68.アカネ、帰宅
前章のあらすじ
「なんだこのおっさん!?!?!?!?!?!?」
とある社畜OLは読んでいる大人気異世界転生モノ作品『本の虫の成り上がり』のヒーロー役が幼馴染の少年ハンス・ウルリッヒ君からなんか変なおっさんポルシェ氏にいつの間にか変わったことで憤死、異世界へと転生してしまう。彼女は悪役令嬢へと転生したのだが、既に追放イベントは終わり、辺境の地を一人で彷徨っている状態であった。現地の獣人の部族に匿われ、部族長の一人息子であり、心優しきバチクソにクッソ可愛い獅子のケモショタ、ハミルカルに妻として娶られてしまう。そんな日々を満更でもなく過ごし、二人目の子供がお腹にいる頃、この世界の闇を知ってしまった彼女は奮起、部族をまとめ上げ、近代化への道を進むことにした。『母は強し』そして『悪』とは元来強さを意味する、即ち悪役令嬢、彼女の名はヴィクトリア!
本当の前章のあらすじ
なんかダラダラしていた一行に遺棄された山城を山賊が根城にしているという話が舞い込んできた。あからさまに嘘であったが、特にやることもない一行はまんまと罠に引っかかることにした。山城ベロベロチュー城にはヨカゲ・キラを名乗る稀人たちが待ち構えていたが、なんやかんやあってヨカゲの取り巻きを撃破する。ヨカゲの祝福によりジロは命を落としてしまうがすぐ復活した。事態を察知し現れた謎のエルフにより場は制圧された感じになり、ヨカゲたちは斃れ、エルフの持ち込んだクソデカ魔石によりアカネは地球世界へと帰る事が出来たのである。
自分を日本の首都だと思い込んでいる精神異常都市(実際には日本の首都はこれまでもこれからも永久に京都である、みんな知っているね?)東京。その地域の某マンションの一室では、女性が一人で暮らしていた。
「急に思想が強い……」
風呂の湯が沸くのを待ちながら、彼女はリビングのソファに座り、宙空を見つめてぼんやりと独り言を呟いていた。名前を中山 楓といった。彼女には一人娘がいたが、一年ほど前、高校の社会科見学のバスと共に行方知れずとなっていた。
『お風呂が沸きました』
機械音声の報せを聞くと、彼女は無言のまま立ち上がり、風呂場と向かう。脱衣所に入ると、浴室から何かの気配がした。
「な、なに……?」
彼女は恐る恐る、扉を開け中を覗き込む。するとそこには、行方不明になっていた娘の姿があり、目が合った。
「なんだ、夢か……」
「待って待って、夢じゃないから!」
「"幻想"じゃねぇの……?」
「なんか言い方が気になるけどそうだよ!」
カエデは扉を開けて、その姿を目の当たりにする。そしてゆっくりと近づき、娘の顔や肩に手を触れた。確かに感触がある。妄想や幻、ましてや幻想ではない。
「お母さん……私、帰ってきたよ……!」
「あ、アカネ、なの……本当に……?」
二人は抱きしめ合った。お互いの存在を確かめるように強く、強く抱きしめる。それはもう二度と会えないかも知れないと考えていたので尚更だ。感動のあまり涙がこぼれる。しばらくして落ち着いた頃、カエデはゆっくりと身体を離した。そして優しく微笑む。
「おかえりなさい、アカネ」
「ただいま、お母さん……!」
「ところで、そちらの方々は」
カエデが目をやる方向には、裸になって浴槽に浸かるジロとステラがいた。
「あ、お風呂頂いてます」
「うん」
「いただくな!? いつの間に服脱いだの!? ていうか二人も一緒に入って狭いでしょ!? そもそもなんでここにいるのぉーー!?」
ツッコミどころが多すぎる状況に、アカネは思わず叫んでしまった。とりあえず一同は風呂場から出ることにした。
「あ、これ、嵌って自分たちでは出られないから手伝ってくれ」
「んもー!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
リビングに集まり、状況の確認をすることになった。ジロとステラはタオルを巻いている。
「アカネさんにお土産渡すの忘れてまして、二人で鏡に飛び込んだんですよね」
「お土産なんて、いいのに、観光じゃないんだから」
「はいこれ、なんか変なグチョグチョしたやつ……」
