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のんきなエルフとくたびれオオカミ  作者: ターキィ
魔王国で乱痴気騒ぎの章
34/96

31.しょんぼりわんちゃん


 道中では頻繁に魔物に遭遇した。

 

「ドワーフ奥義、"手刀連(シュトーレン)"っ!」


 ディートリヒの鋭く素早い連続の手刀がトロルの頭蓋と世界観を破壊する。なんだこの技。

 

「ぐぬぅ! ズルいです! 私もああいうかっこいい技使いたいです!」

「かっこいいかなぁ」


 ジロはステラを守りつつ、魔物と戦いながらも首を傾げる。放っておけばいいのにこうやって守ってあげたりすぐ甘やかすのである。

 

「あそこにも何匹かトロルがいるよ! ジロさん!」

「いや、あいつは他のトロルを邪魔してるな」


 一体だけ他のトロルの足を引っ張っているトロルがいた。そのトロルは、別のトロルに対して後ろから毛を引っ張ったり、足を引っ掛けたりしている。いわゆる荒らし・嫌がらせ・混乱の元である。不思議がっている二人を見たディートリヒが口を開いた。

 

「トロルの中には一定数ああいうやつがいる。なぜかは知らんがな」

「そうなんだ……」


 このように魔物の襲撃が何度も起こり、サマロミアンに辿り着く頃には一行は疲労困憊となっていた。

 

「これでもマシになった方だ」

「そうなのか」


 新魔王の即位以来、街道の整備や魔物退治が行われるようになったので、旅自体はだいぶ楽になっているらしい。元々魔物の多い土地なのでまだまだ魔物の襲撃は絶えないが。


 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 サマロミアン、魔王国の中でも大きな街であり、神龍教の教えが魔族たちに普及し始めた時期に魔族の文化圏内にいくつか建てられた巨大(クソデカ)聖堂の内の一つがここにある。神龍教で信仰されている神龍の中でも人気の高い愛の神龍クピドを『我らの貴婦人』として祀っている。『愛を知らなければ魔族は魔物のままであった』ということらしい。また、この街には大きな川が通っており、物流が盛んだ。ディートリヒの工房に到着すると、早速ジロの刀を見ることになった。

 

「細かい配合を見るなら、鑑定の魔導具が必要だ。だから工房に来る必要があった」


 そう言いながら、ディートリヒはジロに一本のナイフを手渡す。刃渡り20センチほどの小さなダガーだった。


「これは」

「これが鋼だ。覚えておけ」

「そっか……」


 先日、刃物を見る目がないと言われたことを思い出し、しょんぼりするジロ。

 

「で、これがお前の刀だ。全然違うだろ」


 ディートリヒはジロの刀を抜き、刀全体を確認する。

 

「言われてみればそうだな」


 これは嘘である。ジロはまたなんか言われるのが嫌で全然違いがわかっていないけどわかってるふりをした。ディートリヒは刀を置き、大きな虫眼鏡のような魔導具でその刀を見る。


「うむ。非常に良い配合だ」


 その、ジロが華国にて二束三文で買った刀は、一般的な市販品どころか職人が打った一点物よりも遥かに品質が高かった。これはどういうことなのだろうか。

 

「魔石やオリハルコンが絶妙な配量で使われている。俺も知らない配合だ。これ、何年使ってる」

「10年だが」

「お前本当に見る目ないな。十年間酷使してるのに単なる手入れだけでこれほどの強度と質を保っているのは、並の刀剣ではない」


 見る目がないとの言葉を受け、ジロは少し涙目になってしまった。


「じゃあ、あの、どういうことなんでしょう」


 そしてついに敬語で話し始めた。

 

「量産品と言ったな。おそらく、物臭な業者と工員が奇跡的に噛み合ったんだろう」


 彼の推測では、物臭な鉱石業者が荷台の掃除を怠ったために鉄鉱石に不純物が多く混じり、物臭な工員が火に入れ、規定とは異なる打ち方をしたために、奇跡的に魔法合金の刀が作られた、と考えていた。おそらくこれは当たっているだろう。結果として、規格外品として非常に安値でジロの手に渡ることとなった。

 

「丈夫だなぁとは思ってました」

「なんで敬語なんだ」

「いえ、その……はい」

「ジロさんが萎縮しちゃってるじゃないですか! 謝ってください!!」


 ステラが怒り出し、ディートリヒは困惑した。

 

