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話を聞かない将軍達

 血塗れの光景。

 デブの貴族のクビをはねた。


 私が血を恐れる訳にはいかない。

 そのための試練だったが


「言うほど嫌ではないわね」

 血で喜ぶほど悪趣味ではないが、特別嫌でもない。


「片付けなさい。無駄飯ぐらいは駆逐する」

 まだアンジ公国は動かない。

 今のうちにグラドニアを抑えこむ。


「その上で人材登用をしましょう。これだけ人が多い国。埋もれている人材も多いはずだわ」



 城に戻ったら、宰相の体調が見るからに悪い。

「……病? 大丈夫?」

「……すみません。やはり、その。身体がこの国土にはあいませんで……」


 兵士は頑健。私も若くて健康だから、いきなり気候の違う国に行っても元気だが、宰相は無理だったか。


「申し訳ないわ。今あなたを失う訳にもいかない。オーディルビスに戻って療養しなさい」

「……お役にたてませんで……」


 なかなか上手くいかないな。

 しばらくは内政は私が見ないと無理か。

 人材が足りない。


 少し悩んでいると

『あー。タチアナさーん』

 頭に響く声。聖女様だ。


「はい? 聖女様どうされました?」

『なんか、エウロバさんから連絡があってー』

 のんびりした声に聞こえる念話。


『アラニアの援軍と、マリネスの援軍が鉢合わせして、戦っちゃってるみたいですー』


 =====================


「バルドス!!! 久しぶりだなーーー!!!!!」

「ツーバック!!! 貴様とこうやってまた戦える事を誇りに思うぞ!!!」


 アラニアとマリネスは隣国。

 共に似たようなタイミングで出発した。


 その結果鉢合わせしたのだが、本来は手を組み、共にアンジ公国の援軍に行く予定が、この二人は何故か戦い始めた。



「バルドス様!!! 相手が違いますから!!! 我等はオーディルビスと戦う援軍なんです!!! アラニアとではありません!!!」


 副将ネルウォンが必死に止めるが、バルドスは聞く耳を持たない。


「我等の相手はアラニアだ!!! しかもツーバックだぞ!!! 何度こいつに兵士を殺されたと思っている!!! これこそ神の導き!!!」



 一方でツーバックも

「将軍!!! マリネスは今回は敵ではありませんよ!!! 共に戦う援軍です!!!」


 それに対し


「やかましい!!! あのバルドスが戻ってきたんだぞ!!! あれだけ戦い抜いた歴戦の将軍の最後の戦だ!!! 俺達が看取らずに誰に看取る権利があるんだ!!!」


 二人とも好戦的で、人の話を聞かない。

 バルドスはこれが最後の戦だと覚悟して出陣しているし、ツーバックもそれを分かっている。


 ツーバックから見れば、弱兵のマリネスを必死にまとめあげ戦い続けたバルドスは尊敬の対象だった。


 敵だからこそ分かることがある。


「こいつは死ぬ前の最後の力を振り絞って戦いに来てるんだ!!! バルドスに付き添う連中も共に戦地で死ぬ覚悟をしている同士!!! その相手と戦わずして、なにが4将軍だ!!!」


 ツーバックの声に黙る部下。


「その通りだ! ツーバック!!! 俺はアラニアの暴挙を止める為に起き上がったのだ! 戦なくして、我が人生なし!!! 長年戦いあった集大成!!! マリネスの恐ろしさをその身で味わえ!!!」


