73.お城に泊まろう
チェヘマ族領。ステラの故郷であり、エルフの住む地域である。エルフの領国にしては他文化との交流は多い。しかしそれは彼らが寛容であるということを意味するわけではない。南に隣接する連中と仲が悪いので仕方なく下等で醜い他種族と交易している……ということらしい。サモラヴァ族の歴史的領地である部分に東西戦争終戦のドサクサで進駐し、そのまま実効支配しているのも本当に駄目だと思う。そういうわけで結局、隣接する全ての領国と仲が悪い。ちょっと離れたマジャーリー族や確執なんかをあんまり気にしないタイプの北方の兎獣人の国フェンミランドや北東のオークの国ホルムガルド・ハン国などとは友好関係にある。いわば典型的な遠交近攻や円輪理論のような状況であった。チェヘマ族領に入れば今度は西へと進み、首都であるヴルタハに向かう。現在地は領地の東部の町ブルニッツに来ていた。
「……なんというか、エルフの町とは思えない」
アカネがそう呟くのも無理はない。緑が全く見えず建物が立ち並び、しかもその多くは工房である。道行く人々はエルフが多いが、半分は東方人類種や獣人、半獣人、蜥蜴人などの東洋人種のように見える。
「目や耳をよく見てください、あれ全部ハーフエルフですよ」
「そうなの? ジロさんわかる?」
「わ、わかるし……なあナムヒ」
「そ、そうだな、まあ当然だろ、うん。だが個人情報を詮索するのは良くないぜ」
絶対わかってなさそうな感じであった。ステラの言う通り、この町に住む純エルフを除いた住民はその殆どがハーフエルフである。
「おいそこの。さすらう者よ、止まりなさい」
エルフの衛兵が馬車を止めるよう呼びかける。ジロは手綱を締め馬を止めた。
「お前たち東洋人だろう? そっちの犬どもは黙ってりゃバレないが、あんたは耳を隠したほうがいい」
彼女はアカネを指差してそう言った。そして懐から耳当てのような装飾品を取り出すと、放り投げる。
「ほら、これやるから」
「えっと、どうもありがとうございます」
アカネは困惑しつつもそれを受け取り感謝の言葉を述べた。
「町ん中でトラブル起こされたら困るのは我々だからな。そっちの二人もバレないように気をつけろ」
「ん」
ナムヒが答えると、彼女は追い払うような身振りをして発車を促した。ジロは黙って従い馬を歩かせ始める。
「えっと、東洋人嫌われてるのかな、どうして?」
「わからん。俺が昨日『エルフのエはエグすぎ魔人のエ』と触れ回ったからかもしれない」
「その行動の方が理解不能なんだけど!?」
「それともあたしが排水溝に草や泥を詰め込みまくったせいかな」
「なんでそんなことするの!?」
嘘か本当かわからないジロとナムヒの奇行集を聞きながら、一行は宿へと向かう。ステラはこの町に来たことがあるようで、そんな彼女のおすすめの宿である。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
宿は宿っていうか城であった。町を見下ろす丘の上に鎮座しており、重武装の衛兵が見張りをしている。彼女らはステラの顔を見ると驚きの表情を浮かべ、一行を通してくれた。
「でか……」
いつも飄々とした態度のナムヒもこの時ばかりは目を丸くしていた。キョロキョロしながら城に入ると、城主らしき服装のエルフの女性が出迎えてくれた。
「ようこそお越しになりました、部族長の娘ステラ・シュコダ様とその御一行様。しかしステラ様……死んだはずでは!?」
「死んだと思われてたんですか!?」
「はい、こんな生活力のないカスが生き延びるとも思えず……」
「酷い言われよう!」
彼女とステラは旧知の仲であるようで、和気藹々といった様子であった。そうかなぁ。一方で、衛兵たちの目線は物々しいもので、特にジロに向けられていた。
「お兄」
「ああ……お前たち、毛皮に触りたいなら別に構わんぞ」
「そういうことじゃないと思うんだけど」
衛兵たちは厳しい警戒の目を向けながらも、モフモフと彼の腕の毛皮を触り始めた。
「触りはするんかい」
警戒されるのは無理もない。東西戦争はほんの数十年前である。エルフの時間感覚にしてみればかなり最近の出来事だ。昨日の敵が今日の友と簡単に割り切れるものでもない。ましてやステラと共にいたとはいえ素性のわからぬ冒険者である。
「そちらの方々は……ステラ様の奴隷主?」
「奴隷落ちしたこと前提みたいな言い方! 違いますよ! 私の子分たちです」
