フルノルゼ陥落
フルノルゼの王都。
炎に包まれる中、私達は進軍していた。
「なにが起こったの?」
「警戒しましょう。なにをされるかも分かりません」
唐突な王都の炎上と、砦に籠もっていた軍の降伏。
慎重に進んでいくが
「……タチアナ様」
「ええ」
血塗れの玉座。
王が死んでいる。
「誰がやったのよ、こんなこと」
「……軍の降伏理由も口を開きませんでしたし……」
軍の連中は無血開城という形で、武器と食糧を全て差し出してきた。
それは認めたのだが、唐突な降伏理由は
「そのうちそちらに使いがいく」と頑なだった。
「……偽りの降伏、って感じでは無さそうだったわ。苦渋の決断という感じね」
「私もそう思います。無理矢理の決断という感じです。そして、この惨状……」
「タチアナさん、ご機嫌よう」
背後から声。
警戒していた兵士達が剣を向ける。
「……こんなど真ん中に突然現れるなんて龍族以外あり得ないわ。剣を下ろしなさい」
この人は見たこと無いな。
「私の名はマディアクリア。龍族のリーダーをやらせてもらっています」
龍族のリーダー。
「……フェルライン、という方ではないのですね」
「ああ、フェルは今は外れてます。実質リーダーですけどね。私は次世代への単なる腰掛け」
次世代に向けて、か。
「それでなにをご説明頂けるので」
説明に現れたとしか思えない。
なんの説明か? この国の状況だろう。
「神教は割れていました。元神皇か、現神皇か。それは決着が付いたのですが、その処断のやり方に問題があった。元神皇を世法で裁こうとした。その結果、それでは困る連中が機先して国を焼いているんです」
意味が分からない。
「現神皇派が勝ったのでしょう? そこまでは分かります。しかしこのフルノルゼは元神皇派と聞いている。なぜその国の王を元神皇派が殺す必要が???」
無残に死んでいる王。
不意打ちで殺されたんだろう。
家臣らしき集団も死んでいる。
「はい。それが神教の膿。我等はこれから神教の腐りきった蛆虫どもを殺して回らないといけません。
神教の権威に隠れて好き放題していた連中。現神皇は、信仰から反することをしても問題にしないと明言した。
それは神が裁くことだからと。だが、帝国法を破る人間は今後神教として守ることはない。
それに慌てふためく外道共です」
「……このフルノルゼのようにですか」
「ええ。他にもこのような国がある。そこでタチアナさんにお願いです。フルノルゼの占領は認めますが、改宗は止めてください。それが兵士を降らせた理由です」
なるほどね。
頷こうとした瞬間。
「ふふふ♡ 勝手に決めないでくださいね♡」
突然、ど真ん中に聖女様が現れた。
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「ヘレンモール、腕は大丈夫か?」
アンジ公国。
既にヘレンモールの治療は終わっていた。
「はい。ご心配おかけしました」
王がヘレンモールの家に直接来たのだ。
ヘレンモールの現妻ラインナールは王の姪。
その子供は王族として扱われていた。
既に二人子供がおり、二人とも男児。
そして二人ともヘレンモール似の顔付きで聡明だった。
王はこの二人を溺愛しており、なにかある度に会いにくる。
「王宮で育てると言っておるのに」
「いえ、ラインナールの希望もありますから」
ラインナールは王宮での子育てを断りヘレンモールの家で子育てをしている。
「それでだ、ヘレンモール。怪我をしたところ申し訳ないが、また行ってもらわねばならん」
「もちろんです。次は油断しません」
アレは投擲にたまたま当たっただけの傷。
本来は引き上げる必要など無かったのだが
「違う、グラドニアではない」
「……? フルノルゼですか? もう落ちたので?」
オーディルビスのフルノルゼ侵攻はアンジ公国にも流れていたが、その結果は届いていない。
「ちがう。ヒギュル公国だ。神教の反主流派が内乱を起こしている。ヘレンモール、速やかに賊軍を討て」
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誰もいない祈りの間。
いつものように祈り続ける神皇。
そこに声が響く。
【神教は乱れています】
神皇は動じることなく
「当然です。当たり前の話です」
【なにもしないのですか?】
責めているわけでもない、純粋な疑問の声。
「今までがおかしかったのです。おかしい部分を正す。しかしそれは簡単に言うが、血が流れる事でしょう。神教に愛想を尽かす信者も大勢でる。自業自得です。我等が神から離れた教えをしていたからのこと。全ての汚れた血は出さなければならない」
神皇は天井を見上げる。
そこには女性が浮かんでいた。
【……神が、裁くですか】
「その通りです。裁くのは神。私達ではない。私達がするのは裁きではない。当たり前の、教義通りの信仰。それをやるのにどれほどの苦労が必要かも分かりませんが」
神皇は溜め息をつき
「リグルド様が出来て、我等が出来ないなどと言うことは、あってはならないのです。必ずやり遂げないとならない」
力強く断言した。




