タチアナの出陣
「ジェイロウ、今回の戦どうなると思う?」
アラニアの公王エウロバ。
アラニアには4将軍と呼ばれる強烈な武将達がいた。
その中で最もエウロバが信頼している将軍がジェイロウ。
既に残り3将軍はアラニアに戻った。
このジェイロウだけがエウロバに付き添い守っている。
「率直に申しまして、陸戦でヘレンモールに勝つのは至難です。先王テディネス様、そして我が第二軍の知将ドクドレが戦っても勝てなかったのです。アンジの名将と称えられていますが、帝国においても最高峰の名将です」
「陸戦では、か。つまり海戦なら勝てるのか?」
「はい。勝つとしたらそこでしょう。ヘレンモールは海戦の指揮をとった事がありません。不慣れな戦は名将を凡将にします。とは言え、ヘレンモールがなにも考えずまともにぶつかるなどあり得ません。恐らくその不慣れなところはどうにかしようとする筈です」
「……ふむ。ドクドレが申していたが、ヘレンモールは真っ先に殺すべきだと」
「同感です。ですがこの戦では無理でしょう。今は無理の出来る状態ではありません。我らがやれるのは、オーディルビスにヘレンモールの策を筒抜けにさせることだけです。その状態でもヘレンモールならば切り抜けます。ですが、その程度で今回は十分です」
「分かった。ミルティアにはそのように伝える」
エウロバは頷く。
そして髪をかきあげながら
「しっかしマザーファッカー(くそったれ)な気候だな。暑くて死にそうだ。皇帝もこんな暑いとこにいるから玉金が枯れて種無しになるんじゃないか?」
世間話のように下ネタを言うエウロバ。
「……マヤノリザの絶倫を見ているとそうとも思えませんが」
ジェイロウは言外に
「あいつはアレでいいんですか?」と言っていた。
「ああ、ほっとけ。とは言えあのビッチの方はどうにかしないとな。なーーーんであの馬鹿あんなに喘ぎ声がデカいんだ」
マヤノリザはエネビット公国の王。
アラニアとは対立していたが、崩壊する帝国を止めるために、エウロバと手を組んだ。
名目上は二人は婚約者なのだが、マヤノリザは妹のビルナと性交し続けていた。
実情はビルナが求めているからなのだが。
「私が知りうる程には公然の秘密です。ビルナの子の父親は誰か? と探られるのは得策ではありません」
妹のビルナは皇帝の弟と結婚していた。
そして何度か性交を行い妊娠したと発表されたのだが
「……本当にあのビッチは手間がかかるな…… マヤノリザとの性交は個人的に認めてやったら、喘ぎ声でバレるとか……」
エウロバは苦々しい顔をしながら
「私が話をする。ジェイロウはドクドレと連絡をとり、スパイの動向を常に把握しろ」
「かしこまりました」
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「お任せください、ドクドレ様♡ 僕は確実に任務を達成します!」
少年兵がドクドレに微笑む。
全裸で体液にまみれた異常な姿だが、ドクドレは気にせず
「ヘレンモールは相当手強い。頭の出来が違う。並みの輩ではスパイなど不可能だ。だからお前が行くんだ。油断、慢心は捨てろ。お前の全力がヘレンモールの平時の能力だ」
「僕は全能力を使ってドクドレ様のご期待にお応えします! 朗報をおまちください!」
笑顔でハシャぐ少年兵を見据えながらドクドレは
「お前の恥は俺の恥だ。託したぞ」
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タチアナはいよいよ出陣しようとしていた。
すべての準備を行い、身を清めた。
「お兄様、行って参ります」
小声での挨拶。
兄はビザルディの奉仕を受けていた。
タチアナは奉仕する際に
「無理矢理されても困るの。あなたも折角なら楽しくやりたいでしょ?」
と、ビザルディに大量の媚薬をぶち込んだのだ。
その結果、ビザルディは奉仕をやめていない。
それを確認して
「お兄様の奉仕は10日に一度。その際にまたこの媚薬を使いなさい。いいわね?」
控えている家臣に伝える。
「さあ! 出陣よ! 我がオーディルビスはこれより! 帝国の大陸に進出する!!!」
船での移動中、訓練が気になり船の上に行くと
「タチアナ様! タチアナ様に敬礼!」
ディルアルハはすぐに私に気付く。
「訓練を続けなさい。それで? 間に合うかしら?」
戦争。
人が死ぬ。
言葉はそれだけだが、ここにいる者達が死ぬのだ。
下手すれば私も死ぬね。
「間に合わせます」
そうね。今から帰るなんてない。
既に遠距離会話の魔法で、宣戦布告が無事終わったと連絡が来ていた。
使者は無事帰ったそうな。
さて、後何日で着くか。
どこで向こうが待ち受けてるのかもある。
作戦はあるがうまくいくかどうか。
「タチアナ様、どうかゆっくりとお待ちください。必ずやご期待にお答えします」
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タチアナ達が目指しているディマンド公国。
そこで激しい議論がされていた。
「ヘレンモールに従え」
神教の幹部が強く言う。
ディマンド公国は、当然自分達が主戦力でヘレンモールが援軍。そういう考えでいたが、神教の幹部は
「全軍ヘレンモールに従うように」と伝えてきた。
当然主権の問題があり、それには従えないディマンド公国。
「アラニアを止められるのはヘレンモールしかいない。あいつの元で、反アラニアを固める。そのためにもこの度の戦で無駄に兵力を失っては困る」
神教の幹部の話は辛辣だった。
ディマンド公国に任せれば負けかねない。
ヘレンモールに任せれば勝てる。
そう言っているのだ。
「オーディルビス王国なにするものぞ! 王よ! 我が軍は迎撃に向かいますぞ! ヘレンモール殿を待つまでもない!」
将軍のセリフに
「……落ち着け。ですが、我々は主権は手放せません。あくまでヘレンモール殿は援軍です」
その言葉に神教幹部は呆れ果て
「ならば戦ってみろ。勝てばいいが、海戦で敗れたら指揮官は交代だ」
まだヘレンモールはディマンド公国に辿り着いていない。だが既に到着する前から歓迎されない空気を作られていた。