61.怪しげな企み
前章のあらすじ
夏、日本の夏、サマータイムドラゴンも満喫していた。
「日本の夏は楽しいことばかりさ! 海水浴、バーベキューにスイカ割り、夏祭り、盆踊り、平和学習、いや平和学習は大して面白くはないか……」
彼は冷房の効いた部屋の中でブツブツと独り言を呟く。太く短い四肢、長い尻尾、突き出た腹、翼に水色の滑らかな鱗、そして如何にもドラゴン然とした頭と骨格、彼は紛れもなくドラゴンである。このところの暑さはとんでもないと言っても過言ではない。あまりの暑さで外を出かける人は余程気合の入ったような奇特者であろう。もちろん、サマータイムドラゴンもその奇特者の一員である。
「プルルルル、ピッ。もしもし? 今日出かけない?」
彼は気が狂ったわけではない。小さな板状の電子機器、スマートフォンと呼ばれる通信端末に向かって話しかけているのだ。このクソ暑いのに彼に付き合ってくれる変わった人は果たして存在するのだろうか問題である。
『別に、いいけど』
「じゃあ海行こう、海!」
『別にいいけど』
変わった人は見つかったようである。彼らは海に出かけることにし
「いや待って! なにこの……なに……?」
本当の前章のあらすじ
ウルバン、ウルリーケの二人と即再開してしまった一行であったが、ダンジョンの噂を聞きつけた。ダンジョンの中には災厄と時の試練を司る神龍カクリヨノヤチホコノアメノカガチが待ち構えていた。同じ頃、アカネたちをこの世界に呼び寄せた女神が、一行が手に入れたきさらぎの鏡を狙い動き始める。きっしょいユニコーン、メメント森の襲撃により女神の企みを知った一行であったが、現状では対処のしようがないのでウルバンたちと別れつつもとりあえず、きさらぎの鏡に適合するクソデカ魔石を探す旅を続ける事になった。
ビザンチスタンへと向かう二人を見送った一行であったが、彼らの旅の目的はクソデカ魔石を探すことである。もうびっくりするぐらい宛もヒントも無いので、結構やる気が失せており、港町でダラダラとしていた。最近は新たな刺客の襲撃もなく、穏やかな日々が続いていたのである。しかしそんな平穏を打ち砕くような報せが飛び込んできた。
「冒険者さん、助けて欲しいことがあるのです」
とあるオークが一行の泊まる宿を訪ねた。一行は何事かと話を聞くことにする。なんでも最近、近くの山城に盗賊が住み着き、町を荒らしにやってくるのだという。しかしながら、ジロは妙な違和感を覚えた。
「……いや、俺たちは二週間ぐらい滞在してるが、そんな話聞いたことがないぞ」
「えっ」
「女将さん、何か知ってるか?」
「知らないねぇ……」
宿の女将も首を横に振る。どう考えても怪しい話であった。
「そもそも、そういうのはまず衛兵に相談しろ」
ジロの言葉にオークは顔を曇らせる。
「実は……相談したのですが、取り合ってもらえず……」
「では領主にそう言え。税金払ってるんだろ」
すると彼は首を振った。
「それは出来ません! えっと……あっ、私の家族を人質に取られているんです!」
「あっ、って言った今」
「言ってないです。とにかく、あの山の上の城に行っていただきたいのです」
「絶対何らかの罠だろ」
とはいえ、マジで暇だったのは事実であった。ジロは毎日酒を飲んでいるし、アカネとステラに至ってはテルマエに入り浸っている。敵に追われているってのに何をやっているのか。
「まぁ……何か報酬でもあれば考えるが」
その言葉を待っていたかのように、オークは懐から袋を取り出した。その中身は銀貨と銅貨が入り混じったものが入っていた。
「これが報酬になります」
「もうそういうのが露骨に怪しいんだが」
「いえいえ、ちゃんとしたお金ですよ。私は商人なのです」
「ううむ……」
ジロはその袋を受け取り、中を見る。確かに貨幣が入っているようだ。だが、それだけではない。何か紙切れのようなものがあるのだ。
「これはなんだ? 何か書いてあるが」
「あ!」
紙には、『狼人の男、エルフの女、東洋人の女の三人組を連れて来い』と書かれていた。
「もう絶対罠じゃないか」
「いいえ、罠ではありません」
「これ出てきたらもう苦しいだろ」