「なぜだ、俺が何を言った」

「ハァー! 無自覚ですか! 可哀想に、見てくださいこんなに尻尾が小さくなってる!」


 ジロの尻尾と耳は萎れて縮こまっていた。

 

「おうちかえゆぅ~~~……」

「ほらぁ! ジロさんは繊細な人なんですよ」


 彼はさめざめ泣きながらステラに連れられ、工房を出ていった……。

 

「えぇ……」


 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 


 ディートリヒの工房を出て宿を探していると、一行の前に立ちはだかる者がいた。魔族の男であり、盾と槍を背負っている。


「我が名は魔導将軍シャルル・マルテル! 貴様たちがログレスを救った旅人か!」

「人違いです」


 ステラが即答した。だが、相手は引かない。


「我は誤魔化されんぞ、稀人を下し、ドラゴンをも払ったと聞く!」

「あちゃぁ~、バレちゃいましたかぁ~~! しょうがないですねぇ、そうです私がかの有名な旅人ですよ!」


 彼女は開き直ったようだ。

 

「ならば、我が名声のために死んでもらう!」

「ヒィィィっ!! こいつ蛮族ですぅ!!」


 シャルルは槍を繰り出し、ステラに襲いかかった。しかし、ジロが間に割って入り、刀で受け止める。


「俺の仲間を傷つけるなら容赦はしない」

「今、『俺のステラ』って言いましたよね!?」

「言ってない」

「言いましたよ!」

「……お前は黙ってろ」


 そして彼は刀を振るい、槍の穂先を斬り落とし、懐に入ってシャルルを蹴り飛ばした。それは凄まじい一撃で、敵の身体はまるで砲弾のように一直線に吹き飛び、民家の壁に叩きつけられる。

 

「ぐはっ……やるな……!」


 起き上がったシャルルは不敵な笑みを浮かべると、呪文を唱え始める。

 

「炎よ、我が敵を襲う嵐となれ!」


 その瞬間、彼の周囲に炎の渦が巻き起こり、周囲の家々を巻き込みながらジロたちを襲った。

 

「とんでもないやつだな……」

「"|魔力の防壁《プロテクト アンド サバイブ》"!」


 咄嗟にアカネが防御魔法を唱えて皆を守った。彼女のおかげでなんとか難を逃れたが、辺りには燃え盛る炎が広がっていた。住民たちが家屋から飛び出し、怒り狂う。

 

「もう許さねえ!! テメェ、クソシャルル・マルテル!」

「いっつもウザいのよ!」

「よくも俺たちの家を!!」


 彼らは口々に叫びながら、武器になりそうなものを手にしてシャルルへと殺到する。その数は数十にも及んだ。

 

「ぬおっ! やめろお前たち! 我には崇高な大義が……」

「うるさいこのバカ!」

「くたばれ!」


 罵詈雑言を浴びせられながら殴られ蹴られ、あっという間にボロボロになるシャルル。もはや立っていることもままならない状態だ。

 

「ぐぅ……ログレスの英雄よ、これで勝ったと思うなよ……!」

「別に思わないが」

「魔導将軍が聞いて呆れるド悪党ですねぇ」


 この男、魔導将軍シャルル・マルテルは実際窮地に陥っていた。彼は魔王国の国防の重要な地位にいるのだが、新魔王による軍縮計画に危機感を募らせていた。そんな中に起こった、海を挟んだ北の隣国ログレスの政変にこれ幸いと軍事費の増加を訴え、魔王、並びに諮問機関に圧力をかけていたのである。しかし、ジロたち一行によりログレスの危機は救われてしまった。これにより圧力をかける理由を失い、同時に軍の幹部たちによる突き上げを抑えることに奔走させられ、腹たち紛れにジロたち一行の動向を調べ、そして居場所を突き止めてを襲ったのである。

 

「長々話したところでただの逆恨みよね。本当に呆れるよ……」


 アカネの言葉に、ジロもステラも街の住人も頷いた。

 

「ふっ、どうせ短い命。我は軍部に謀殺されるだろうよ……ならば最期にお前たちを倒し、我が名を歴史に残すのみ!」

「とばっちりもいいとこだよ」

「衛兵さーん、こっちでーす!」


 群衆の一人によって連れて来られた衛兵に、シャルルは連行されていった……。


応援、ありがとー!

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