ち落としていく。
「その程度かい?」
「ああ」
軽い返事をしながらも、縮地によって接近する。すぐさま、幼女強姦魔は鉄槌を振りかざすが、ナムヒは再び縮地により姿を消した。そして彼女の側面に回ると、ミョルニールを持つ手を狙い、蹴りを放つ。
「あいたっ!」
幼女強姦魔はナムヒの蹴りを受けミョルニールを落してしまった。
「まあ、所詮はごろつきだったな、宝の持ち腐れだ」
ナムヒは幼女強姦魔が落としたミョルニールを拾い、その柄を踏みつけながらそう言い放った。
「ぐうぅ……か、返してくれ! それがないと私は……」
幼女強姦魔は懇願したが、彼女はその柄を踏みつけたままだ。
「やだね。没収。まずはお兄がどうやったら戻るか教えろ」
「うぐぐ……影が完全に消える状態、箱の中とかに一度入れてしまえばいい。そうすれば元に戻る」
「ん」
それを聞いたナムヒはキョロキョロと辺りを見渡す。そして適当な木箱を見つけるとそれをこじ開け、中身を放り出し始めた。
「ゴミ箱だったけどこれでいいか」
「いいのかい、お兄さんじゃなかったのかねぇ」
「兄妹じゃあないんだなぁこれが」
箱が空になると、固まったまま倒れているジロを持ち上げる。
「お前も手伝えよ」
「あ、ああ……しかし、見るからにいい男だねぇ」
「だろ?」
「興奮してきた、ちんちんをしゃぶっても?」
「駄目だろ」
二人で抱えてジロを箱に入れようとしているところに、アカネとステラの二人がやってきた。
「え、な、死体遺棄!?」
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