帝国の思惑
帝国本国。
ここにはアラニア公国の王、エウロバがいた。
病に倒れた帝国の皇帝を幽閉し、皇族を拘束した。
実質的なクーデター。だが混乱はそこまで無かった。
帝国本国は限界。今の皇帝は限界。
それは皆が思っていたことなのだ。
皇帝は病に倒れ執務がとれない。
その皇帝には子がおらず、弟達にも継げるような人材がいない。
皇帝の次が決められないままの状態だったのだ。この状況で皇帝が倒れれば、帝国は崩壊する。
その混乱の中乗り込んできたのがエウロバだった。
彼女はあっさりと帝国本国を乗っ取り執務をしていた。
「聖女ミルティアから連絡が来た。オーディルビスがディマンド公国を狙っていると」
エウロバの発言に大臣達はざわめく。
「オーディルビスがですか?」
「聖龍大戦では敗れたとは言え、オーディルビスは単独で帝国と聖女に宣戦布告してきた国だ。貧しいが舐めるな。手強いぞ」
エウロバはミルティアから連絡を受けて、アラニアへの反対勢力を駆逐しようとしていた。
「それで、ディマンド公国には援軍を……?」
「ディマンド公国とアラニアの仲は相当悪い。私達からの援軍は受け取れまい。ディマンド公国と仲の良かったのはエネビット。聖龍大戦で援軍出した縁はまだ残っているけれども、そのエネビットのマヤノリザは現体制に組み込まれている。だとすれば頼るのはアンジ公国でしょうね」
ディマンド公国の隣にある国はアディグル王国で、これは聖女の国。
その隣にガルド公国があるが、これは国内で混乱が起こり、今は親アラニア。
南にエネビット公国があるが、こちらも親アラニアとなった。
この付近で唯一反アラニアとして戦っているのがアンジ公国。
貧しい小国ではあるが、名将に率いられ名声は世界中に轟いていた。
「ああ、ヘレンモール殿ですな……」
「ヘレンモール殿なら……」
大臣達も納得する。
「アンジ公国に使者を出しなさい。帝国本国は食糧と軍備を出す。出兵はそちらで、と」
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アンジ公国。
小国の貧しい国だが、ヘレンモールが大将軍になって以降は流れが変わっていた。
反アラニアを明確にして、名将ヘレンモールを前に出す戦略により、反アラニアの国や神教から莫大な金額の寄付が与えられたのだ。
これにより国の食糧庫は潤沢となり、人々は喜んでいた。
そんなアンジ公国に使者が二人同時に来ていた。
「オーディルビス王国が攻めてくるという噂があります。援軍を頂きたい」
ディマンド公国からの使者。
「オーディルビス王国が攻めてくるという噂があります。ディマンド公国と友好的なアンジに援軍を出して頂きたい。食糧と軍備は帝国本国が揃えます」
この同時の話にヘレンモールは戸惑った。
「オーディルビスが? 海洋国で陸軍は脆弱。海での戦いを避けて陸上で戦えばいいだけでしょう?」
強国アラニアと互角の戦いを繰り広げていたヘレンモールの名声は高く、国民から見てヘレンモールは宝だった。
そんなヘレンモールはこの話のおかしさに気付いていた。
「ディマンド公国は海上貿易のため、主要な街は海沿いにありますから……」
「アンジは内陸の国。海軍はありません。アラニアが出すべき話でしょう」
ヘレンモールから見たら不自然すぎるこの話。反アラニアのアンジ公国勢力を削る為としか思えなかった。
帝国本国からの使者は反論しなかったが、ディマンド公国の使者が答える。
「ヘレンモール様、我が国としては……是非アンジにと。神教の方からもいわれております」
その言葉に天を仰ぐ。
こう言われると反論が出来なくなる。
あまりにも良くできたストーリー。
帝国本国は物資を支援し、軍はアンジが行う。
勝てば良いが、負ければアンジは大打撃を受ける。
本来は断る話だが、当事者の国が求めてきているのだ。
「………」
ヘレンモールは悩んでいたが
「ヘレンモール。ディマンド公国は友好国であり、神教の意向もあるならば、断る選択はない」
アンジ公国の公王が口を開く。
今アンジ公国は神教と友好国からの寄付で豊かになりつつある。この利権を手放すわけにはいかない。
ヘレンモールは頭を抱えながら
「かしこまりました」
返事をした。