30.何の話だったの!?
ところで、魔王国の首都パリシイの中洲にある宮殿では、魔王がとある報告を聞いていた。
「そうか、ログレスは安定したか。報告を感謝する」
魔王の執務室には、側近の魔人がいた。
「これで、軍部の開戦への圧力も減るだろう。ログレスはもはや死に体ではなくなった。戦争はとかく金がかかる」
側近はうなずいた。
「しかし……稀人ですか、我が国も無関係というわけにはいきませんね。いつ内側から喰い破られるか……」
「彼らが現れる条件でもわかれば……」
「伝令! 伝令!」
伝令兵が駆け込んできた。汗だくで息を切らしている。
「何事だ?」
「かなり緊急性の高い情報です」
「何があったんだ」
「急いで走ってきましたよ。それで、途中侍女にぶつかったりで遅れてしまいました」
「災難だったな。で、なんだ? そんなに焦って」
「それに騎士や、衛兵にもぶつかりましたし、煙突掃除夫の少年にもぶつかりましたね」
「ああそう。いいから要件を」
「かなり重要な案件ですので、心してお聞きください」
「勿体ぶらずに早く言えっての」
「もうお昼の12時です」
「ホントだ、じゃあ昼飯にしようや」
一同はぞろぞろと執務室を出た。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「何の話だったの!?」
アカネが飛び起きた。ここは例の旅館の一室であり、結局あの後泊まったということを思い出した。
「……なんか変な夢を見ちゃったなぁ」
辺りを伺うと、同じベッドにジロとステラが寝ていた。気持ちよさそうに寝息を立てている。
「三人一緒のベッドで寝たんだっけ……」
窓の外を見ると、太陽が見えた。もう朝である。彼女はゴロリと体勢を変え、寝ているジロの身体に抱きつき、彼の毛皮に顔を埋める。
「はぁ……犬臭い……落ち着くぅ……」
「人の臭いを勝手に嗅ぐなんて失礼だ」
ジロは既に目を覚ましていた。
「あっ、ごめん……」
「謝るほどのことでもないさ。ふんっ」
へそを曲げたような事を言いながら、ゴロンと反対側に転がりステラに抱きつく。
「う、うぅ〜ん……犬臭いですぅ……」
どうやら臭いで起こしてしまったようだ。ジロはかなりのショックを受けた。
「そ、そんなに臭う……?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
三人は朝食を済ませ、旅館のロビーに出ると、ドワーフのディートリヒが待っていた。
「……トモエ、お前男だったのか」
「バレてなかったんだ……」
「ともかく、お前の東洋の剣を見せて欲しくてな」
ジロの腰に差してある刀を指差して言う。
「別に構わんが、銅貨数枚で買った安物だぞ」
「東洋の技術に興味がある」
ディートリヒは、ドワーフらしくこの魔王国で鍛冶職人として暮らしていた。60代と随分若いが、優秀な目と腕を持っているらしい。彼は鞘を見ると、その出来栄えに驚いていた。
「中身はともかく、この鞘は安物じゃないだろ」
「……そうだな」
「それによく手入れされている。では中身も見せてもらおうか」
鞘から刀を引き抜くと、刃こぼれ一つない綺麗な刀身が現れた。
「……本当に量産品か、これが?」
「そうだが」
「むぅ……材質は」
「単なる鋼と聞いているが」
「お前、見る目ないな」
「えっ……」
ズキン! ジロの心が痛んだ。今日の彼は朝からショックを受けてばかりである。
「単なる鋼ではない。調べさせてくれ。南の街に俺の工房がある、歩いてすぐだ」
「俺は構わないが……」
「ぜひ行こうよ! ドワーフの工房だなんて、やっと冒険らしくなってきた!」
アカネが目を輝かせながら、ジロの腕を引っ張る。しかしステラは乗り気ではないようだ。
「私は反対です。ドワーフ臭くなりますよ」
「じゃあお前は来るな、クソエルフ」
「は? 行きますが? ドワーフの卑劣な命令には絶対従いませんがね?」
「もう喧嘩しないの」
仲裁に入るアカネだが、二人は睨み合いを続けていた。結局彼の工房に向かうことになり、ステラも渋々といったふうの表情でついてきた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ぜんっぜん、すぐじゃない……!」
ディートリヒの工房のある街、サマロミアンへの道のりは数日かかる。この世界の感覚に多少は慣れたつもりであったアカネも、殆ど集落のない道のりは堪えたようである。放棄された街道には魔物も多く、道中安心して休めるところもない、更に雪が降り始めてきた。もう季節は冬である。
「まだ歩き始めたばかりだろ」
ディートリヒはドワーフの時間感覚で『すぐ』と表現したようだ。
「はぁー、これだからドワーフは。ハイエルフは短命種の感覚に合わせられるんですよ、ですので休憩しましょう」
「お前が疲れただけだろ」
相変わらず喧嘩を続けている二人であった。
「ははは、ケンカップルってやつかな。ジロさんはどう思……ご、ごめんなさい……」
少し開けた場所があったので野営をする事にした一行。薪を集め火をおこし、食事の準備をする。今日のメニューは適当に作ったスープに炙ったかってぇ黒パン、魔物の干し肉である。アカネが魔法で火を起こし、料理を作る。比較的時間はかかるが、他のメンバーが作るよりずっと美味しい。
「アカネが作るとなんでも美味いな」
「ですね! そういう祝福なんでしょうねぇ」
ジロとステラは舌鼓を打っていた。ちなみにこれは純粋な彼女の料理のセンスである。ディートリヒも、驚いた様子で味わっている。
「贅沢だ、祝い事でもないのに」
「ハッ。ドワカス味蕾西方平原ですか?」
「日々の食事に手間をかけることに意味が感じられないだけだ」
「作ってもらっておいて失礼なやつですね。おっと、ドワーフだから失礼ではありませんでした、失う礼がございませんからねぇ!」
「フン、小生意気なクソエルフめ。お前たちには品がないだろうが」
二人は口論しながらも、しっかりと食べ進めていた。
「ディートリヒさんは祝い事の食事みたいに美味しいって言ってくれたんだね、ありがとう」
「……まあな」
アカネの言葉に、そっぽを向きながら答えるディートリヒ。照れ隠しなのか、耳が赤くなっているのが見える。
「キモいんですよ!」
「クソエルフ」
「仲良くして〜」
ドワーフとエルフの仲の悪さは西方世界でも有名である。我々に分かりやすく例えるなら、オーストラリア人とタスマニア人ぐらい仲が悪く、尚且つ双方とも自分をオーストラリア人だと思っている……そういう関係であった。
「最悪すぎる! 友好関係の構築不可能じゃん!?」
という例えは言い過ぎであるが、両国の国境地域を第三国に委任統治されるまで年がら年中争っていた連中なのは間違いない。
結局道中、彼らは喧嘩ばかりしていた。
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