世界最強国に成り上がる
「……あの? エウロバ様?」
「…………」
ドクドレが南に向かっているということで、ジェイロウは離任の挨拶をしていた。
ジェイロウだけならば問題はないが、第四軍も連れてきている。
彼等は近衛兵のように動いていたが、実際は野戦が得意な兵士。
いつまでも護衛や近衛兵としてやらせていると、本来の仕事にも差し支えが出てくる。
そのためジェイロウと第四軍は第二軍と交代し、未だに国境線で揉めているマリネス公国との前線に行く予定だった。
なのだが、ジェイロウのマントを掴み、大きく頬を膨らませたままのエウロバ。
ジェイロウがなにを言っても答えない。
「……エウロバさま?」
「……ファック」
「???」
アラニア特有のスラングだが、発音が変なので、困惑した顔をするジェイロウ。
「……ファック!!!! ファァァァァッック!!!!」
「クソッタレ」を意味するスラングを連呼するエウロバだが、そのままの意味ではない。
なにしろエウロバは半泣きで騒いでいるのだ。
「……エウロバさま。さみしいんですか?」
ファック、ファック 言っているだけだが、そのニュアンスはジェイロウに伝わっていた。
「…………」
大粒の涙を流し、小さく頷くエウロバ。
それに苦笑いをしたように
「……そうですよね。エウロバ様は敵に囲まれて、話し相手もいませんからね……」
ジェイロウはエウロバの愚痴相手として、常にずっといた。
「……分かりました。とりあえず第二軍が着いたら予定通り第四軍を向かわせます。ただ、私は残りますから」
それに、うんうんと大きく頷くエウロバ。
「……まだ12歳ですものね……」
ジェイロウは苦笑いをするが
「……しかたないだろ……いざ、離任の挨拶されたら、寂しくて、どうしようもなくなったんだ……」
グズグズ泣いているエウロバ。
父から愛情を受けず、兄からも無視されていた。
母は死に祖母も眠りについた。
そんな環境で民の為に6歳から王座に座りアラニアの内政を見ていたエウロバ。
彼女が愛情に飢えていたのはジェイロウには分かりきってはいたのだが。
「……私でよければいつまでも」
「……お前の妾とか、ここに呼んでもいいから、頼む」
妾。その言葉に苦笑いするジェイロウ。
ジェイロウの立場は貴族に近い。だから女も多く囲っている。
だが、それはテディネスに壊された女性を救いあげたりとかだった。
積極的に抱いたりしている女はそんなに多くはない。
「……まあ。アラとかは、たまに来てねだられたりはしてますから」
妾であり、諜報でもあるアラは報告がてら会いに来てはセックスして帰る。
みたいなことをこの一年で10回ぐらいしていた。
「……ああ。あのビッチはすごいな。人間の性欲に限界はないと毎回思う……」
アラは見た目30代後半。
この世界では年を取ったほうではあるが、実際は60歳近い。
この世界では完全に老婆と呼ばれる年齢。
なのに未だに性欲が衰えず、会う度にセックスをねだってくるのだ。
エウロバは少し落ち着き
「ドクドレにはすまぬことをするな」
「いえ、別にドクドレを返す必要はありません。しばらく二人でここで策を練ります」
その言葉に少し顔をしかめ
「……アラニアに残るのはツーバックと、ティムトッグ。大丈夫か?」
「今回ツーバックはドクドレに怒られまくったので反省しています。大丈夫ですよ」
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「いやーーーー!!! こわかったーーー!!!」
ツーバックはニコニコしながら酒を飲んでいた。
「……お前は反省しろ……と言いたいが、俺ですら怖かったわ」
ティムトッグ。
この二人は仲は悪いのだが、それ以上にドクドレがキレており、懸命に宥めたりしていたのだ。
「元々俺の兄貴分だからなー、ドクドレ。久しぶりに怒られたよ。まあちょーどよかったー!」
命令違反により、ツーバックはティムトッグと交代。
その交代したティムトッグが策にはまり大怪我をした。
「そもそもお前がバルドスと戦ったからこんな事になったんだろうが!」
と帰ってきたツーバックにドクドレは怒っていた。
元々仲のいい二人ではあったが、それが故に分かることもあり
「ドクドレ、そこまで引きずる性格じゃねーから。帰ってきたら忘れてるよー」
「陽気だなー。まあ、俺もあんなキレたドクドレと絡みたくないからな」
二人は溜め息をつきながら
「まあ、そのうち戦いがまたあるさ。それまでは訓練するぞ」
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「天の子の伝承を調べましたが、まあなんというか。あんなの信じるなんて頭おかしいんじゃないですかね?」
聖女ミルティアは、珍しく王宮に顔を出していた。
天の子の伝承というのは、言わば単なる御伽噺。
その国々にある神話とも言えない、言い伝え。
神教を信じる前の帝国本国にはそういう言い伝えがあったのだ。
天から子が授かる。
その、天の子は石から授かると。
「ディルハウエルは石じゃないでしょうに。バカですねー」
動けない身体を結びつけて、皇帝は興奮していたが、ミルティアから見れば滑稽極まりない話。