 そして、両軍ぶつかりあった。


 =====================


 ヘレンモールは陣中で頭を抱えていた。

 もたらされた報告。


「……援軍に来るはずのアラニアと、マリネスが、何故か戦ってまして……」

 アラニアの使者が物凄い申し訳なさそうに喋る。


「……ツーバックと、バルドス……。まあ、確かに宿敵同士ではありますが」

 ヘレンモールは頭を抱えたまま返事をする。


「急いで停戦の使者を出しているんですが、二将とも聞く耳を持たず……」


 普通に考えれば「アラニアは援軍を妨害した」とも見える状況だが、ヘレンモールにはなんとなく通じていた。


 あの二人なら戦うんだろうな、と。

 それぐらいツーバックとバルドスは有名なのだ。


 アラニア四将軍のツーバックはもちろん。アラニアの隣国で、常に戦い続けたバルドスも勇将として名を馳せていた。


 例え敗れてもすぐに立て直す。兵法に忠実で融通はきかない。だがそれは基本に忠実で大敗はしないと言う事だった。


 何度敗れても、何度でも立ち向かう。

 その気性の強さは有名だった。

 そのバルドスが長い間大病で倒れていた。


 帝国の危機に立ち上がり援軍を申し出たバルドス。


「宿敵見れば、双方止めようが無いぐらいに燃えるのは分かるが」

 ヘレンモールは大きく溜め息をつき


「援軍が来ないならこれ以上の睨み合いは無駄だ。仕方ない。白兵戦に持ち込もう」


 =====================

 アラニアとマリネスが何故か途中で戦っている。

 その事で対峙しているアンジ公国の動きが出てきた。


「私は前線に一度戻る」

 とは言えいつまでも前線にいるわけにもいかない。

 宰相がいない現状、内政関係でやることは沢山ある。


「あれ? そう言えばマルウェスは?」

 マリネス公国に忍び込んでいた元スパイ。

 聞くことが色々あったのだが。


「分かりません。部屋にもおらず……」

「あいつも気まぐれね……」


 とりあえず前線。

 すぐにディルアルハと合流したが

「タチアナ様。向こうの動きが読めました。陽動を繰り返し、白兵戦に持ち込む構えかと」


「白兵戦ね。損害は気にせず突っ込んでくると」

「何度もぶつかるよりも、一気に決めた方が良いと思っているのでしょう。実際野戦でぶつかるとどうなるか」


 確かに。似た者同士の軍隊。

 うちは白兵戦できる人数は少ない。


 経験のあるアンジ公国とぶつかれば苦戦は必至。


「そう。悩むわね。どうする?」

「……はい。ちょっとどうかと思う策はあります。まずは中身を話しますと、野戦は避け例え奥深くまで敵が侵入しても気にせず籠城すべきかと」


 …………

「それって大丈夫なの?」

 普通に領地占領されてるということでは?


「はい。相手は帝国の支援を受けた援軍。グラドニアの危機に立ち上がった軍勢です。グラドニアの領地で酷いことはしません。つまり略奪される、領地を荒らされる心配が薄いのです。次にグラドニアの広さです。王都は領地の真ん中にあります。そこまで軍を進めれば自然と囲めます」


 なるほどね。


「とは言え心配な事はあります。ヘレンモールは一気に王都に攻め込みますからその攻撃を撃退出来るか? です。賭けになりますからそこはよく考えなければなりません。しかし事前に王都の守備を増やしすぎると、普通にヘレンモールは前線の薄くなった砦を占領してきます。それでは困ります」


 ふむ。つまり。


「私が寡兵で王都を守ると」

「……そのような形になってしまうので、どうかと思っているのですが……」


「それしか無いと思うわよ? ディルアルハは前線で籠もり、王都は私が守る。そして守りきったらアンジを囲んで攻撃する。これで行きましょう」


 =====================


 出陣するヘレンモールの前に神教の使者が来た。


 ヘレンモールは陽動作戦で野戦に持ち込む為の策を固め出陣寸前だったのだが。


「は???」

 神教からの指令はあまりにも常軌を逸した提案だった。


「もう一度言う。バルドスが寡兵でアラニアと互角に戦っている。お主もすぐに向かい、バルドスの救援に向かうように」


「……あの? 私達は元々オーディルビスからの侵略を守るために援軍を出したわけでして。アラニアと戦うわけではありませんよ?」


 ヘレンモールにとって最終的に戦うのはアラニア。だが今は違う。あくまでもオーディルビスの侵略戦争に立ち向かう援軍なのだ。


「それは建て前だ。今アラニアは苦戦している。今こそアラニアを叩きのめす時」


 神教とアラニアは対立関係にある。

 ヘレンモールはそれは理解しているが


「バルドスの善戦は捨て身だからであってですね。一時の優勢で物事ひっくり返すとか、戦争ではありえませんよ?」


 重大な裏切り行為になるし、そもそもアンジはアラニアに宣戦布告をしていない。


「マリネスとアラニアは宣戦布告状態がずっと続いていたという話ですから、改めて宣戦布告の必要はありません。しかしアラニアと我等アンジは正式に停戦手続きをしています。攻めるのはマズい」


 マリネスも、バルドスが元気な時に一度停戦したのだが、その後の国境の競り合いで停戦協定は破棄されていた。


「一気に叩きのめせば関係なくなる」

「第一軍を叩けたところで、アラニアにはまだ三軍もいます。勝ち目はない」

 ヘレンモールは懸命に反論をする。


「分かった。ならばおぬしの王に聞いてくるだけだ。少し待っていろ」

 そう言って神教の使者は消え失せた。


 =====================


「元神皇の処断は簡単ではありません」

 龍族の館。


 フェルラインの報告を聞きながら龍姫は爪を噛んでいた。


「……現神皇の体制は固まっていない。でも固まるのを待ってもいれないわ」


「はい。現在はまだ元神皇へ忠誠を誓っているものも多い。それが反アラニアを煽っています。今神教は、反アラニアの元神皇派と、アラニアと中立な状態の現神皇派で対立している状況です。ここで姫様が元神皇を処断となれば、姫様が反アラニア勢の敵となってしまいます」


 フェルラインの冷静な言葉に龍姫は必死に考える。

「…………」

 口は動くが声としては出ない。

 それを見ながら


「……姫様、結論としては元神皇の所業を公開するしかありません。それで処断とするしか」

 フェルラインからの話に頭を抱える。


 そんなことをすれば

「信仰とは自発的にするものです。上層部に失望して離れる信者を誰が責めましょうか? 神教が正しいならば、必ずやこの苦難も乗り越えるはずです」


 フェルラインは神教を信じていない。

 主の龍姫は熱心な神教の信者だが、それはそれとして見ていた。

 そして嫉妬心。


(姫様の心には、まだ神教の幹部がいる)

 リグルドとハユリ。


 龍姫を勧誘した二人。二人は80年以上前に死んだ。

 その二人の思い出をまだ大事にしている龍姫。


「姫様、御決断を」

 フェルラインは頭を下げ、龍姫は唇を噛み締めていた。

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