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【パルクス市庁舎3階 パルクス憲兵隊第四課 課長室】


大陸を縦断するように流れる大河オーヴァン、その河川貿易の中継拠点として発展してきた都市国家パルクスは、中原各国から独立した立ち位置を確保している。

長年にわたり、中原各国はパルクスがもたらす税収をねらって何度も出兵を繰り返したが失敗し、やがてパルクスは独立した法体系を持つようになった。都市国家パルクスはそのようにしてできた。


あらゆる名産品、あらゆる財貨、

あらゆる種族が「繁栄」の単語と、その輝きのもとに集う都市(まち)

しかし、光が強ければ強いほど、その影もまた色を濃くする。

パルクスには、あらゆる犯罪、あらゆる種族差別が横行する都市(まち)でもあった。

商売および自社社員へのリスクを恐れて豪商が撤退することを恐れたパルクス市議会は、法体系に基づき、物理的強制力をもって犯罪を制圧・抑止する組織を設立した。

それが「パルクス憲兵隊」である。


パルクス憲兵隊第四課員、アレク・ナカムラはその日の朝、出勤と同時に課長室に呼び出された。

楕円形の城壁に囲まれているパルクス市の中心に聳え立つ市庁舎、その三階から臨む景色は、周囲の建物に遮られてけして良いとは言えない。アレクが子供の頃は目印として都市のどこからでも見えた市庁舎も、商圏の盛り上がりに引きずられるように周囲に高い建造物が増えるにつれて、街並みに埋没するようになっていったのである。


「ナカムラ、入ります」

「おう、入れ」


ドアをノックすると、待っていたかのようにすぐ声が返った。

窓を背にしてデスクについていた第四課長プリオは、ドワーフ族特有の長い顎髭をしごきながらアレクを椅子に促した。


「どうだ、最近は」

「先週から着手している銀行襲撃事件の現場調査も進んでいますし、次は後ろ暗いギルド連中にそれとなく話を聞きに行く段階です」

「そういう事じゃなくて、プライベートとかそういうのは……」

「答える必要はありません」


ただの雑談であるのなら、朝一番で課長室に呼び出す必要はない。職務の進捗について確認したいことがあると考える事が道理だ。アレクはそう考え、その通りに返答した。


「流石『四角四面』のアレクだな。報告も精確だ」

「報告書については先週末にまとめています。現場調査の詳細なレポートはそちらをご確認頂ければと」

「他の要件については?」

「いや、実は…」


プリオは、その迅速果断な性格に似合わない口調の濁し方をした。アレクは不審に思い、プリオの表情を窺う。プリオの目は、アレクの顔と、デスクの上に置かれた一枚の書類の上を小刻みに往復している。


「その書類に関する事柄でしょうか?」

「それはそうなんだがなぁ」


書類、それも一枚ものだとすると、賞罰か、さもなくば人事通達であるとアレクは推測する。規則違反は当然していないので、先々週まで担当していた事件が無事解決したことにより、何らかの褒章が市議会から下されたものか。


「実は、憲兵隊に新しい部隊を設立することになったんだがね」


褒章であるのなら、従来同様朝会の場で皆と一緒に祝うのではないか、とアレクは思い至った。更に、昇進にまつわる事ならば、辞令は第四課長室ではなく、憲兵隊本部オフィスで手交されるのが通例である。

褒章ではなく、出世でもないのなら、残る可能性はひとつ。そして今のプリオの言葉を字義通り解釈するのならば。


「異動……でしょうか」

「そう!そうなんだよアレク」


助け舟に喜んだ顔をしたプリオが話を継ぎ、書類を渡してきた。パルクス憲兵隊のエンブレムである双頭の竜がレイアウトされた一枚の書類。アレクのフルネームの下には、ただ一文。


《パルクス憲兵隊第五課 副課長に任ずる》


アレクは足元がガラガラと崩れ落ちる錯覚を感じた。





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