「もう、勘弁してください!」
必死の形相で頼み込んでくるオークに、ジロは渋々金を受け取り、とりあえず残りの二人と相談してみることにした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方で、アカネとステラは宿の一室でユニコーンの角を乳鉢でゴリゴリと磨り潰していた。
「ステラ、髪拭きなよ」
「拭いてください」
「はぁ」
渋々とアカネはステラのテルマエのお湯で湿った髪を拭き始める。
「あのキモいやつの角、なんかの薬になるの?」
「何かの薬なんてものではありませんよ! 癩病、痘瘡、石化症、人狼症、謝ったら死ぬ病など様々な病への効能が実証されている万能薬の元となります!」
「謝ったら死ぬ病って治るんだ!?」
「いえ、人の歪んだ心の底までは治せません」
「どっちなのよ」
うだうだと喋りながらアカネはステラの髪を拭いている。ステラは磨り潰したユニコーンの角の粉末を革袋に流し入れると、丁寧に栓をして懐に仕舞い込んだ。
「この角の粉があれば、大儲け間違いなしってわけですよ」
「まぁ、そんな凄い薬になるのなら誰もが欲しがるよね……終わったんなら、髪の毛自分で拭いてよ」
「イヤでーす」
「はぁ」
そんな時、部屋の扉がノックされた。二人は顔を見合わせると扉を開く。するとそこにはジロが立っていた。
「ジロさん? どうかしたの?」
「絶対罠だと思う」
「え、話が見えないんだけど……」
ジロはアカネとステラに先程のオークの話を伝える。
「絶対罠だね」
「ですね」
「だろ? それで、どうする」
「どうするも何も、金だけ持ってトンズラ以外にありませんよ!」
今回の場合、ステラの提案も悪くはない選択だ。どうせ罠だし、騙そうとしたやつの金を持ってっても罪悪感なんて抱く必要はない。しかし、ジロは真面目な面もあるのか、報酬を受け取った以上は……と悩んでいた。
「ジロさん、今回はこのスーパー賢いエルフである私の意見を尊重するべきだと思いますよ」
「ううむ、しかし……」
そこで、アカネが口を挟む。
「行こうよ、二人とも」
二人はアカネの方を向いた。彼女が乗り気であるとは思わなかったのか、少し驚いた表情をしていた。
「城って言ってたよね、多分お偉いさんとかがいるんでしょ? それなら、魔石の事とか何かわかるかもしれないし、トラブルが起きても暴力で何とかすればいいよね!」
すっかり異世界に染まり中世人的思考が芽生え始め、力に溺れつつあるアカネであった。
「よよよ……すっかり暴力的な子に育ってしまって……」
「そんな子に育てた覚えはない」
「育てられた覚えもないよ……!」
とにかく、他にやることも無い一行は、とりあえずこの企みに乗ってやることにした。とんでもないことになるとも知らずに……いや企みに乗るんだからそりゃとんでもないことになるだろ、とアカネは思ったという。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ふぅ、なんとか行ってくれたか……」
ジロに話を持ちかけたオークが街道を歩きながらひとりごつ。『オーク』に『ひとりごつ』だなんて、似合わね~。
「余計なお世話だ! ……しかしおっかない連中と縁が切れて良かった……あの依頼をしてきた男、どう見ても稀人だったからな、くわばらくわばら……ぐっ!?」
すると、オークは突然苦しみだし、胸を抑えてその場に倒れる。
「用済みは、クソッ、始末するって、ことか……!」
なんか主人公たちの前に立ちはだかり散々苦しめた、黒幕に利用されてた敵キャラみたいなことを言いながらしばらくもがいていたが、やがて動かなくなり、絶命した。
それからしばらく時が経ち、そこへ東洋の旅装束を着た半狼人の少女が通りかかった。
「なんか死んでる……」
死体を漁ると、何やらメモが書かれている紙を発見する。
「狼人……こんなところにあいつ以外の狼人がいるとは思えない、ということは……」
彼女は紙を投げ捨てると、先を急ぐことにした。
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