「いらないよ!」
ステラは荷物からなんか変なグチョグチョしたやつを取り出し、アカネに渡そうとするが、残念ながら断られてしまった。ちなみにこれは後で生ゴミとして捨てられることになる。
「えっと、自己紹介をしてもらってもいいかしら」
恐る恐る、カエデが口を開く。行方不明の娘が風呂場に突然現れたことと、眼の前の二つの異形の存在に現実感が未だに無く、ぼんやりとしていた。
「トキジロー・ホージョー」
「私はステラ・シュコダです」
「そうなの、トキジローさんにステラちゃんって言うのね……私はアカネの母、カエデです。いくつか質問してもいいかしら」
「ああ」
彼女は言葉を選んでいるのか、少し間を置いてから話始めた。
「お二人は、その、アカネの旅の仲間? みたいなものなのかしら」
「そうだ」
「ま、私たちが助けてやったって感じですかねぇ」
「そう、そうなのね」
「合ってるけど、なんでわざわざムカつく言い方するの……」
ステラの返答にアカネは不満げだ。
「アカネさんが色々助けてって言いましたから、私たち、まあ主に私がですが、命を張ったりしましてね」
「い、命を!?」
「ちょっとステラ! 命張ったのはほぼジロさんでしょ!?」
「私もちょっとは張りましたし!」
彼女らの問答にカエデは困惑していた。命のやり取りまでアカネがしていたと言う事実に、目からウロコと言わんばりだ。
「大丈夫だったの、アカネ」
「うん……まあ、詳しくは後で話すよ」
アカネの返答を聞いて、カエデは再び対面に座る二人の方を向いた。
「えっと、それじゃあ続けさせてもらうわね」
「ああ」
「お二人はその、食いしん坊なの? つまみ食いしたことある?」
彼らは黙って首を横に振った。
「おねしょして、叱られましたか?」
再び首を横に振る二人。
「私達みたいな子でしたか?」
「ちょっと待ってお母さんさっきから何の質問!?」
とぼけた質問を繰り返す母にアカネはもちろんツッコミを入れた。
「変な母親を持つとお互い大変ですね」
ステラはアカネに同情する。ボケが一人増え、ツッコミの苦労が増すアカネであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それはそうとジロとステラは元の世界へと戻れなくなっていた。
「なんとかなると思ったんですけどね!」
「なんとかなる!? 短慮が過ぎるよ!」
ノープランで鏡に飛び込んだようで、風呂場の鏡は普通の鏡へと戻っていた。
「大丈夫ですよ、多分向こうの人達がなんとかしてくれると思います」
「そうかなぁ……こっちでずっと暮らすことになりそう……」
「私はいいですけどね!」
「よくないよ、法的な手続きとか色々とあるんだから……今の二人って身元不明の不法入国者だからね?」
様々な手続きや生活費のことを考え頭を痛めるアカネ。しかし、彼女の母は結構呑気していた。
「大丈夫よアカネ……大丈夫よ」
「全然大丈夫じゃなさそう! いつも言ってるじゃん、大人なんだからしっかりしてよねって!」
「……うふふ、こうして言い合ってると、あなたが本当に帰ってきたって、実感が湧くわね」
「お母さん……いい感じの雰囲気にして誤魔化さないで」
アカネの気苦労はまだまだ続きそうであった。
「続きそうであった。じゃないよ! ホントにどうすんの!」
「……おそらくだが、向こうから再接続は不可能ではないはずだ。あれは自由に行き来するための兵器、戻る手段も用意されているだろう」
「はぁ……現状こっちから出来ることないもんね」
「しかし、向こうから接続を試みた時のために常時監視することは必要だが、それが難しいな。ずっと起きておくわけにもいかないだろう」
ジロは頭を悩ませるが、ここは現代、テクノロジーで解決することが出来るのである! ビバ、科学!
「えっと、じゃあペット用の見守りカメラを置いておくのはどう?」
かくして伝説的な聖遺物はペット見守りカメラで見守られることになった。嘘でしょ……。
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