43.子曰く、真面目なやつほど性癖やばい
ジロたちが街道を進んでいると、道の外れから男の声が聞こえてきた。
「すみませーん! そこの人たち!」
しかし、手綱を握るジロは馬を止めようとはしない。
「あ、すみませーん! ちょっといいですかー!」
男は後ろから走って追いかけてくる。ジロはその声を無視したまま馬車を走らせる。絶対に面倒事には関わらないという鋼の意志を感じるほどであった。
「ちょっとぉー! すみませんってばぁーー!」
男の声はどんどん近づいてくる、まあまあスピードを上げたはずだが、彼は追いついてきたようだ。そしてついに荷台にしがみつく。
「ぎゃっ! こいつ足速いです!」
ステラが悲鳴をあげる。とうとう追いついた男に観念し、ジロは馬を停めた。
「はぁ、はぁ、やっと止まってくれた……」
息を切らせながら男が言った。年の頃は十代後半といったところで、革鎧を身につけ腰からは剣をぶら下げている。身なりからして如何にもな冒険者といった風情だ。
「そこの二人、見たところ転生者じゃないか!?」
そう言ってアカネとウルリーケを指差す。現代風の服装を見てそう察したのだろう。二人は顔を見合わせて頷いた。
「まあ、隠すことでもないけど……」
アカネの言葉に男が目を輝かせて言った。
「おお! やっぱりそうか!! いや実は僕も同じなんだよ!!」
興奮した様子でまくしたてる男をジロが制して言う。
「すまないが先を急いでいるんだ。用件があるなら手早く済ませてくれ」
それを聞いた男はハッとした表情になると頭を下げた。
「これは失礼、僕は『世界を救う勇者』として召喚されたタナカ・ユーサクと言います。あなたたちも同じ境遇なら何か力になれることがあるかもしれないと思って声をかけさせてもらいました」
「えぇ……」
アカネとウルリーケは顔を見合わせた。『世界を救う勇者』! あの胡散臭い女神が如何にも若人を誑かす時に言いそうな言葉である。
「多分、騙されてるよタナカくん……」
アカネが気の毒そうに彼に声をかけた。
「えっ!? だってこの世界は今魔王に支配されていて、人類は滅亡寸前なんじゃ!?」
「魔王なら先日会ったな。内政で忙しそうで、人類を滅ぼすような雰囲気ではなかったが」
ウルリーケが言うと、彼の顔色が変わった。
「そ、そんな……いや、あなた達のほうが嘘を言っているのでは……」
タナカと名乗った青年は頭を抱えてブツブツ呟き始めた。
「でも確かに、おかしな点はいくつもあったような、そもそもどうして僕が選ばれたんだろう?」
どうやら自分がこの世界に来た理由や、チート能力について考えているらしい。そんな彼の肩をウルリーケが叩いた。
「もう行っていいか」
その言葉にハッと我を取り戻したタナカは慌てて取り繕うように言った。
「ま、待ってください! 僕は、どうすればいいんでしょう!?」
「さぁ、スローライフでも送ればいいんじゃないかな」
冷たく言い放つアカネに、タナカは膝をつき項垂れる。
「スローライフだなんて……そんな、僕は……」
「そ、そんなに落ち込まなくても……」
しかし、すぐに彼は顔を上げた。
「そう、僕は素晴らしい転生者に、ライトノベルに出てくるようなチート無双転生者になりたかったのに!」
その直後突然、伴奏が流れ始める。するとどこからか、どこかで見たような転移者やら転生者やら悪役令嬢やら蜘蛛やらスライムやら幼女やらスケルトンなどがぞろぞろと現れ、バックコーラスを始め、それに合わせてタナカが歌い始めた!
「僕は転生者 ゴキゲンなヤツさ♪ チート無双で無敵なんだぁ~♪」
続いて、コーラス隊も朗らかに歌う。
『彼は転生者 ゴキゲンなヤツさ♪ チート無双で無敵なのさぁ~♪』
「子供の頃から モンスター退治で パワーレベリングだ~♪ 知識チートでマヨネーズ作り 奴隷を甘やかすんだ~♪」
『子供の頃から モンスター退治で パワーレベリングさ~♪ 知識チートでマヨネーズ作り 奴隷を甘やかすんだ~♪ 彼は転生者 ゴキゲンなヤツさ♪ チート無双で無敵なのさぁ~♪』
「悪徳貴族は 成敗するぞ 日夜大忙し~♪ チート農具で畑を耕し お尻も開拓だぁ~♪」
『悪徳貴族は 成敗するぞ 日夜大忙し~♪ チート農具で畑を耕し お尻も開拓さ……?』
コーラス隊は怪訝な表情で顔を見合わせるも、すぐに気を取り直し歌を続ける。
『彼は転生者 ゴキゲンなヤツさ♪ チート無双で無敵なのさぁ~♪』
「チート能力で 魔導具作り 人格排泄さ~♪ 人格ゼリー吹き出し 瓶詰めされちゃうよぉ~♪」
「チート能力で 魔導具作り 人か、おいおいなんだよそれ!」
「特殊すぎる!」
「そうかい、俺は悪くないと思うぜ」
「ついていけないわよ!」
コーラス隊が罵詈雑言をぶち撒けながらどこかへと去っていった。
「人格ゼリー吹き出し 瓶詰めにされちゃぁぁ〜〜〜うんだぁ~~~♪」
「バカが伝染ります、先を急ぎましょう。ったく、全部聞いて損しました」
「チート転生者より木こりとかのが向いてるよ……」
ステラに催促され、ジロは手綱を握り馬車を走らせようとするも、タナカは荷車にしがみつく。
「待ってくれ! 君たちは冒険者なんだろう!? 僕も連れて行ってくれ!」
「嫌だよ変態だし……それにこれ以上の人数は作者が制御できないし、ウルバンさんを見てよ、ずっと黙ってるんだから」
幌馬車の隅で毛繕いをしているウルバン。猫獣人らしく体が柔らかいので、物凄い体勢で足の毛皮を舐めていた。
「ね?」
「ね?って……せ、せめて! 近くの街まで連れて行ってくれないかな!」
その後もしちゃもちゃと縋り付いてくるし、終いには馬車の前で座り込みを始めたので、近隣の町までという条件で一行は渋々彼の同行を認めたのであった……。
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