「エウロバさんには苦労してもらわないといけませんからねー。三年後に『今の皇帝は不義の子だ』と糾弾して終わり、とかつまんないじゃないですか」
ビルナとディルハウエルの子はミルティアがコントロールしていた。
そもそもディルハウエルは、性交に耐えられる身体ではなかったのだ。
ビルナが動いたところで、激しい性行為に体力は失われ死ぬ。
それをミルティアは力を送り込み生かした。
万が一に備え、子の出産までは生かし続けていたのだ。
そして、その一度の性交で妊娠できるようにも力を送り込んだ。
そこまでした理由は、ビルナの子が帝国の希望になり、エウロバと対立する錦になるのが分かっていたから。
「その結果、見当違いな神話に興奮して皇帝死んじゃうなんて知りませんけどねー。馬鹿ですねー」
ミルティアは普段は後宮におり、そこで食べ物を食べまくっていたのだが。
「……聖女様。わざわざ王宮に来てなにやるのかと思ったら、相変わらずご飯食べてるんですね」
聖女の妾、ヤファからの突っ込み。
わざわざ家臣を集めて、王宮の広間で食事をして独り言を言っていたのだ。
「ああ、ここで話すのには意味がありますよ」
果物をパクパク食べながら。
「帝国は皇帝が死に、赤子が後継者として指名されました。我々として、これに対してどうするか。つまり、歓迎の使者を送るか、それとも兵を向けるか、です」
皆が真剣な顔で聞き入る。
「基本的には、私の言いなりにされても困るので皆さんで考えて欲しいんですけど。どうですか、みなさん?」
王宮の広間にいる家臣達は困惑した顔をするが
「……古より、王の死につけ込み攻めるは、礼を知らずと言われます。聖龍大戦も、聖女様亡き後、直後の戦争ではありましたが、あれはこちらからの宣戦布告でした。また、その直前に皇帝が暗殺された事がありましたが、我々から攻めてはおりません。古に従うことが全てでは無いにせよ、重い事実とはなります。なにしろ、どさくさに紛れて攻めてきたオーディルビスは王を失い、大変な目に遭いました。そう言ったことを蔑ろにするのは反対です」
聖女ミルティアが指名した宰相が答える。
それに頷き
「反対意見は?」
誰も手を上げない。
「その通りね。慣習だからと無条件に従うのは無しだけれど、今回は失うものが多すぎる。歓迎の使者を送りましょう。私を信仰している各国からも使者を出すように伝えなさい」
皆が頷く。
「攻めるのは三年後。タチアナさんには伝えていますけどね。それまでには準備しておきなさい」
「……っ! 戦争をするんですか!?」
驚いた声を上げる家臣を見ながら
「そらそうですよ。エウロバさんが帝国統一すれば、当然向こうの大陸にある国々とオーディルビスは攻められる。その前に強くしなければなりませんからね」
そして、目の前の果実を掴み、握りつぶしながら
「私は貪欲なんです。ついてきてくださいね」
搾り取った果実の汁を舐め取りながら、聖女ミルティアは微笑んでいた。
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グラドニア占拠から一年。
お兄様が亡くなって一周忌。
盛大な葬儀を行っていた。
「お兄様、天から我らをご覧になられてください……」
望み通り戦死した兄。
その意志を継いで私は、オーディルビスは、強くならないといけない。
大陸の二国を占領して、我々オーディルビスは豊かになった。
それでもまだ足りない。
二年後の戦争に向けて、また私は強くなる。
決意を新たに宮殿に戻る。
グラドニアには王族を戻した。
彼等は逆らわない。それを確信している。
今はグラドニアの元国王の娘を公王に立てて、それをオーディルビスが支配している形にしている。
なぜグラドニアが逆らわないか。
簡単な話。
「ふふふ♡ なんかあんたの従兄弟がまた不満言ったんですって?」
私はニコニコしながら、公王サレルフィルの頭を踏む。
「すっ! すびばせん!!! ちゃんといいきかせますからぁぁぁ!!!」
怯えきっているサレルフィル。
まあ、私しょっちゅう殴ったり、レ〇プしたりしてるからね。
王としての誇り?
殴られるよりマシでしょ?
「そうそう。私に対応させないでね。あんたがちゃんと躾るのよ」
「はい! がんばりますからぁぁぁ!!!」
もう殴ったり蹴ったりで鼻が折れてる。
やりすぎると聖女様に治してもらってる。
でも聖女様も痛みは残してるから、サレルフィルは、常に臆病で、私に逆らわない女になった。
まあやりすぎたら窮鼠猫を噛む、とかにもなるのかと知れないけれど。
今は怯えてちゃんとやってくれている。
それでいい。
暴力も支配するためには必要だもの。
「この一年で食糧は溜まった。軍の訓練も進んでいる」
白兵戦が出来る兵士が少ないという弱点も、訓練により大分マシになった。
次の戦は、得意の遠距離攻撃を生かしながらも、存分に戦えるようになる。
「こんなもんじゃないわよ。我がオーディルビスは世界最強の国家を目指す」
現状の最強国はアラニアだろう。
だが、領土面積を考えれば、我がオーディルビスも十分。
「見てなさい。最貧国だった我が国は、世界最強国に成り上がるのだから」
民の為に命がけで流行病と闘ったお兄様達。
見ていてください。
私は
「オーディルビスを、最高の国にします!」
城の塔から、空にいるであろう兄達に届くように、大声で叫んだ。