「子分でもねーぞ」
ボソッと反論するナムヒを尻目にステラは彼女に仲間たちの紹介をした。すると、彼女も彼らに自己紹介する。
「申し遅れました。私は族長の友人であり、この地ブルニッツの領主に封じられているリブシェ・プシェミスルという者です」
恭しく礼をするリブシェ。ステラとは古くからの知り合いであり、よく彼女はリブシェの元へと遊びに来ていたのだという。
「終戦のゴタゴタでクソ忙しい時期に、この子はよく遊びに来ていましたよ」
「あ、そうだったんですね……」
「そちらの二人は東洋人でしょう? 定命の者たちは数十年も経てばあの戦争のことなど忘れてしまう。特に平原エルフのフルノイは、長寿という祝福を呪いだと考え、克服してしまった。そもそも…」
長ったらしい御高説が始まり、一同はあ、こういうタイプか、と身構えることになる。
「政治的な話をしているところ悪いが、俺達はその頃はまだ生まれていない」
「そもそもお前たちチェヘマ族は戦闘には参加していないだろ」
「ぐ……ちょっとは戦ったし……最初だけだけど……!」
が、論戦はクソ雑魚であった。ジロとナムヒのちょっとした指摘に言葉が詰まってしまう。
「チッ。まあ、ステラ様のご友人であれば、歓迎しましょう」
そうして一行は部屋に案内された。
ところで東西戦争について軽く説明しよう。長くなるぞ。まず、フルノイ族について。彼らはエルフの一種である。ハイエルフと同様に肌が白く耳が尖っているが細目の傾向にある。最大の特徴は寿命が他の種族とさほど変わらない点であろう。彼らは遊牧民としての機動力とエルフの身体能力を併せ持つ存在である。当然大陸、特に北部の大平原を暴れ回った。そして数十年前、東方世界において伝国璽、あるいは金印と呼ばれる魔力を帯びたすげーハンコをついに奪取し、東方世界の支配権を得た。この判を押した命令書には誰も逆らえない、といった効力を持つ聖遺物、つまり凄まじいマジックアイテムである。そしてフルノイ族の指導者であったアッティラ・ハンは天下布武を布告、華人の七国、半獣人の国朝麗、狼人の国扶桑、蜥蜴人の国々琴越、ラーチャ・アーナジャク、チャムパージャなどの東方世界の国々を従属国として従え、西方世界への侵略に乗り出したのである。道中の遊牧民族を尽く屈服させ、東部オーク諸族を容易く粉砕すると、西方世界の中心地へと足を踏み入れようとする。対抗すべく西方世界諸国の連合軍が集結し、激しい戦いが数年間続いた。両軍への物資の融通をチェヘマ族のエルフたちが行っており、その結果彼らは戦火を免れた。時間は当然ホームグラウンドである西軍に味方した。次第に東軍は士気の低下や脱走兵に悩まされることになる。南方の乾燥地帯においてビザンチスタン帝国などとも交戦しており、戦域が広がりすぎていた。そもそもの大義もなければ無理矢理戦わされている状態であった東軍の従属国兵たちは脱走やサボタージュを頻繁に行った。そして最後の戦いであるシビドニアの戦いにおいて東軍は大勝を収めたが、かねてより発令され続けてきた占領地住民への略奪と都市破壊の命令を窘めた将校が虐待の末殺害される事件が発生、これに激怒した従属国兵が反乱を起こし、本隊は東方に向け撤退した。数日後に伝国璽が何者かによって奪われたという報告が本国より入り、東軍は全戦域で撤退することになり、東西戦争は終結したのである。多くの被害を出すとともに、東西の技術や文化が相互に共有され現代の国際社会が築き上げられる契機となった出来事でもある。
「最近こういう設定の羅列ばっかだよな」
「シッ、よしなよ」
どうでもいい設定
フルノイ族
エルフの一種だが、寿命が短く百年ほどである。ハイエルフと殆ど似たような容貌だが細目な傾向にある。
エルフの傲慢さ、獣人の闘争心、人類の残虐性を併せ持つと言われているが、もちろん個人レベルだと別に普通の人々である。
かつての最盛期、アッティラ・ハン統治期には聖遺物である伝国璽を奪取し、東方世界全域を支配した。
しかしながら大規模な動員や従属国や占領国の高貴な生まれの子女を差し出させ性的奉仕をさせる浣衣院の建設などにより従属国の反発を受ける。
従属国らの結託により伝国璽は奪取され、各地で反乱が起こり帝国は崩壊した。
伝国璽の行方は不明。破壊されたという噂である。
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