57.布告
「使命を言い渡すみたいな雰囲気じゃなくない……!?」
ドラゴンがそう言うと、全員が頷いた。困惑するカクちゃん。
「えっと、この者はカクリヨノヤチホコノアメノカガチ、迷宮と時の試練を司る神龍である」
返事はなく、沈黙が続く。
「あのー、続けてもいいでしょうか?」
「……どうぞ」
ようやく一言だけ返ってきた。それを受けて、再び口を開くカクちゃん。
「この者は時の試練を司る神龍である。つまるところ、その者らに神託を授けようというのだ」
「はあ……」
気のない返事をする面々だったが、とりあえず話を聞くことにしたようだ。
「トキジロー、ステラ、その者らには苦難の道が待ち受けている」
「えぇ、待ってよ、ステラはともかくジロさんにこれ以上苦労を背負わせるつもりなの?」
アカネが不満そうに言う。
「いや、その、この者にはどうしようもない事であって……」
「奥さんも子供も、家族も失って! これ以上何に苦しめって言うのよ!」
一同はジロに寄り添い、慰めるように肩を叩いたり背中をさすったりしている。そしてみな龍に抗議の視線を向けた。
「え、えっと……モテすぎて困ったりとか、お腹が一杯で苦しかったりとか……」
「嘘でしょ!?」
苦し紛れに適当に口にした言葉に対して龍に対して怒りを露わにする一同。そこで、ジロが口を開いた。
「まあいいさ、そういう星の下に生まれた以上仕方のないことだ。モテるのもな」
「いやモテるのは……」
「とにかく、何が起こるのか教えてくれ」
ジロの言葉を受け、龍は咳払いをした。
「うむ……では伝えるとしよう……その者たちは大切な人を失う事になろう……」
「これ以上誰を……あ、ウルバン、達者でな」
「いい人でしたよ……」
「えっ、我輩が死ぬ流れ!?」
「いやその者ではない。もっと身近な者だ」
龍が補足すると、ジロとステラはハッとした表情を浮かべる。そしてステラが先に口を開いた。
「えー、私は死ぬのやなのでジロさんが死んでください」
「お前が死ね」
「主人公とヒロインの会話か……?」
二人のやりとりを見て、呆れたように呟くアカネ。そして気を取り直して続きを聞く。
「ま、まぁ、別れ方にも色々あるから……そして、大いなる存在がその者たちを付け狙うであろう。それに打ち勝つことが出来るかどうかは、その者ら次第だ」
「大いなる存在とは一体なんなのですか?」
ステラの問いには、龍は答えなかった。ただ黙ってこちらを見つめているだけである。
「そんなに大きいんですか……」
「サイズの話ではない。あの存在は人知を超えた力を持つというだけだ」
「あ、なるほどですね」
納得した様子のステラとは対照的に、不安そうな表情を浮かべる面々。そんな中、アカネがおずおずと手を挙げた。
「それじゃあ、どうすればいいの? 力を貸してくれたりとかは?」
彼女の問いに対し、龍は首を横に振る。
「直接的には、出来ぬ、だがその者の持つ鏡を修復することは出来る」
龍が指を鳴らすと、その手のひらにきさらぎの鏡が現れた。馬車にちゃんとしまっておいたはずである。
「この鏡は、浮世とシン・浮世、つまりその者たちの住んでいた世界を繋ぐ魔導具である」
「地球世界ってそんな変なリメイク映画みたいな呼び方されてるんだ」
「変なリメイク映画言うな」
そう言って、龍が鼻から吹いた火炎を鏡に浴びせると、砕けていたはずの鏡面が新品同然の輝きを放った。どうやら完全に元通りになったようである。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「わぁぁ、やった!」
モニターの前で女神ローナがはしゃぐ。
「順当に直せば数ヶ月はかかると踏んでいたが、こんなに簡単に出来るとは! 金アマルガムから作り始めるかと」
きさらぎの鏡の発見と修復は彼女の悲願であった。とはいえ彼女がこの世界に直接手を下す事は出来ない。では一体どうするのだろうか。
「ふふ、今こそ、全ての転移転生者に布告を出さねばならない! その前にちょっと踊る」
彼女はモニターの前で変な踊りを始める。お世辞にも上手とは言えなかった。結構長いこと一人ぼっちなのでその辺りは察していただきたい。満足するまで踊ると、再び画面に目をやる。すると、転移者、転生者の名簿が表示された。
「え、あいつ死んだんだぁ……強い祝福を与えたのに。うわ、このクラスもう全滅してるじゃん、弱っ」
画面に映し出された名簿を見て、感想を漏らす。
「……気掛かりなのは、私の加護から外れた者たちね。まあ邪魔はされないでしょう」
そう言って、彼女はまた踊り始めた。そして一通り踊った後、一息つく。
「さて、そろそろ布告を……緊張してきた、明日にしようかな……」
結局、彼女が全稀人に布告を出すのは三日後のことであった。アカネとウルリーケを除いた地上のあらゆる稀人の脳裏に突如として声が響く。
『全稀人聞いて。現在オークタニアにいる中山 茜が持ってるきさらぎの鏡が欲し過ぎて泣いちゃった』
SNSの場末の呟きのような声が響き、稀人たちは首を傾げる。声の主を探すも見当たらず、困惑するばかりであった。
『ちょっと待って、今の無し。皆、よく聞いて欲しい。今から言うことをよく聞くように。聞いて』
今度は荘厳な女性の声が響き渡る。稀人たちもなんか只事ではないんじゃないかと思い、一応耳を傾けた。
『私は女神ローナ。君たちをこの世界に送り込んだ者だ。この世界は今、破滅の危機にある。このままでは世界が滅びてしまうのだ。だから私は、君たちの力を借りたい。つまり、先程の人物、中山 茜の持つ強大な魔力を秘めた鏡を、速やかに奪還し、私の元に届けて欲しい。報酬ももちろん用意している。手段は問わない。頼む、どうか、この世界の命運を託してくれ……』
この恐るべきペテンを自室で、宮廷で、ダンジョンで、トイレで、荒野で、路地裏で、ありとあらゆる場所で多種多様な稀人たちが聞いていた。稀人たちにはこの事の是非を判断する材料がない。更に言えば、この世界に対する感情ややる気もそれぞれであり、ぶっちゃけ乗り気ではない者が多かった。だが、一部の者たちは正義感、好奇心、困窮、なんとなくなどの理由によりこの女神の甘言に乗ることにした。
「スライムが跳ねるよ ぴょんこぴょんこ♪」
「森から森へと おでかけしよう♪」
しかしながら当の本人であるアカネとその仲間たち一行はとんだ浮かれポンチ野郎どもであり、例のダンジョンを出ると馬車に乗り呑気に歌いながら南下していた……。
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